第16話 部活動

朝。


「たらららららーん」


文恵が、消しゴムを取り出してメロディーを歌う。

目の前にはロメリアと俺。

俺達は見て欲しいものがあると言われ、座らせれている。


「今回はこの消しゴムカバーを使います」


そう言って文恵は、持っていた消しゴムのカバーを取り外した。

長方形の、何の変哲もないカバーに見える。


「このカバーを、指にはめます」


人差し指にはめた。

そして、もう片方の手でそのカバーごと指を覆った。消しゴムカバーの付いた人差し指だけを握る。

すると、その手を握ったまま上へ引き抜いた。

人差し指には消しゴムカバーが見えない。

しかし......。


「はい」


握った手を離すも、消しゴムカバーは出てこなかった。

引き抜いたはずなのに、どこかへ消えてしまったのだ。

そして文恵は、そのカバーが付いていたはずの人差し指を自分の背中へと持って行き、「はいぃ!」と声を上げながら勢いよく目の前へ突き出した。

その指には、無くなったはずの消しゴムカバーが付いていた。


「おー」


俺はパチパチと拍手をする。

文恵は、もの凄いドヤ顔を見せる。流れるような綺麗な手品だった。結構練習したのだろう。

中々良かったぞ。

しかし何故突然手品なんかやり出したのか分からないが、まぁ何かのテレビ番組の影響とかだろう。マジックとか手品を見ると、自分もやりたくなる気持ちは分からなくも無い。


「小坂さんは魔法が使えるのですか!?」


やけに大袈裟な驚き方をするなと思ったら、そういう事だったのか。

ロメリアは、文恵の手品を見て魔法だと勘違いしていた。


「え、え?いや手品だけど......」

「テジナという魔法ですか?そのようなもの、私は初めて見ました」


もしかして、魔法が存在する世界には手品が無いのか?手品は、超能力や魔法が存在しない世界で、まるで存在するかのように見せることが本質のはずだ。

元から魔法が存在するのであれば、ワープや空中浮遊などを見せたところで何も不思議では無い。

それか、単にロメリアが手品の存在を知らないだけか......。


「ロメリア、これは魔法ではなく魔法に見せる『手品』というものだ。手に品物の品だ。」

「手品......?ですか。しかし、消しゴムカバーは消えてました」

「それはテクニックで消えたように見せているだけで─────」

「くく」


と、文恵が変な声を漏らした。

何だと思い文恵の方を見ると、文恵はついに堪えきれなくなったかのようにゲラゲラと笑いだした。


「あっはっはっはっは!!ロメリアちゃん面白すぎ」

「おい文恵」

「だ、だって、魔法って......!くく」


文恵は、目に涙を浮かべるほど笑っていた。

ロメリアは、何がそんなにおかしいのかと頭にハテナを浮かべていた。


「これは手品と言ってな。魔法とか超能力があるように、テクニックで魅せるものなんだ」

「そ、そうでしたか。とんだ勘違いをしてしまいました。すみません」

「いやいや謝ることじゃないよぉ。やっぱロメリアちゃんと居ると楽しいわぁ」


そりゃ良かった。

もしかして、本物の魔法を手品のように見せれば、ロメリアならめちゃくちゃ凄いのが出来るんじゃないか?

他人と仲良くなるためにも、一つくらい手品を覚えておくと何かと便利だろう。


「ねぇ君、もしかして例の転校生ちゃん?」


突然、話しかけられた。

振り向くと、男二人がすぐ側に立っていた。

俺には目もくれず、ロメリアだけに声を掛けていた。

見覚えの無い顔......またこの教室に余所者か入って来たのか。


「は、はい。初めまして。ロメリア=アルメリアと申します」

「へー本当に可愛いね君。俺達三年なんだけどさ、ちょっと遊ばね?」


三年.....か。金髪にピアス、金属のネックレス。そして煙草の匂いを消すためだろう、濃い匂いの香水と煙草が混ざって吐き気がするほど臭い。俺が一番苦手とする、チャラチャラしたタイプだ。

