うっかり後釜になりました。何で私が王太子妃に?
もりやこ
第1話 見えてる?
何か夢を見ていた気がする。
目を開けてみれば……まだ薄暗い。変な時間に目が覚めてしまった。
天蓋付きの大きなベッドの上でむくりと起き上がった私が小さな明かりを思い浮かべると、ベッドサイドのランプがぽーっと灯った。
魔法大国であるファティマ国では、人々は大なり小なり何かしらの魔法を使い生活している。その為、魔法を利用した魔道具の開発は著しく、ランプを始め、炊事、洗濯、お風呂等々、様々な場面で活躍する魔道具は枚挙にいとまがない。
ちなみにこれらの魔道具は、微量の魔法を流すことで使用できる。流すと言ってもただ触れさえすればいい。触れることで個人が有する魔力を感知し作動する仕組みとなっている。
一般的に魔法の発動は、詠唱をもって行う。だが魔道具はその詠唱を不要とした、正に画期的な商品だった。そんな便利な魔道具であるが、実は触れずに作動させられる者がいる。それはごく少数の人間――魔法に長け無詠唱で発動することの出来る者である。
私はそんな多くない人の一人であったりする。そう、無詠唱で魔法が使える。でも人前では隠しており、詠唱してみせるようにしている。
だって説明が面倒だし……。
そういう訳で、自分だけの時は触れずに魔道具を作動させている。
だっていちいち触れるのは面倒だし……。
そう、私は面倒なことを極力避けたいだけなのだ。そんないつもの言い訳をちろりと心に浮かべながら、そーっとベッドから降りた。軽く伸びをしてサイドテーブルの水差しに手をかける。
その時、ふわりと目の前を横切るものがあった。
「……」
残念ながら寝起きの私の頭はまだ働いていない。
そのまま、ぼーーーっとしていると、先ほどのそれが徐々に形をなしていく。
掌ぐらいの大きさで、羽の生えた……。
で、出たっ、妖精!!
思わず声を上げそうになった私は、口に手を当てて言葉をのみ込んだ。それは最近になって再び屋敷の内外で目撃するようになった妖精に間違いなかった。柔らかそうな金髪、上位貴族の子息ですかというような格好、そして私のお兄様も霞むかというぐらいの美丈夫。
確かに見目麗しい。
でも、である。私は何としても、その妖精を認識することを避けていた。
だって妖精なんて、童話の中でしか見たことがない。王国中探しても妖精を信じてる人なんているわけがない。馬鹿にされるのがおちである。なのに現実に存在するなんて認めたら、もう面倒でしかない。
そんな私の気も知らず、妖精は羽をパタパタさせて、私の顔先にやってこようとしている。
私は咄嗟に顔を背けて、その妖精と目を合わせないようにした。
見えてないふりを貫かねば!
そう、ここ10年、私は見えないフリを続けていた。今更、引き下がるなんて出来ない。
しかしそんな私の決意も空しく、その妖精は私が顔を背けた方向に回り込んできた。
しつこい。
私は負けじと逆方向に顔を背けた。
「……ねぇ、絶対見えているよね」
「えっ?」
まさか喋るとは思っていなかったので驚いて反応してしまったが、それでも妖精を見るのだけはぐっと堪える。
それにしても、声まで格好いい……。
いやいやいや、そんなことに関心している場合じゃない。私は首をぶるんぶるんと横に振った。
目さえ合わせなければ、何とか見えてないことに出来るだろうと頑張ってきたけれど、声まで聞いてしまっては、いよいよ妖精なんて私の妄想よごっこも限界だろうか……。
パタパタパタ。
依然として、羽音が聞こえている。こうなったら最終手段に出るしかない。
私は大きく息を吸い込んだ。
「ぎゃーーーーーーーーーっ」
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