第38話 お泊り会ー夜の映画鑑賞
食事が終わると、
皆でリビングに集まって来ていた。
「ポトフ?
とっても美味しかったです!
パンも初めて見るようなパンだったし、
普通のフランスパンとは少し違いましたよね?
パンも凄く美味しくて、
ポトフにピッタリでした!」
どうやら木村君はポトフが気に入ったようだった。
「そう? 良かった!
簡単だし、お家でもご家族に披露したら喜ばれると思うよ!」
かなちゃんがそう言うと、
お父さんが探していたDVDを持ってきてくれた。
食事の後は、
僕達は皆でDVDを見る事にした。
勿論お祖父ちゃんの映画だ。
これは僕も大好きで、刑事物のミステリーだ。
ここではお祖父ちゃんが犯人に扮している。
この犯人像がいかにもらしくて、
狂気的でマジで怖い!と大好評を得た作品だった。
勿論刑事物といえば、事件を解決する刑事が主役なのだが、
この映画はW主演で、刑事役の若手の俳優さんと、
殺人鬼役のお祖父ちゃんがその主役に抜擢された。
この殺人鬼の役は凄く難しい役だったらしく、
監督と脚本家から、この役は蘇我総司にしかできないと、
太鼓判を押されて出演した映画だった。
自分の祖父ながら、
この映画を見た後は暫く、
お祖父ちゃんに近寄るのが怖かった。
だから暫くはお蔵入りになったDVDだったけど、
もう13歳だし、年齢的にも良いだろうと、
その映画を今日は木村君と一緒に見る事にした。
「僕、ミステリー大好きなんです!
この映画、凄く良くって、
主演の蘇我総司が凄いって聞きました!
ずっと見たかったんですけど、
ちょうど兄の受験と重なって見れず仕舞いだったんですよ!
本当はW主演だけど、もう一人の主演を食ったって
凄い評判が出た作品ですよね?」
と、この作品について知っていた木村君にびっくりした。
「良く知ってるね」
とかなちゃんもびっくりしていたけど、
「家の母親が凄くファンでして、
家には蘇我総司のポスターが、
僕が小さい頃には沢山貼ってあったんですよ。
最近、僕が恥ずかしくて外させたんです。
でも、映画は凄くって、
良く母と一緒に見ました。
サイン会にも行ったし、
ほら、有名になったカフェがあったじゃないですか!
あそこでも待ち伏せ何度もしたんですよ!
それくらい、僕のお母さんは彼の事が大好きだったんです!」
“あれ? そのカフェってかなちゃんのお友達の青木さんの所だよな?
そうか、木村君も間接的ではあるけど、
あのカフェに通ってたんだ……
もしかしたら小さい時に会っていた可能性はあるかも……”
そう思った。
「僕達が産まれる少し前に、
妻子持ち宣言をされてたの知っていますか?」
木村君にそう聞かれ、
かなちゃんは
「あ~ そう言えばそう言う事もあったよね~」
と、目を泳がせながら、しらを切っていた。
「お母さん、自分は結婚してたくせに、
蘇我総司が妻子持ちって知って最初は泣いたって言ってましたよ。
でもその中でも男気を感じて、更にファンになっちゃったって」
とその木村君のお母さんの熱狂ぶりには
僕も度肝を抜かれた。
ただ、お父さんと矢野先輩は
ニヤニヤとしながらかなちゃんの事を見ていた。
それに見かねたかなちゃんが、話をそらすように、
「じゃあ、皆ここに座って!」
と言われ、何時ものように
先輩とお父さんがソファーに座り、
お父さんの足元にかなちゃんが座って、
僕は先輩の足元に座った。
そして僕の横に木村君がちょこんと腰かけた。
あ~ちゃんはマイピロウとブランケットを持ってきて、
大きなテレビのスクリーンの前に寝転がって特等席をこしらえていた。
普通あ~ちゃんは映画が始まって30分と経たないうちに寝入ってしまう。
だから、それは妥当なポジションだろう。
外はもうすっかり暗くなって、
電気を消すと、その場はすっかり映画館の様だ。
僕が体育座りをして床に座ると、
後ろでお父さんが、
「お前、何一人でくつろいでるんだよ!」
と言っていたので後ろを見ると、
先輩が空いたソファーのスペースに足を乗り出して、
一人だけゴロンと寝転がっていた。
「いや~ 年だから、もう疲れちゃって……
もし寝ちゃったらごめんね」
そう先輩が言ったので、
僕は部屋からブランケットを持ってきて先輩に掛けた。
「陽一!
そんな奴は、ほっといて良いんだぞ!
甘やかすとこいつは付けあがるぞ~」
と言いながら先輩の足の裏をくすぐっていた。
先輩は笑ってソファーの上を転げまわりながら、
「陽一君おいで~」
と僕の腕を引っ張った。
そして僕を膝枕にすると、
「あ~ 癒される~」
とポソリと言った。
木村君の手前少し恥ずかしかったけど、
矢野先輩は一緒にDVDを見ると、
親の前であろうと、祖父母のまえであろうと、
必ず僕の膝枕を欲しがる。
小学校の6年生になる頃からそれは始まったので、
今ではもう常習化してしまっているんだろう。
木村君が居るから、
今日はどうかは分からなかったけど、
やっぱり先輩は僕を膝枕にした。
家族での映画鑑賞の時ばかりは、両親は先輩に何も言わない。
きっと、自分たちのいちゃいちゃで
先輩にまで気が回らないのだろう。
普段はお父さんとお母さんがソファーを占領して、
僕と先輩が床を占領する。
でも今日は木村君が居たから、
ちょっとポジションが違った。
でも、先輩はちゃんと僕を先輩の傍に呼んでくれた。
だから僕は何時も
この時間が大好きだった。
そして映画も半分になると、
今度は先輩が僕を膝枕してくれる。
それは僕が大体映画の半分くらいで
欠伸をし始めるからだ。
でも先輩も、僕を膝枕することが好きみたいだ。
その時ばかりは小さい子供に返ったように、
先輩に甘える。
そして先輩は決まって僕の髪を撫でてくれる。
この時間が僕に取っては至福の時間だった。
唯一、僕がたった一人の、
先輩の物になった感覚を与えてくれる時間だった。
そして今日も同じように、
木村君が居るにもかかわらず、
先輩は僕に膝枕をしてくれ、
そして大事な宝物を扱うように、
僕の髪を撫でてくれた。
きっと、僕の事をまだ5歳の子供だと思っている……
ただそれだけなのに、
先輩の事を考えると僕の胸は苦しかった。
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