大方、可愛い転校生がいるという噂でも聞いたのだろう。

お目当てはロメリアのようだ。


「い、いえ、お気持ちだけで結構......です」

「えーいいじゃん。放課後さ、楽しいとことか行こーぜー」


ナンパだ。

ロメリアも、よく分かっていないのかもしれないが本能で嫌悪感を感じ取っているのだろう。脅えているのが見て分かる。

こいつら、確実にロメリアを口説いているな。

しかし、こんな奴らにロメリアを連れて行かれる訳にはいかない。

俺がロメリアを守ってやらければ。


「あ?何?なんか用?」


俺は席を立ち、三年を見る。

俺の存在に今気づいたと言わんばかりに、ガンを飛ばしてきた。

流石に三年二人を相手にして、勝てる気はしない。

騒ぎは起こしたくないし、俺自身目をつけられるのも御免だ。


「えーと、先生に呼ばれているのでロメリアはちょっと.....」

「別にそれ終わってからでいいじゃん。放課後だったら全然カンケー無いし」

「いやそれは.....」

「何?おま彼氏?」

「いや、そういう訳では無いですけど.....」

「じゃ口出しすんなや!」


ドンッと肩を押された。

不味いな.....面倒なことになって来た。

頼りの園静は今は居ない。

他のクラスメイトも遠くから傍観しているだけだ。

それもそうだ。先輩達と変に関わっても、ろくな事にならないからな。


「おい、どけって」


やるしかない。

俺が、ロメリアを守らなくてはならないのだから。


「うぜぇなァ!!」


ボコッと、鈍い音がした。

それは俺の腹から聞こえた音だ。腹パン。

握られた拳が、俺の腹部へとめり込む。


「ッ!?」


動かない。

蹲らず、声も漏らさず、痛がる素振りすら見せない。


「きっ、フンッ!フンッ!」

「な......何だよ......お前......」


肩を捕まれ、何ども殴られる。

ボコンボコンと音がするが、それだけだ。俺は微動だにせず、ただ殴られた衝撃で体が動かされるだけだ。


「もう終わりですか?」


俺がそう聞くと。


「き、気色悪ぃ」

「おい、もう行こうぜ」

「チッ、つまんね」


先輩達は、飽きたように教室を出て行った。

何だ殴るだけか。

まぁ今回はこれだけで済んで良かったな。顔まで殴られたら、さすがにどうしようか迷っていた所だ。


「す、スミトさん!?だだ、大丈夫ですかッ!?」


ロメリアが、ものすごい勢いで駆け寄って来た。

今にも泣きそうな顔をして、まるで俺が死にかけてでもいるかのようなリアクションだ。


「全く問題ない。俺はピンピンしている」

「いや大丈夫じゃないでしょ。ボコンボコン言ってたけど」

「大丈夫だって」

「しかしお身体が......す、すぐに回復まほ──────」

「ロメリア」


俺は、ずっと焦ってパニックになっているロメリアと文恵に落ち着かせるように言う。


「大丈夫だ。何ともないぞ?ホラ。だから落ち着いて、安心してくれ」

「そ、そうですか......良かったです」

「本当かよぉ」


文恵は疑いながらも、分かってくれたようだった。

ロメリアもやっと納得してくれたようで、少し不満そうにしながらも、安堵の表情を見せてくれた。

全く、心配性なメイドだ。あれぐらい大したこと無いというのに。

自分の事だったものだから、迷惑を掛けてしまったと思っているのだろう。

そんな事、気にするほどのことでは無い。それよりも俺は、上手くやれただろうか。喧嘩とかはあまり得意では無い。殴り合いなんて真っ平御免だ。だから、こんな事しか出来ないが......それでロメリアが守れたのなら満足だ。


