第100話 時がたって

カイの大告白からあまり時間を掛けずに、

カイと城之内先生は結婚した。


カイが妊娠したからだ。


それは彼らにとって喜ばしい出来事となった。


カイは自分は出産するには高齢なので、

子供はあきらめていた。


おそらくそれも、

城之内先生との一歩を踏み出すネックになっていたと思う。


でもカイは妊娠した。


付き合い始めたばかりで、

結婚についてはまだ微塵も話がなっかた二人。


カイは城之内先生と結婚しなくても、

産むつもりでいた。


出来婚になってはしまったけど、

カイが妊娠していなくっても、

もしくは年齢的に授かれなくても、

城之内先生はカイと結婚するつもりだった。


それまでは、城之内先生は何度も、何度も僕たちの家に訪れては、

やれ、両親に挨拶だの、やれ婚約指輪だの、

やれ結婚式はだの相談に来ては

先輩に思いっきり嫌な顔をされていた。


でも思いがけないカイの妊娠は

周りの人達をとても幸せな気分にしてくれた。


そんなハッピーなニュースの中、

僕はトントン拍子に4年の大学課程を終え、

計画にはなかった専業主婦になった。


僕の大学が終わっても、

僕たちは日本へ帰らず、

ボストンの郊外に家を買い、

先輩はボストンを中心にアメリカでのビジネスを確立していった。


僕が大学を卒業して、時は10年後。

僕達は一花ちゃんを筆頭に、4人の子供たちに恵まれていた。

女の子二人に男の子二人だ。


意識をしていたわけでは無いけど、

正に先輩の絵にある通りになってしまった。


心なしか、一花ちゃんも

先輩の絵の中にある女の子に似ているような気がする。


僕たちの買った家には、大きな裏庭がある。

僕は一花ちゃんのリクエストで、

ワイルドフラワーの種を蒔いた。


それが数年後には、種が飛んで、飛んで、飛んで、

大きなお花畑となった。


一花ちゃんは本当にお花が大好きで、

小さい時から1日の殆どをお花畑で過ごしていた。


お花を積んでは僕に持って来たり、

また、花冠を作ってはお姫様ごっこをしたりと、

いつの間にか花冠のエキスパートになっていた。


弟妹の面倒見も良く、

アメリカでは早くに行われる第二次性検査で、

家では一花ちゃんのみがΩである事が分かり、

弟妹の面倒見が良いながらも、

彼女は弟妹に守られていた。


子供達の日課は毎日裏庭で遊びながら、

裏庭から入ってくる先輩の帰りを待つ事だった。


先輩はいつもラインで帰りを連絡してくれたけど、

子供達の、


「パパ~ お帰り~」


の叫び声が、僕にとっての先輩の家に着いた合図となっていた。


本当にパパ大好きな子供達に育ってしまった。


カイと城之内先生はというと、

僕たちの近くに住居を構え、

城之内先生は引き続き正式に大学の教授として、

アメリカに移住することにした。


そして彼らにも男の子と女の子の二人の子供が産まれた。


僕たちの子供とは幼馴染で大の仲良しだ。


日本の方はというと、


城之内先生のお母さんが経営する日本の塾は

先生の弟の良太さんが日本に基点を戻して継いだ。


モデルをしている良太さんが果たして経営出来るのか?

