女子高生と彼女③

 太陽の日差しが強く、車内だというのに肌をじりじり刺激する。

 こんな日に外なんか出たくない。

 クーラーが効いた部屋でゆっくりしていたい······と思っているが、口に出す訳にはいかない。

 助手席には、JKがいるからだ。

 そう、俺は今この美少女、中里ありさとデートをしている。


「今日はどうするか決めてあるのか?」


「もちろんコーキさんに任せます」


「了解、じゃあとりあえず北に進んでくな」


 こんな事もあろうかと予め、行く場所を決めてある。

 ただ、気に入ってもらえるかはわからない。


「どこに行くんですか?」


「まあ、着いてからのお楽しみってやつだな」


 高速道路に乗り、一気に急加速していく。


「コーキさんって運転上手ですよね、私のお父さんなんて怖くて高速道路に乗りたがらないんですよ」


「人それぞれじゃないか? 別に俺はそんなに上手いとも思ってないから」


「そういうものですか」


 確かに高速道路にあまり乗らない人からすると、少し苦手意識があるのかもしれない。


「周り山ばっかりになってきましたね」


 あれから三十分ほど車を走らせている。

 その間、小説やアニメ話題に花を咲かせた。

 山に囲まれており、標高は1000メートルを超えていた。


「あと十分位で着くぞ」


「はーい」


 高速道路を降り、ひたすら山道を進んでいく。

 窓を開けると、川のせせらぎとひぐらしの声が心地よく響いてきた。


「コーキさん! 前に鹿がいますよ!」


 沿道の木々の間から、鹿の群れ見えた。


「お、これでこそ山道だな」


 自然を楽しみながら、車を走らせていく。


「着いたよ」


「おっほー! いいですね」


 車から降り、深呼吸。

 澄んだ空気がとても爽やかで、鳥のさえずりが周りから聞こえる。


「今日来てみたかった所はここ」


 木造のペンションの大きな看板に、『熊の公園』と書かれていた。


「熊の動物園ですか?」


「そうだよ、一度来てみたかったんだ」


「こんなところにあるなんて初めて知りました」


 ペンションの中へと入り、入場料を払う。

 外に出ると、10メートル程のコンクリート塀がいくつもあり、階段を上がって上から眺めれる様になっていた。

 階段を上がると塀の中には多くの熊がいた。


「コーキさん! 見てください、大きいですよ!」


「すごいな······」


 熊から10メートル以上離れているにも関わらず、迫力がすごい。


「こっちはツキノワグマですって!」


 ツキノワグマは、胸の辺りに三日月のような模様のある熊だ。

 こんなに遠くに離れているのに、その大きさが伝わってくる。

 少し歩くと先程より一回り大きいヒグマがいた。

 2メートル位あるのだろうか。


「こんな大きさの熊なんて初めて見たぞ······」


 たまに熊に襲われるなんてニュースがあるが、こんなのに襲われたらひとたまりもない。


「正直熊だけの動物園なんてって思っていましたけど、めちゃくちゃ楽しいです!」


「なんて」って······しかし楽しんでくれたならそれでいい。


「コーキさん、エサありますよ!」


 年季の入った背の低い自販機には、熊の餌が売っていた。

 100円硬貨を入れボタンを押すと、餌の入った紙コップが出てくる。

 ありさが餌を投げようとすると、大勢のくまが手を挙げて必死にアピールをしてくる。

 こうしてみると可愛い······いや、やっぱり怖いな。


「コーキさんすごいですよ、めっちゃねだってきます」


「おーそうだな」


 アピールの仕方もそれぞれ違って面白い。

 少しだけ愛着が湧いてきた。


「あっちで小熊と写真撮れるらしいですよ! 行きましょ!」


 自分より若いからか、機動力が半端じゃない。

 普段動かないぶん、ついて行くので疲れてしまう。

 室内に入ると木のベンチがあり、その近くに飼育員と小熊がいた。


「小熊との撮影どうですか?」


「はい! やります!」


 ありさは即答だった。

 小熊とはいえ鋭い爪が怖い。

 噛まれないためだろう、口輪が着いていた。


「あのー、引っかかれたりしませんか?」


 もしもの事があったら怖い。


「全然大丈夫ですよ」


「コーキさん心配しすぎですよ」


 なぜ2人はそんな平然としてるんだ。

 熊だぞ、危ないじゃないか。

 飼育員に案内されるまま、ベンチへと座る。


「じゃあ彼氏さんはこれ持っててくださいね」


 そうして手渡されたのは金平糖だった。

 これをどうすればいいんだ。


「彼女さんは横に座ってください」


 カップルと思われてるのか······少し恥ずかしい。


「はい、じゃあカレンちゃんを膝の上に乗せますね」


 カレンちゃん? 誰?

 飼育員が小熊を膝の上に載せてくる。

 いやいやいや、めっちゃ怖いんだけど。


「じゃあ彼氏さんは、カレンちゃんの前に金平糖持ってきてください」


「あ、はい」


 言われるがままに、金平糖を目の前に持ってくる。

 口輪をしているのはわかっているが、それでも噛まれないか心配だ。

 金平糖が食べたいのか、手に口を近づけ、鼻息を荒くさせている。


「なあ、熊って金平糖好きなのか?」


「蜂蜜が好きなイメージあるんで、甘いものが好きなんじゃないですか?」


「あー確かにそうだな」


 などと話していると、カメラの準備が出来たようだ。


「はい、じゃあ撮りますよー。3、2、1、0」


 カウントダウンが終わると同時に、フラッシュがたかれる。


「はい、じゃあ金平糖あげてください」


 手を近づけると、舌を器用に使い金平糖を食べる。

 爪が腕に当たって怖い。

 そんな横でありさは小熊の頭を撫でていた。


「お疲れ様でしたー写真の方はすぐに出来ますので、少々お待ちください」


 小熊を降ろし、ベンチから立ち上がる。


「コーキさんめっちゃビビってましたね」


「いや、あれは怖いだろ。まさか膝の上に乗るなんて思わなかった······」


 精神的に疲れた。


「お待たせしましたー2枚で良かったですね?」


 そう言って、フォトボードを手渡す。

 中を見ると、カメラ目線で笑顔のありさに顔がひきつっている自分、金平糖に夢中の小熊のカレンちゃんが写っていた。

 お代の2000円を渡し、室内を出る。


「コーキさん面白い顔してましたね」


「誰だってああなるよ」


 時計を見ると、2時を過ぎていた。

 帰りのことを考えると、そろそろ出発しないといけない。


「そろそろ時間だけど大丈夫か?」


「そうですね、帰りますか」


 最後に少しだけ園内を散策して、熊の公園を後にする。

 車を発進させ、家へと向かう。


「今日はありがとうございました。ワガママ聞いてもらちゃって」


「俺も楽しめたから問題ない」


「今日は小説の参考になりそうでしたか?」


「あー、そんなこと言ってたな」


 すっかり忘れていた。

 小説のネタ探しもしないといけなかったな。


「参考になったかどうかは分からないけど、デートがどんな感じだったかは少しだけわかった気がする」


「そうですか、それなら良かったです」


 そこからしばらく沈黙が続いた。

 ありさも熊の公園から、テンション上がってたからさすがに疲れたんだろう。

 横目でありさの顔を見ると、すごく真剣な表情をしていた。

 何があったんだ。


「コーキさん」


 何かを決意したかのように、こちらに視線を向けてくる。


「私と付き合ってください。冗談ではありません、本当の気持ちです」


 俺は人生で初めて、告白をされた。

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