「おはよう。ってあれ?元気ないわね。何かあったの?」


少し落ち着いた所で、教室に詰田が入って来た。

教室のピリついた雰囲気を感じ取ったのか、何かあったと分かるらしい。


「いや何も」

「そう?」


詰田は俺をまじまじと見て、次に文恵を見た。

文恵はビクッとして俺の様子を伺うと、そっぼを向いてヒューヒューと口笛を鳴らして誤魔化した。鳴ってないけどな。てか誤魔化し方が古いな。

それを見た詰田は「ふうん」と鼻を鳴らして納得した様子を見せた。


「ま、いいわ。さっき廊下でチア部の子に言われたんだけど、アルメリアさんをチア部に誘ってくれないかって」


何で詰田経由なんだ。

自分で言いに来いよな。


「まぁ忙しいんでしょ。チア部って人気だし、他の運動部によく呼ばれるから」


最近、ロメリアは部活に呼ばれっぱなしだ。

ロメリアの人気と言ったら、入学初日に比べれば少しは落ち着いたものの、やはりかなりの人気を誇っている。

この前のバスケを見られた訳では無いようだが、どの部活動にもロメリアは引っ張りだこだった。

毎日違う部活を体験している。

女バスに女バレにソフトボール、テニス、あとサッカー部のマネージャーだったか。

ロメリアは「部活動は遠慮させていただきます」と言って、どの部活にも属していないのだ。

断るにしても少し体験してからの方が良いと言った俺の言葉を聞き、一応一回は体験してはいるようだが......どれも楽しいと言っておきながらも断っている。

もしかしたら、俺に気を使っているのかもしれない。俺のメイドであることを優先し、自分のことを後回しにしているかもしれない。ロメリアならやりかねないな。

だとしたら、俺のせいだ。

ロメリアには、好きな部活に入って欲しい。


「場所は、どこへ向かえばよろしいでしょうか」

「あー、確か今日は体育館って言ってた気がするわ」

「分かりました。では放課後に」


チアダンス部か......きっと、ロメリアに応援してもらえばどんな部活動でも勝てるようになる事だろう。そうなれば、我が校は最強の高校となるな。

なんて、阿呆な考えを巡らせていると教室の扉が勢いよく開いた。今日は......というより、いつも人気者だなロメリアは。


「ロメリアアルメリアちゃんは、ここに居らっしゃいますか?」


またロメリア目当ての人がやって来た。

本当にロメリアは人気者だ。一日に一体何人がロメリアに会いに来るのだろうか。


橙華とうかじゃない。いきなりどうしたの?」

愛理あいり!そっか、同じクラスだっけ」


どうやら詰田の知り合いのようだった。


「どうも、金城きんじょう 橙華とうかです。貴方が、あの美少女で有名なロメリアちゃんかしら?」


金城橙華と名乗った生徒は、まるでお嬢様のような丁寧な態度で、ロメリアではなく俺に挨拶をした。何をどう間違えれば俺がロメリアだと思うのだろうか。

学校一有名な美少女がこんな男だとでも言うような、イカれた噂が流れているのか?


