女子高生と彼女①
雨が車を強く打ち、中にいてもその強さがわかる。
傘を差す人達が、それぞれ自分の行くべき場所へと向かって歩いていく。
そんな光景を眺めながら、駅前の路側帯でありさが来るのを待っていた。
車の中臭くないよな、汚くないよな。
待っている間、そんなことばかり考えていた。
仮にも男だ、あまりに女の子に嫌われたくはない。
駅の中からありさがこちらに向かってくる。
傘に着いている水滴を振り落とし車内へ入ってきた。
「コーキさん、お待たせしました」
傘を閉じていた少しの間に、豪雨が彼女を襲う。
中に入り込むと、Tシャツが濡れ 下着が透けていた。水色か。
その姿に少しだけ色気を感じた。
勘違いしないで欲しい、見たくて見た訳じゃない。
乗り込んだ人を見てしまうのは自然な事だ。
誰だってこうなるに決まっている。
だが、あまりじっと眺めると視線に気づかれるだろう。
後部座席のタオルを取り出しながら、自然に視線を反らす。
「これ使っていいよ」
「ありがとうございます。コーキさん」
23歳とはいえ、もう半分おっさんに片足を突っ込んでる。
女子高生を意識する時代は終わったんだ。
そんなことを考えると虚無感に襲われる。
「コーキさん、どうしましたか? 行きましょうよ」
ありさの方を見ると肩にタオルをかけていた。
もう透けた下着は見れない。残念だ。
「コーキさんなんか視線がいやらしいです······そんなに見たいんですか?」
そう言って、肩にかけているタオルを取ろうとする。
やっぱバレてたか。
そういう視線に敏感だと聞くが、やっぱり本当なんだな。
一種の自己防衛手段だと思っていた。
「すいませんでした、大丈夫です」
どうせ誤魔化してもバレてるんだ。素直に謝ろう。
「別にコーキさんだったら見せてもいいですけどね······」
ん? 見せてもいい?
今確かにそう言ったよな。
声が小さかったため、雨音に邪魔をされて聞こえづらかった。
ただ、聞き返すのも野暮だ。
ここは聞こえなかった振りをしよう。
これが紳士の対応だ。
「じゃあ出発しようか」
「はい、お願いします」
車のエンジンをかける。
雨で前が見えにくいため、慎重に車を発進させていく。
ありさの掻き消された言葉が、脳内にこびり付いて離れない。
というかこれから女子高生が家に来るんだよな。
最近は、学生の誘拐など物騒なニュースもよく耳にするが、俺もそんな目で見られるのだろうか。
いや、あくまで合意の上だ。
多分大丈夫······だよな?
だめだ、不安になってきた。
「コーキさんの家ってどこにあるんですか?」
「ここから10分くらいの場所だよ」
「ふーん、結構駅から近いですね」
「そうだね」
うん、誰であってもコミュ障は変わらない。
絢香だけは別だがな。あいつは人のテリトリーに容赦なく侵入してくる。
こちらがどれだけ大きく頑丈な壁を築いても、巨人の如く破壊してくる。
ただありさも同じような傾向がある。
というか彼女の場合、段階をすっ飛ばしていきなり物理的に距離を詰めてくる。そういう所は絢香以上なのかもしれない。
「コーキさんってなんで小説書いてるんですか?」
「まあ、自己欲求を満たすためかな」
言ったことは間違ってはいない。
ただ、薄々は勘づいている。少しづつ承認欲求が芽生えていることに。
「そうなんですか······私も同じようなもんですね。ただ、誰かに認めて貰いたいっていうのもあるんですよね」
彼女も同じような事を考えていた。
創作というのはそういった感情を持つ人も少なくないってことか。
「着いたぞ」
車を停め、マンションの中に向かっていく。
「結構立派なとこですね、家賃とか高そう」
確かに決して安い値段ではない。
1LDKで月に9万円ほどかかる。
まあ交通アクセスや、周りの施設などを考えると、まだお値打ちな方だが、一人暮らしにしては広すぎる。
部屋の鍵を開け中に入る。
「おじゃましまーす」
ありさはキョロキョロと周りを見ながら入ってくる。
「結構広いですね、男の一人暮らしにしては部屋も綺麗ですし」
比較対象があるってことは、他の男の家に上がり込んだことがあるという事か。
「あ、ちなみに比較対象はテレビで見ただけで実際に入ったのは初めてですよ。大丈夫、処女です」
「誰もそんなことまで聞いてないわ」
なんて返事をしたが、少しだけほっとしている自分がいた。
なんで安心してるんだよ。
自分にツッコミを入れながら、洗面台にあるドライヤーをリビングに持っていく。
さすがに洗面所を見られるのは恥ずかしい。
「これ使っていいよ」
ありさの髪が少し濡れていたので、ドライヤーを渡す。
「ありがとうございます」
近くのコンセントに刺して、艶のある黒髪を乾かす。
シャンプーの匂いだろうか、甘い匂いが部屋中を漂う。
少しだけ興奮した自分が恥ずかしい。
よくよく考えてみれば、なんで彼女は家に来ようと思ったのか、全く見当がつかない。
「もう大丈夫ですよ」
コンセントを抜き、洗面所にドライヤーを戻す。
その僅かな間に邪な気持ちがあったことは否定しない。
仮にも男だ、もしもなんてことを想像するに決まっている。
「で、今日はどうするんだ」
「何も考えてません」
おいおい、女性経験のない俺にはそれはレベルが高すぎる。
二人で何ができるんだよ。
無言の時間が続く。
鼓動が速くなるのを感じる。気まずい。
「あの──」
ありさが何かを言おうとした瞬間にインターホンが鳴る。
タイミング最悪だろ。
画面を覗くと、そこに映っていたのは絢香だった。
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