江戸のポンコツ陰陽師、時空を越えて安倍晴明に会いに行くも・・・・・・予想外だらけで困ります
渋川宙
第1話 師匠が欲しい
泰平の世が続く時代。
ここに一人、切に師匠を望むものがいた。
強くなりたい。
自立したい。
頼られる存在になりたい。
そう強く思い、同時にそれを叶えてくれる師匠を探しているのだ。
だが、現実にはそんな師匠はおらず、また、探してもいるものではなかった。
「なぜだ。どうして誰も解らないと言うのだ。こういう感じでと、ふんわりしか伝えられないのだ。儀礼として決まっているからとしか答えないんだ」
師匠を探す
彼は京の都で
「何でだ?」
十七歳と年若くして陰陽博士になれたのは、安倍晴明から連なる土御門家の人間だからだ。次期当主だからだ。だが、そんな理由だけでいていい地位じゃないだろうと、日々悩んでいる。
しかし、誰もその陰陽道が何たるかを答えられないのだ。現当主たる父ですら、決まり切ったことだから考えなくて良いなんて言っちゃうのだ。つまり、本質を知る人はこの時代に皆無なのだ。
もちろん、そうなった理由は解っている。平安の世から今の江戸の世までに多くの時間が流れてしまった。その間に戦乱が続いた。おかげで伝承が途絶えてしまった。だから、残った資料や口伝されていたことを細々と続けるしかないのだ。
でも、陰陽師ってそれでいいのか?
泰久は真面目に悩んでいる。そして説話として残る安倍晴明の数々の奇跡に思いを馳せ、やっぱり陰陽師ってただ儀礼的に祭りをしていればいいものじゃないだろと思う。
思うのだが、誰も知らないのだから教えてもらえない。自分でも調べてみるのだが、あまり頭がいいとはいえず、捗らない。
「ぐぬぬっ」
泰久は陰陽寮にある自室の机に向いながら、唸ってしまう。
「また博士殿は謎の悩みに取り憑かれているぜ」
すると、廊下から部下たちの声が聞こえた。
「何が不満なんだろうな。帝の覚えも目出度く、何不自由ないっていうのに」
「全くだ。土御門というだけで、大した努力なんて必要ないのに」
「そもそも、今や暦作りも幕府がやるから、陰陽寮なんてやることないよな」
「なあ」
そんな声が聞こえ、泰久はぎりぎりと奥歯を噛み締める。
人の悩みを何だと思っているんだ。
思わずどんっと机を叩いてしまった。その音に、好き勝手言っていた部下はそそくさといなくなる。
「暦作りだけじゃない。星も読めない、物の怪や幽霊だって祓うことの出来ない。あろうことか時刻すら正確に測れない。こんなの、陰陽師じゃない」
ううっと、泰久は頭を抱えて唸る。
要するに、昔の陰陽師が出来たとされることが、一切出来ないのだ。
情けないし、それと同時に悔しい。
「何とか安倍晴明と会えないだろうか。そういう秘術って残っていないのかな」
こうなったら過去に遡ってでも陰陽道を習いたい。
泰久の思いはいよいよ強くなり、それと同時に、何とか安倍晴明に会えないかと考え始める。
「ともかく、書庫を探すか」
秘術はどこかにあるはず。泰久はそう思うと居ても立ってもいられず、そそくさと書庫に向った。そして、大半は読まれずに積まれている、土御門の者しか見てはならないという書物をひっくり返し始める。
教えて欲しい。
本物の陰陽師になりたい。
そんな思いが届いたのか、三日後。
「これは」
ついに時空を操れるという巻物を発見することに成功した。
が、中を確認するも、護符のような紋様が書かれているだけで、内容の説明がない。
「くっ、これが目的のものっぽいのに」
直感が訴えてくる。ポンコツでお飾りとはいえ陰陽博士。そういう直感が当たることは解っている。
解っているけど、使い方が解らない!
「ああもう。どうして何も出来ないんだ。俺は、俺は安倍晴明のような立派な陰陽師になりたいだけなのに!」
思わず絶叫した言葉に、哀れになったのか巻物が反応した。巻物からもくもくと煙が立ち上り始める。
「えっ」
それに泰久は驚いていたが
「ええっ!?」
さらにかっと大きな光りに包まれ、ただただ悲鳴を上げるしかないのだった。
「おい」
気を失っていたのか、誰かが声を掛けてくる。
「おい、邪魔だ。退け」
しかし、そいつはあろうことか蹴飛ばしてきた。これでも陰陽博士の自分に何たることか。泰久は腹が立って起きた。
「何を・・・・・・」
が、起き上がったところで固まってしまった。
さっきまでいた陰陽寮ではなく、なぜか道の上に寝ていた。さらに蹴飛ばしてきた人。めっちゃ整った綺麗な顔をした貴人だ。
「なんだ。死んではいなかったのか。行き倒れるならば余所でやれ」
起き上がった泰久に、貴人はとても酷いことを言う。
「いや、あの」
泰久はどうしたものかときょろきょろと見て、周囲の風景が全く見覚えのないものに変わっていることに気づいた。
「えっ、あれ」
混乱する泰久に、貴人はますます冷めた目を向けてくる。
「おい、ここは俺の家だ。邪魔だと言っている」
さらに、さっさといなくなれと態度も冷たい。
しかし、その顔がなぜか知っている顔のように見えた。そしてあの巻物のことを思い出す。
「あのぅ、ひょっとして貴方様は安倍晴明様ですか」
泰久の問いに、貴人は虫けらでも見るような目を向けてくれるのだった。
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