「そう見えるか?」

「否定しないって事は、そういう事なんでしょ」

「いや違ぇよ」


否定しておいた。というかどう見てもロメリアって顔じゃないだろ。

何だこの人は。

恐らく天然などではなく、最初から知っていて俺に聞いてきたのだろう。顔がニヤニヤと笑っている。一体何がしたいのやら。


「橙華、アルメリアさんならこっち」


詰田が、ため息を付きながら教えてあげた。

そのヤレヤレ感を見る限り、この人はいつもこうなのだということが分かる。


「おーそっちだったか。初めましてロメリアちゃん、私は金城橙華ちゃんだよ。よろしくね」

「キンジョウトーカチャンさんですね。よろしくお願いします」

「うふふ、面白い子ね。私の事は橙華で良いよ」


初手から笑われてしまった。

まぁこういう所が、ロメリアの可愛いところではあるのだがな。


「早速けど、単刀直入に言うわ。『超研ちょうけん』に入らないかしら?」

「うわ」


「うわ」と言ったのは詰田だ。


詰田が嫌そうな顔をするということは、恐らくまた面倒くさい事になりそうなのだろう。


「チョウケン......ですか?」

「そう。『超能力研究部』または『超常現象研究部』のどちらでも良いんだけど、とにかく略して『超研』」


適当だな。


「部活動......でしょうか?」

「そう。その勧誘に来たって訳。内容は後で詳しく説明するから、取り敢えず部室に来てみないかしら?」


また部活動か。

本当にロメリアは人気者だな。

確かに、転校生というのはある程度人気になる傾向があるような気がするが、それにしてもこれは異常だ。こんなに部活に勧誘される人など見たことも無い。


「申し訳ございません。先程、チア部の方にお誘いをいただいておりまして......」

「あら、じゃあ明日でも良いわ。別に明日でなくても、他の日でも良いし。空いてる時で良いわよ」

「すみません、ありがとうございます」


余裕のある人だな。

他の部活は、我先にとロメリアを欲しがっていた印象だが......この人に焦りは見えない。


「でも是非来て欲しいな。転校生だなんて、中々見られない属性だからね」

「属性?」

「そ。こんな時期に転校してくるなんて、中々珍しいでしょ?私としては、何か秘密があるんじゃないかと思った次第よ」


あぁ、なるほど。

ロメリア自身ではなく、転校生というレッテルが欲しいのか。他の部活は、ロメリアのルックスに惹かれているようだが。どうやら金城さんは違うみたいだ。


「じゃあ、超研はロメリアちゃんのことをいつでも待ってるからね。あ、君達も是非来て欲しいからね」


そう言って、金城さんは教室を出て行った。

何だか台風のような人だったな。

荒らすだけ荒らして、すぐに去って行ってしまった。

しかし、俺達も勧誘された......のか?

今まで誘われていたのはロメリアだけだったが、「君達も」という事は俺や文恵も入っているのかもしれない。

超研か......あまり良い響きではないが。


「文恵はどうする?行くか?」

「行くわけないじゃん。そんな面倒くさそうなの」

「だよな」


まぁ文恵がそう言う事は分かっていた。

今のはただの確認だ。


「詰田は?金城さんと知り合いなんだろ?」

「まぁね。橙華は中々ヤバい人よ。だからもし行くなら、私にも着いて行かせて欲しいわ。アンタ達だけじゃちょっと心配だし」


俺はまだ行くとは言っていないが。

まぁ行くけどさ。俺だってロメリア一人じゃ心配だ。チア部の体験入部だって、是非とも見に行きたい所だ。ロメリアのチア姿が......じゃなくて、ロメリアが頑張る姿も見たいしな。


