第74話 僕を招いた理由

「どうしよう…… どうしよう……」


僕は焦っていた。


焦れば焦るほど、僕の頭はこんがらがってきた。


過去に両親と祖父母の間に何があったのか詳しくは聞いてないというか、

教えて貰えなかった。


ただ、此処には近づくなと言われ続けただけだった。


その真っ只中に今僕は居る。


“早く帰らなくちゃ……”


その思いしかなかった。


でも、焦って帰ろうとすればするだけ

僕の足は絡んで前に進まなかった。


僕は躓きそうになりながら、

佐々木君を見上げた。


「佐々木君、ごめん……

僕、帰らなきゃいけないんだけど……」


僕がそうお願いすると、

佐々君は僕の腕をつかんで、


「先輩、僕の話を聞いてくれませんか?

もし此処で話すのが嫌であれば、

外でも、ファミレスでも、どこでも構いません。

どうしても話しておきたいことがあるんです!」


と真剣に尋ねた。


佐々木君の懇願に、じっと彼の目を見つめた。


彼の真剣な眼差しに、


“彼は信用できる”


僕の直感がそう言った。

少し迷った末に、


「じゃあ、君の部屋で話してもいいかな?」


と思い切って言ってみた。

すると、


「私も一緒にいいかしら?」


とお祖母さんが訪ねたので、

僕はコクンと頷いた。


佐々木君の部屋に行く間、

僕たちの間には異様な空気が流れていた。


でも僕の心は思ったよりも落ち着いていた。


「先輩、お先にどうぞ」


佐々木君がそういうと、


「じゃあ、失礼します」


と僕に続いてお祖母さんと佐々木君が部屋に入った。


ソファーに誘導されると、

お互い向き合って座った。


僕が黙ったままで座っていると、

お祖母さんが先ず口を開いた。


「陽一君、あのね、悠生君があなたを此処に呼んだのは、

きっと私達があなたに会いたいと漏らしたせいなの」


「え? 会いたいって……」


「お祖父さんはずっと後悔してたの……


あなたの父親、裕也と仲違いした事、

そしてあなたの母親、要君の家族に大変失礼した事……


あの人もプライドが高いから自分から言い出すことが出来なくて、

今でもムスッとしたように見えるけど、

本当は陽一君に会えて、凄く嬉しいはずよ」


僕は今日初めて会った時のお祖父さんの態度を思い出してみた。


確かに彼は僕に対して優しかった。

言葉数は少なかったけど、

一生懸命話しかけようとしていた……


「先輩、僕は先輩を陥れようとして

此処に呼んだんではないって事はわかって欲しいんです。


ただ、祖父母に君を合わせてあげたかっただけなんだ」


佐々木君のそのセリフに僕はお祖母さんの目をじっと見た。


「それはね、本当なのよ。


過去に色々としがらみがあって、

要君が日本を出たところまでは分かっていたの。


でもお祖父さんがね、どこからか陽一君の情報をつかんできたの。

まさか二人が結婚して陽一君までいるとは少しも思わなかったわ。


てっきり要君は日本にはいないと思っていたから。


でもあなたたちの事を知るたびに、

どうしてもあなたたちに会いたくて、会いたくて……


そんな時貴方が悠生の目指していたセント・ローズに入ったと聞いて、

悠生があなたと接触をすれば会えるかもしれないとつい漏らしてしまったの。


だから思いつめた悠生がこんな行動に出てしまったの。


全ては私のせいなの。


本当にごめんなさいね。


こんな私たちをどうか許してね」


お祖母さんの涙の謝罪に僕は両親をここに呼んでみたいと思った。


“僕がお互いの和解につながる架け橋になれるかも知れない……”


「僕、今からお父さんをここに呼びます」


僕のそのセリフに、

お祖母さんは少し戸惑いを見せた。


「大丈夫です。

僕が何とかしてみます!」


何の確信もなかったけど、

どうしてもお父さんと祖父母に和解してほしかった。


僕はすぐにかなちゃんにラインした。

お父さんに直接するよりも良いと思ったから。


『後輩の所まで迎えに来てくれますか?

