第14話 陽一君との出会い
「あ〜 要君!」
僕がそう呼んだ途端彼の肩がピクッと動いた。
見た感じは少し緊張していそうだけど、
彼はまさしく、僕の知っている要君だった。
彼が緊張している事は勿論分かるけど、
僕もかなり緊張している。
7年前の苦渋の末、僕がとった行動……
果たして要君は
7年前突然去った僕の事を許してくれるのだろうか?
僕は深くお辞儀をした要君を、
マジマジと見下ろした。
“ちっとも変わってない。
僕の大好きだった要君だ……”
彼の姿を確認して安堵した。
要君に触れたい衝動を抑えながら、
「お茶とお菓子は如何?」
と精一杯の挨拶をした。
高校生の時、何時もこうやって要君に声を掛けていた。
まだ覚えていてくれてるかな?
お茶のお誘いに、恐る恐る頭を上げた要君の表情からは
僕を怒っているようには見えなかった。
どちらかと言えば、
ここで会えたことが信じられないとでも言うような……
そうだろう、そうだろう……
だって、僕だっていまだに信じられない。
あんなに会いたかった君が、また僕の前に居るなんて……
「どうしたの?
僕だよ?
もう忘れちゃった?」
「先…… 輩……?」
「アハハ 元気にしてた?
ずっと絵を描いてたんだね。
あれ? でも何でフランスなの?」
「本当に先輩……?」
「うん、要君は変わらないね!
あ、でもちょっと髪が伸びたかな?」
「本当に矢野先輩?」
「だからそうだって!
どうしたの?
そんなに僕が恋しかった?」
ここまで来ると、僕も要君への懐かしさと
会えた嬉しさの衝動が抑えられず、
両手を広げてみた。
思ったとおりに彼は僕の胸に飛び込んでくれた。
僕にしがみ付いて泣いている要君が凄く愛おしく思えた。
少し背が伸びていたのにも関わらず、
僕にしがみ付く要君は小さくて、
僕は一気に高校生の時の自分に戻ってしまった。
「先輩、僕、ずっと、ずっと……」
「うん、うん。 分かってるよ」
そう言って泣く要君の背中をポンポンと叩いて、
ギュッと彼を抱きしめると、
彼の震えが止まった。
やっぱり少し痩せた……
折れそうな程に細い……
要君の頭に頬を埋め、彼がここに居る事を実感した。
“要君の香りだ……”
この香りは、きっと彼のΩとしての香りでは無いけど、
これも、ここまで要君に近寄れる
僕だけが知る匂いだと思うと、
それだけで嬉しかった。
僕は要君の頭を撫でながら、
“まさか君がうちのリクルーターの目に留まるなんて、
思いもしなかったよ……
それも海を越えて日本を挟んで東と西で……
これは偶然?
いや、君には運命の番が居るけど、
きっと僕達の運命もどこかで絡み合ってるに違いない……”
そんな事を思っていると、
僕等の感動の出会いとは裏腹に、
秘書の田中さんの
“ゴホン”
とした咳払いで、
僕達がミーティングの為に集まっていた事を思い出した。
感動の再会を果たした僕達は、
すっかりと周りに人が居たことを忘れていたのだ。
今回の顔合わせは早く言えば、
僕が要君の確認がやりたかったから。
でも、ビジネスはビジネス。
一先ず、やっておかなければならない事柄を済ませて、
要君をランチに誘った。
そこは、彼が高校生の時、
仲が良かったクラスメイトの叔父さんが経営するカフェで、
要君も高校生の時バイトをしていた。
彼のクラスメイトの名前は奥野瞳さん。
僕とも仲良くしてくれて、
お茶目っ気たっぷりの、
噂話が大好きな元気な女の子だった。
さっぱりとしていた性格には裏表なく、
要君には付き合い易かったのだろう。
数少ない彼の友達の中の特別だった。
そんな彼女に昨日思いついて電話をした時は向こうもびっくりしていた。
長い間連絡も取っていなかったにもかかわらず、
奥野さんは昔の様に僕と接してくれた。
そして彼女が教えてくれた。
要君が高校2年生の夏に居なくなったことを。
彼女らは要君に何が起こったのか知らなかった。
何処へ行ったのかも知らなかった。
要君の両親に直談判に行ったらしいけど、
結局は教えてもらえなかったらしい。
でも、要君の様子は所々で聞いていたらしいので、
安心はしていたようだ。
そんなことも踏まえて、
今日の訪問者は要君だという確信は高くなっていた。
もしかすると、今日の訪問者は要君の可能性が高い事を告げると、
奥野さんもものすごく要君に会いたがった。
それで急遽、サプライズで要君をここへ連れてくることに決めた。
それで青木君も一緒に彼女の叔父さんのカフェに集まることにしたのだ。
その計画は正しかったようだ。
要君も彼等との再会を凄く喜んでくれた。
彼としては、何も言わず去ったことで、