「ロメリアはそれで良いか?」

「はい。むしろ、気を使わせてしまい申し訳ございません」

「いいっていいって。私がやりたくてやってる事なんだから。逆に、鬱陶しかったら言ってくれても良いんだからね?」

「鬱陶しいだなんてそんな......皆様にはいつもお世話になってばかりです」

「困った時はお互いに助け合うの。それが友達ってもんでしょ?」

「友達......」


ロメリアは、ハッとなった。

友達という言葉がやけに響いたようで、暫く硬直して嬉しそうに笑顔を漏らした。

皆はメイドではなく、一人の友達としてロメリアを見てくれているのだ。

それが嬉しいのだろう。


「結局いつにするの?」

「では明日に。あ、どこへ行けばいいのか聞くのを忘れていました」

「あらら......橙華ったら、部室の場所教え忘れたわね。まぁいいわ。私が知ってるし、案内してあげる」

「ありがとうございます。助かります」


超研の体験入部は明日になった。

なら、今日はチア部の体験だな。

ロメリアのチアダンスは是非とも見たいものだが......流石に男が行くのは気持ちが悪いってものだ。

ソフトボールやテニスの時は、外だから遠目から見ることが可能だったが、流石に室内だと見ている事がバレバレだ。

体育館だし、たまたま通りかかったという言い訳も出来ない。とても残念だが、今回は諦めるしかないな。

その代わりに、今日は俺が夕飯を作ろうか。

ロメリアも部活ばかりで疲れているだろう。たまにでも、俺がロメリアの疲れを癒してやらないとな。



──────────



「隅人。もう帰る?なら、たまには一緒に帰ろうぜぇ」


文恵が、帰りの支度をする俺に話しかけて来た。


「おう。良いぜ」


俺達は、二人並んで家へ帰る。

文恵とは幼馴染だが、俺か引っ越したせいで家が離れてしまった。それでもまだ付き合いがあるというのは、俺としては嬉しいものだ。


「こうして二人で歩くなんて、何だか凄く久しぶりだな」


いつも一緒に居たというのに、二人きりというのは久々だ。

それはロメリアが来てからの話では無い。やはり、中学生の頃は女子と一緒に帰るということが恥ずかしいのだ。文恵だとしても、それは変わらない。


「昔はよくこうして一緒に帰ってた」

「でもお前、よく俺におんぶしてーって言ってきてたじゃねぇか。自分で歩くのは疲れるからって」

「え?そうだっけ?じゃあ、またおんぶして〜」

「ったく、高校生にもなってする事かよ」


俺達は笑い合った。

文恵はいつも変わらないな。

文恵になら、ロメリアの事を話してもいいかもしれない。きっと分かってくれる。けど......


「隅人最近、ロメリアちゃんばっかり。何をするにも一緒にいるよねぇ」

「そ、そうか?たまたま席が近いから、俺が色々と教えてやってるだけだ。特別親しくしているつもりは......」

「別に良いけどさぁ。なぁんかちょっとねぇ」

「何だよ」

「イチャつき過ぎ」


なっ......!

衝撃だった。確かにロメリアと少し近づき過ぎかとも思ってはいたが、まさかそんな風に見られていたとは。


「誤解だ。ロメリアはほら、外国人だろ?文化というか、スキンシップの違いもあるんだろ」

「ふうん。でも他の人と同じように仲良くしてる所、見たこと無いけど」

「それは......」


なんと言い訳すればいいんだ。

あぁ、俺が幼馴染みに言い訳だなんてな。これが浮気を問い詰められる気分か。味わいたくは無かったが仕方ない。

なんとか誤魔化すしかない。


「俺の事が好きなんじゃないか!?」

「......」

「......」

「............」


長い沈黙。文恵は固まったまま、目を点にして俺を見ていた。

失敗した。自分でも何故そんなことを口走っているのか分からない。比較的冗談っぽく言えたつもりだったが、今は冗談を言う場所ではなかった。

すぐにでも死にたい気分だ。


「な......なんてな!たまたまだろ!」

「はぁ、つまらない冗談はやめてよ。そんな分けないじゃん。隅人の事が好きな人なんて、そうそういないでしょ」

「だよな。はは」


文恵はやれやれと、ため息をつきながら肩を竦めた。

何だよ。別に好意を持たれていても、おかしくは無いじゃないか。

......おかしくは無いよな?