住所は東京都……』


かなちゃんにラインを送った途端、思ったようにお父さんから返事が来た。


『直ぐに行く』


どうやら実家の住所は今でも覚えている様だ。


「お父さんが来てくれるって!」


楽しそうにそう言うと、

お祖母さんが少し複雑な顔をした。


「どうしたの?

お父さんに会えるんだよ?

久しぶりでしょう?

嬉しく無いの?」


「裕也に会って何て言ったら良いのか……


合わせる顔が無くて……」


それから僕たちの間には長い沈黙が続いた。


皆それぞれに、心構えをしているような感じだった。


そうこうしているうちに、

外で言い争う様な声がして来た。


「お父さんが来たんだ!」


外に出ると、佐々木君のお父さんと、

僕のお父さんが言い争っていた。


「お父さん!」


僕が叫ぶと、お父さんは直ぐに僕に気が付いて走って来て僕に抱きつくと、


「大丈夫か? 何もされていないか?」


と僕の顔を満遍なく見回した。


「お父さん、僕は大丈夫だよ。

それよりも……」


そう言って、後ろにいるお祖母さんに視線を移した。


「お袋……」


興奮していたお父さんはお祖母さんに気付いてなかった様で、

お祖母さんがそこにいた事に凄く驚いていた。


「裕也…… 久しぶりね。

変わりはない?

病気したりしなかった?

本当に……立派になって……」


お父さんはお祖母さんから目を逸らすと、

佐々木君の存在に気付いた。


「君か? 君が陽一を此処に連れて来たのか!」


お父さんは今にも殴りかかりそうな勢いで

佐々木君めがけて言葉を投げかけた。


「お父さん、待って、待って!

彼は何も悪く無いよ!


お父さんに言わなくちゃいけない事が沢山あるんだ!


お願いだから落ち着いて!


もう大丈夫だから!


お祖父さんも、お祖母さんも、もう大丈夫だから!」


僕がそう言うと、お父さんは


「どう言う事だ?」


と言って僕たちを見た。


「あのね、お父さんとかなちゃんに話したい事があるんだ」


僕がそう言うと、お父さんは佐々木君とお祖母さんを見た。

そして少し考えた様にして、


「要が死ぬ程心配して家で待っている。

二人とも家に来て説明してもらえるか?」


とたずねたので、二人はそれに同意して、

僕たちはその場を後にした。


僕たちのそんなやり取りを、

佐々木君のお父さんは茫然として眺めていた。


去り際お父さんが佐々木君のお父さんに、


「お前が此処にいると言う事は、

お前にも迷惑をかけたんたんだな。

すまない……」


そう言い残して僕たちはその場をさった。


車に乗り込むと、


「それで? どう言う経緯で一体こう言う事になったんだ?」


とお父さんが尋ねた。


「僕が悪いんです。

お祖母様は先輩が家に来る事なんてちっとも知らなかったんです」


「じゃあ、君が陽一が喜んで話してた同じ苗字の後輩か?」


「そうだと思います……」


お父さんは深くため息をつくと、


「あの学園で同じ佐々木という名字にもっと注意を払うべきだったな。

あそこは佐々木家の御用達学園だからな」


「え? そうなの?」


その事に僕の方がびっくりした。


「今でこそ少子化で数が減ってるが、

今でも複数の佐々木があの学園には居るはずだ。


そこの後輩君、そうだろう?」


「はい。 今学園には7名の親族がいます」


「え〜 僕、佐々木って名字に会ったのは佐々木君だけなんだけど……」


「お前は疎すぎるんだよ。

だから俺も、要も、浩二もお前が心配なんだよ。

今回もこんな騙した様にして連れ込まれて……」


横を見ると、佐々木君がシュンとした様にして小さくなっていた。


「お父さん、僕が疎いって事は認めるけど、

僕は佐々木君に騙されてんかいないよ!


僕は自分の意思で彼について行ったんだ!」


僕がそう反撃すると、


「はい、はい」


とでも言う様にお父さんは両手をあげた。

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