彼らと会う事を躊躇していたようだ。
彼らの架け橋になれてよかった。
そして奥野さんが青木君と結婚し、
彼女のお腹の中には赤ちゃんが居る事も分かって喜びは二重だった。
僕も皆と残ってもう少し話がしたかったけど、
お昼から外されない商談が入っていたので
早めにカフェを出なくてはいけなかった。
彼に両親の家に居候させてもらってると聞いたから
その日の夜に久しぶりに手土産を持って
要君の家に挨拶に行こうと思った。
昼の商談が終わり、要君が新しく勤めるオフィスに電話をすると、
彼はもう出たと言われたので、
僕も頃合いを見計らって要君の両親の家まで出向いた。
凄く懐かしくて、
直ぐに高校生の時の記憶が込み上げてきた。
何度も、何度も足繁く通った場所。
彼の両親には凄く迷惑をかけたと思う。
いきなり尋ねるのは少し躊躇もしたけど、
会いたい思いの方が強かった。
そこでいざビルの中へ入ろうと正にした時に、
「あ~ あれは矢野先輩だ!」
と何処からか子供のような声が聞こえて来た。
ビックリして声のした方を見ると要君が小さな男の子と手を繋いで
向こうから歩いてくる姿が目に入った。
そこで要君はびっくりした様にして立ち止まった。
一緒にいた男の子が太陽をちりばめたような
パッとした明るいオーラを持ったような感じで僕の目を奪った。
彼の周りだけが浮いた様にして僕の目に映った。
それはとても不思議な感覚だった。
“うわ~ 要君そっくりの男の子だな。
目がクリクリ……
髪もフワフワで可愛い! 天使か?
きっと僕がアメリカに行ってる間にご両親にもう一人生まれたんだな。
要君ももうお兄ちゃんか~
離れていてもやっぱり血かな?
手を繋いで歩いてくる姿が様になってるな……
でもちょっと待て……
なんだ? この動悸…… ドキドキしている……
え? なんで? これ……あの子に対してドキドキしてる?
天使みたいに可愛いけど…… え? 僕はロリコンじゃ……
それに隣には要君が……
え? え?”
その時はそんなことを考えていた。
でも僕のそんな思いとは裏腹に、
要君は何だか緊張している様にも見える。
どちらかと言うと、
彼と一緒の所を見られて失敗した……と言う様な?
“どうしたんだろう?”
僕は不思議に思いながら彼らに近ずいて行って話し掛けた。
「こんにちは」
僕がそう言うと、小さな男の子が
「こんにちは。
矢野先輩!」
と挨拶してくれたのでびっくりした。
どうして僕の名前を知っているのだろう?
不思議に思いながら、
「ちゃんと挨拶出来てお利口だね。
僕のお名前は?」
と尋ねてみた。
「僕の名前は、赤城陽一です!
おじさんは矢野先輩だよね?」
彼の名前は赤城陽一と言った。
とても人懐っこく聡明な子で、質問にもハキハキと答え、
近くで見ると、更に要君に似て可愛らし子だった。
要君の方を見ると、うつ向いて、にわかに緊張している。
何をそんなに緊張してるのだろう?
陽一君の僕を呼ぶ、
“おじさん”
に要君は少し反応していたけど、
それよりも、要君の緊張の仕方が気になった。
それで、
「陽一君はどうして僕の名前を知ってるの?」
と聞いてみた。
すると、
「あのね、かなちゃんの机の上に
矢野先輩と、佐々木先輩のお写真があるの!」
と答えが返って来た。
どうやら要君は僕と裕也の写真を飾っているようだ。
と言う事は…… 陽一君に毎日のように僕達の話をしていたと言う事だ。
何時でも僕達の事を忘れずにいてくれたことが僕には嬉しかった。
僕はまた要君の方をチラッとみた。
相変わらず彼は緊張している。
「陽一君のお家には、僕の写真が飾ってあるんだ~」
そう言うと、思った様に、
「うん!
かなちゃんがね、お写真見ながら、
いつも矢野先輩と佐々木先輩のお話してくれたんだよ!
と~っても楽しいお話一杯してくれたんだよ!
僕、楽しくって、毎日聞いちゃった!
だから僕、名前覚えちゃった!」
と陽一君から返って来た。
“裕也の事も陽一君に話してるって事は……
裕也とは一緒じゃ無いんだ……
一体二人の間に何があった?”
少し鎌をかけて見ようと思った。
「要君、陽一君って弟さん?
あれからご両親に生まれたの?
二人目を欲しがってらしたもんね~」
そう尋ねると、
さらに要君の様子がおかしくなった。
何だか冷や汗まで出ているような緊張の仕方だった。
その時、何かがおかしいと思った。
咄嗟に陽一君が僕に教えてくれた。
「矢野先輩、違うよ。
かなちゃんは僕のお兄ちゃんじゃないよ」
と……
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