「うおっ!?」


突然、背中に重さを感じた。

急に霊にでも取り憑かれたのかと思ったが、取り付いてきたのは文恵だった。

いつの間に背後へ回り込んだんだ。気付かなかったぞ。


「おい」

「別にいいじゃん。そんな重くないでしょ?」

「まぁな......」


軽い。

まるで子供をおぶっているかのようだ。

文恵は小さいため、確かに体重は軽い。だがそれは他の人と比較しての話だ。そもそも人間を背負っているだけで重たいのだから、ずっとこのままというのは流石に辛い。


「降りろよ」

「えー、もうちょっと」

「昔から変わんねぇなぁ。そうやって言って、結局いつも家までおぶってたじゃねぇか」

「こんな美少女を背中に抱えられるだけでも、むしろ感謝して欲しいものだね」

「へいへい」


俺達は笑い合った。

何だか久しぶりに、心が落ち着けた気がする。


「お前は超研の部活来ないのか?俺達は明日行くつもりだが」

「いい。あんまりそういうのには興味無いんだよね。他にやりたい事もあるし。なんか面白そうな事あったら、また教えて」

「やりたい事って、どうせゲームだろ?」

「まーねー」


まぁ文恵は面倒臭がりだし、何かを研究するとか嫌いだからな。

ゲームの事なら割と本気になれるようだが、まぁ好き嫌いがあるという事だな。


「またゲームで対戦しようぜ」

「ふっふっふ、私に勝てるとでも?」

「やってみなくちゃ分からないさ」


それから俺達は、長々と話をしながら帰った。

結局俺は、文恵と道が別れる所までおんぶしてしまった。だが悪い気はしない。

こうして何気ない話をしながら帰るというのも、良いものだと思ったのだった。


「ただいま帰りました」

「おかえりロメリア」


家に帰宅してからしばらくして、ロメリアが帰って来た。

大体一時間ぐらいだっただろうか。

家に俺しかいない時間といいもの久々なもので、何だか逆に落ち着かなかった。

今日は俺が飯を作ると決めていたので、帰ってすぐに作り始めていた。

サプライズで俺が作ろうかとも思っていたのだが、そうするとまたロメリアに気を使わせてしまうので、先に言って話し合っておいた。


「ありがとうございます。スミトさん」

「いつもお世話になってるからな。俺だって簡単なものくらい作れる所を見せてやるよ」


と言っても、ロメリアには当然敵わないのだがな。

元からこの世界の料理を食べて来た俺より、ロメリアの方が美味しいものを作れる。少し悔しいが、紛れもない事実だ。

だから俺は、ロメリアの知らなそうな料理で勝負する事にした。

情報戦だ。

実力で勝てないのなら、知識で勝つしかない。


「じゃん。ご飯お好み焼きや!」

「オコノミヤキ......初めて聞く料理です。どのような料理でしょうか」

「まぁ食べれば分かるさ」


レシピアプリにあった、ご飯で作ったお好み焼きだ。粉ではなくご飯を使う事で楽になるし、満腹感もある。

外国人にはお好み焼きとかたこ焼きが人気だからな。日本を代表する料理の一つとして、ロメリアに振る舞わせてもらおう。


「美味しい!とても美味しいです、これ!」

「ふっ、そうかそうか。そいつは良かった」


まぁ、勝ち負けなんてどうでもいいさ。

ロメリアが喜んでくれている所を見るだけで、俺はもう満足なのだから。


「今日のチア部はどうだったんだ?」

「はい。とても楽しい所でした。皆さんお優しいですし、何よりあの素晴らしいダンスが衝撃でした。魔法も使わずにあのようなパフォーマンスが出来るのは、この世界の魅力ですね」

「野球部やサッカー部が応援して欲しいわけだ。で、今回は入るのか?」

「いえ、お断りさせていただきました」


なっ、またかよ。

それだけ褒めておいて、何故入らないんだ。


「なぁロメリア。俺の勘違いかもしれないが、もし俺に気を使っているのであれば気にしなくて良いんだからな?確かにロメリアに色々手伝って貰えるのはとても助かるし嬉しいのだが、それでロメリアに無理をさせたりはしたくない」


ロメリアが必要ないと言っている訳では無いんだ。

ただ俺は、ロメリアには自分の事をもっと大切にして欲しい。俺なんかじゃなく、もっと自分を優先して欲しいだけだ。


「俺なら大丈夫だから。好きな部活に入れば良い。まぁ無理に入ることもないがな。家でやりたいことがあるのならそれでもいい。とにかく、自分のやりたいことは優先してやって欲しいんだ」

「ありがとうございます。でも、私が部活に入らないのは他にも理由があります。何かこう、違うなって思うのです。上手く言えないのですが、私の居場所じゃないと言うか......私に似合わないと言うか......」

「......?」

「しかし、せっかくスミトさんがそう言ってくださるのであれば、もう少し考えてみようと思います」


そうだな、それが良い。

この世界へ来たことを、まずは楽しんで欲しい。

ロメリアが向こうの世界へ帰っても、この世界を楽しかったと思えるように。


「超研は明日行くんだったか」

「はい。いつでもいいと仰ってくれましたが、早いに越したことはないかと思いまして」


今度は俺も呼ばれている?のかよく分からないが、詰田の友達とは言え得体の知れないミステリアスな生き物にロメリアを預けられない。

同行できるのなら、するつもりだ。


「楽しいと良いな」

「はい!」


俺は、ロメリアが研究対象にならないことだけを祈った。

上手く隠して行こう。

ロメリアの魔法も、この関係も。

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