第76話 話し合いの後で
あの話し合いの後、
お祖父さんとお父さんの再会は無事果たされた。
お祖母さんや佐々木君の言った通り、
お祖父さんは変わったようだった。
僕には全然理解できないけど、
その事はお父さんとかなちゃんの度肝を抜いた。
また彼らはかなちゃんの両親にも何かやらかしたようで、
かなちゃんの両親にも謝罪に出向いた。
昔彼らの間に何があったのか僕はまだよくわからないけど、
全てはうまく収まった。
でも両親とお父さんの祖父母の溝が埋まるのにはもう少しかかりそうだ。
また両親とは裏腹に、僕とあ〜ちゃんは頻繁に彼らを訪れる様になった。
その中で、佐々木君の基、今では悠生君と呼んでいる、
の両親に大きな誤解があったことも分かった。
あの日彼らが去る時に、お父さんが悠生君に声をかけた。
「あのな、優香だけど……
お前の父親が好きっていうのは間違いないと思うぞ」
とそう言った。
「どういう根拠でそう思うのですか?」
悠生君は半信半疑だった。
「お前は知らないかもしれないが、
優香はあれでもかなりプライドが高いんだ」
そうお父さんが言う横で、
かなちゃんがウン・ウンと相鎚を打っていた。
その姿が普通のウンウンとは違って、
僕にとっては凄くおかしかったけど、
笑うわけにもいかなかった。
「母は父に嫁いだ時にはかなりの抵抗があったと聞いています……」
悠生君が神妙な面持ちでそう言った。
“それはそうだろうな”
かなちゃんがボソッとそう言った事に、
先輩はクックックッと涙をこらえたようにして声を殺して笑っていた。
そんな二人を、僕は目玉が飛び出るような思いで眺めていた。
この時のかなちゃんと先輩は漫才の様で、
いかに悠生君のお母さんがかなちゃんにとって
天敵だったか垣間見たような気がした。
でもお父さんは続いて、
「まぁ、最初はそうだったかもしれないが、
優香のプライドから行くと、
まず、お前の父親を愛さない限りは
一緒に子を作る事なんて絶対しないだろうな。
それに、ここまであいつと一緒にいることも絶対しないだろう……」
それには先輩も同意をして、ウン、ウンと頷いていた。
そしてそれは後に真実としてあらわになった。
お父さんの言葉を信じて、
また、僕が両親と祖父母の架け橋なった事に感銘を受けて、
悠生君も自分の両親の架け橋になりたいと思った。
所がふたを開けてみると、お父さんの言った事は本当で、
悠生君のお母さんは悠生君のお父さんに嫁いでくる時に、
過去を捨て、彼を生涯愛し支えると自分に誓って嫁いできた。
そのことを知らなかった、気付かなかった悠生君のお父さんは、
自分が人生で成功できない事に、
彼女が彼と結婚した事を後悔していると思っていた。
だからドンドン彼女に冷たくなり、
会話もドンドン減って、最後には仮面夫婦の様な感じになってしまった。
彼女がお父さんの写真をとっておいたのは、
自分への戒めと、絶対にお父さんには負けないと言う自分への誓いだった。
彼女曰く、
「人の者になった人を追いかけるほどのプライドは持ち合わせていませんのよ」
だった。
誤解があった事で彼女はお父さんの写真を処分した。
今では二人の誤解も解け、
かなちゃん達にも負けないラブラブカップルとなった。
一番そのことに驚いているのはかなちゃんだ。
何故なら、悠生君のお母さんは、
今ではかなちゃんのよき理解者で、サポーターだ。
まさか彼女と此処まで仲良くなるとは思っていなかったようだ。
今では彼らは凄く仲のいい友達となっている。
本来、凄く仲の良かったお父さんと悠生君のお父さんが元の仲に戻って、
その妻同士また仲良くなったと言ったほうが正しいのかも知れない。
そうやって僕は贅沢にも一気に祖父母が増え、
仲のいい叔父夫婦が増えた様でホクホクだった。
先輩との仲は進展せず、相変わらずな距離を築いていたけど、
そんな中、僕たちの夏休みも終わり、
入学した時から待ちに待っていた修学旅行がやってきた。
「陽一、パンフはもう貰ったか?」
「貰った、貰った!