と思ったけど、城之内先生が頻繁に日本を訪れているし、

経営はリモートでも出来るようなので、

問題はなさそうだ。


智君と彩香ちゃんは残念ながら

大学に入って暫くしてすれ違いが多くなり別れてしまった。

彼らの話によると、円満に別れたと言う事だった。


今では、それぞれに結婚して、幸せに過ごしている。


木村君と大我君は、

なんと大我君が16歳の時に木村君を妊娠させてしまい、

彼らの両親の間で修羅場だったと聞いた。


大我君はモデルとして脂が乗ってきている時であり、

CMやドラマなどにも活躍してきた頃だった。

そんなときの木村君の妊娠……


ここで大活躍したのがなんと、お祖父ちゃんだ。


この時初めて彼らに蘇我総司が僕の祖父だと分かった。


木村君はビックリしていたけど、

大我君は何となくそうなんじゃ無いかなと思っていたらしい。


でも彼等にはまさに天の助けで、

お祖父ちゃんが自分達の経験を生かして、

二人の関係を上手に隠してくれた。

もちろん、二人とも日本にいたままで。


それでもいつかは頃合いを見計らって

自分達の事を発表する予定だそうだ。


そして僕の妹弟。


あ~ちゃんは第二性判定でαとでた。

そしてなんと、お祖父ちゃんとポールの伝手で

国際ファッションモデルになった。

モデルなんかには全く興味のなかったあ~ちゃんだけに、

僕としてはびっくり仰天だ。

今ではアメリカの雑誌でも見かけるほどだ。


もちろんプロデュースしたのはお祖父ちゃんの兄である僕らの大叔父。

芸能プロダクションの社長だ。


兄の僕から言わせてもらうと、

欲目で言っても、あんなに綺麗な女の子は見たことない。


ますますお父さんの目が

世の男子に向けて光ってきたのは言うまでもないが、

あ~ちゃんは、Ωの男の子と結婚して、

自分が子供を産みたいと言っているらしい。

ちょっと変わった子だ。


あ〜ちゃんからの報告によると、

狙っている子が既にいるらしい。


僕としてはあ〜ちゃんに狙われた子に同情の念を隠せない。


それ程あ〜ちゃんは曲者だ。


僕はパパっこだったあ〜ちゃんは、

お父さんに似たαと結婚すると思っていたけど、

あ〜ちゃんは僕の予想を大きく上回っていた。


Ωの男の子とαの女の子が、それぞれの第一次性のまま、

どうやって夫婦生活するのかとても想像がつかない。


ヒロ君はまだ学生をしている。

高校受験が控えているので大変そうだけど、

ヒロ君は両親と同じ高校を受験する予定だ。


ヒロ君もあ~ちゃんと同じで第二次性検査でαと出た。


彼はあまり運命の番とかには興味がないというか、

まだ恋愛については考えて無いようだ。

でも、ヒロ君はとても変わった風貌をしている。


お父さんにそっくりなくせに、

かなちゃんの色を持っているので、

彫刻人間と呼ばれているようだ。


中学生のくせに、すでに身長は177㎝ある。

まだまだ伸びるようだ。


もちろんあ~ちゃんのようにモデルにと言われたらしいけど、

そちらも興味がないようだ。


女子には馬鹿みたいにモテるらしいけど、

もちろん興味がない。


何に興味があるか?


これを言うと変態っぽく聞こえるかもしれないけど、

ヒロ君はかなちゃんにゾッコンなのだ。


お父さんから奪う勢いでかなちゃん一筋だ。


笑っちゃうけど、末っ子で甘やかされたせいか、

ママっ子になってしまってそれが抜けないらしい。


中学生の時は半分お遊びでバレーボールをしていたけど、

ヒロ君の進学する高校はバレーボールの強豪校。


お父さんの、


“要のハートを射たかったら、

やっぱり俺のようにバレーに青春をかけないとな”


の一言で、高校では本格的にバレーボールをすることに決めたようだ。

単純な子だ。

そしてお父さんの無しえなかった春高、インハイでの優勝をすることが

彼の新しい目標みたいだ。


お祖母ちゃんはとっくの昔に音楽家を引退した。

後輩の未来にに席を譲ったそうだ。

今ではボランティアで孤児院や養護施設、

老人ホームなどで時折演奏をしている。


お祖父ちゃんはもう若くないので、

仕事をセーブしながら、お祖母ちゃんと旅行を楽しんでいる。


二人良くフランスに立ち寄っては

ポールたちとヨーロッパを回っている。


ジュリアは陽一、陽一と言っていた割には、

僕が結婚したのと同時にあっさりと引き下がった。

ポールはがっかりしていたけど、ちゃんと祝福もしてくれた。


でも彼女はあっさりとモデルも引退して、

直ぐにフランスの大富豪と結婚した。


そう言うところは天晴かもしれない。


詩織さんはあれから僕達二人とも会ってないので、

どうしたのか知らないけど、

風の噂で結婚したと聞いた。


幸せに暮らしているといいのだけど、

どういう人と結婚したのかそこまでは分からない。


そしてお父さんはというと、

今では政界に入り法務大臣をしている。


狙いは総理大臣のようだが、

本当になれるのだろうか?


あんなに嫌っていた政界なのに、

完璧に第二次性を守るには、

今度は国の中核から攻めないとと、

躊躇なく政界に進んでいった。


もともと改革で認められていたお父さんは、

言葉を行動に移す実力を認められ、

国民からも受け入れられた。


それであれよこれよと言っているうちに、

大臣の椅子をつかみ取った。


そして悠生君はお父さんに習って、

政界で議員をしている。


もちろん弁護士免許も持っている。


悠生君のお父さんは政界では成功はしなかったけど、

お父さんや息子の悠生君をバックアップして、

秘書として彼らを支えている。


優香さんとは未だに仲がいいようだ。


かなちゃんは引退した先輩のお母さんの会社を引き継いだ。

引き継いだというよりは、日本での先輩の代理のような形で

会社を守っている。


かなちゃんは経営者肌ではないので、

先輩に帰って来いと毎日のようにメール攻めをしている。


こんな形で僕たちの未来は出来上がっていった。


***** 次回は最終話です *****



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