智君、同じ班にしようね!」
慎重に練ったプランはパーフェクトと言って良い程完璧だった。
そして僕はいらない情報をお父さんに貰った。
その場所自体には行かないけど、
「陽一は沖縄で出来たんだぞ〜」
だって。
お父さんはかなちゃんにはたかれていたけど、
ほんとそれ、いらない情報だから!
でも、自分の両親が愛し合って
僕を授かった場所というのは凄く神秘的な気がした。
今回の修旅ではいかないけど、
何時か行ってみたいと思った。
僕たちの学園は旅行の場所にいくつかの選択ができる。
僕は未だ行ったことの無い沖縄を選んだ。
選択の中にあった場所は沖縄、九州、北海道、
ヨーロッパ、アメリカ西海岸だった。
海外には行きたくなかったし、
九州には行った事があったので、
北海道と沖縄どちらにしようか迷った末に、
沖縄を選んだ。
行く時は飛行機、帰りはフェリーだった。
先ず沖縄に着いてタラップを降りた途端、
どこかのグループから歓声が聞こえてきた。
「どうしたんだろうね?」
智君に話しかけると、
「何処かの高校も修旅で来てるみたいだから、
沖縄の地を踏んだ事に歓喜の声を上げてるんじゃ無いか?」
それが智君の意見だった。
確かに知らない制服を着た団体が沢山見受けられる。
まあ、叫びたい気持ちは僕にも分かった。
僕だってそんな気分だったから。
“南の島って気分を陽気にさせるって本当だったんだな”
そう思いながら、
僕達はガイドに並んでドンドン空港内を進んで行った。
そこで本当の歓喜が何なのか知った。
そこにはモデルの団体がグループになってインタビューに答えていた。
そしてその団体の中にいたのが、
僕の祖父母、大我君、そしてジュリアだった。
僕は腰が抜けそうなほどにびっくりした。
その事を僕は両親は基、祖父母からも何も聞いていなかった。
普段だったら、一番に報告してきそうな事柄なのに、
きっと僕をびっくりさせたかったんだろう。
現に、馬鹿みたいに驚いた顔を、
グループの後ろでフォーカスしたようにして
先輩がパシャパシャと携帯で僕の写真を撮っていた。
きっとお祖父ちゃんに頼まれたのだろう。
それよりも僕は、
先輩が一緒に彼らに付いてきた来た事に更にびっくりした。
きっとそれはうまい具合にカメラ目線になっていたことだろう。
後になって知った事だけど、
5年前に初めて行われたコラボ広告は評判がよく、
年に2度ほど毎年撮影が行われていたようだ。
そして今年が5年目と言う事だった。
毎年色んなところで撮影が行われたらしいけど、
今年はまた日本に戻って、
僕の修旅と重なったこともあり、
皆一致で沖縄に決まったそうだ。
勿論学園のみんなは
僕達が大我君やジュリアンと知り合いだと知らないのは愚か、
智くんでさえ蘇我総司と如月優が
僕の祖父母だと未だ知らない。
ここで僕らが大我君やジュリアンと知り合いだと分かると
大変な事になってしまう。
彼らもそれを顧慮してか、
僕達と目が合っても知らんフリをして居てくれた。
それとは反して先輩は写真を撮り終えると、
僕に向かって小さく手を振ってくれた。
先輩との距離は相変わらずだけど、
詩織さんにあんな事も言われたけど、
僕の先輩に対する気持ちは変わらなかった。
そりゃあ、ティーンエイジボーイですから、
グラっとする事は多々有るけれども、
基本的な事はブレずに僕は少しだけよそ見をする事もあった。
現に城之内先生は僕にとって癒しとなっている。
悠生君も最初に会った時は、
なんてカッコいいんだろうとも思ったし……
でも僕がかなちゃんの中で生を受けたこの場所で、
先輩との会える事は少しだけくすぐったい様な気がした。
先輩は再度僕を見てその存在を確認すると、
軽く手をあげて撮影の団体と共にロケバスの中へと消えていった。
そして思い出した今朝のかなちゃん。
やけにニヤニヤとしているなと思った。
僕はやっとその意味を理解した。
そしてその夜にお祖父ちゃん達から、
ルームメイトがいるにもかかわらず、
“陽ちゃ〜ん”
攻撃があった事は言うまでも無い。
もちろん、俳優蘇我総司のまま、
大我君とジュリアの付き添いとして。
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