不死者、終末世界にて
鶻丸の煮付け
プロローグ
私がまだ幼かったころにおばあちゃんが言っていた。今からずっとずっと前、空の色は青かったのよと。微弱な魔力結界を張りつつ、そんなことを思い出す。
「明かりと暖の確保もしないと」
炎の術式で、積み上げた枯れ枝に炎を灯す。パチパチと音を立てて燃える炎を見ていると、嫌でも思い出してしまう。私の居た村のことを。今は亡き家族や友人のことを。
私が物心ついた時には、すでに空は灰色だった。魔王が支配する世界。どうしようもなく、終わった世界。村長はいずれ伝承通りに救世主が現れるって言ってたけど、そんな奇跡が起きないことは誰だってわかってる。それでもよかった。このまま平和にこの生涯を終えれるのなら。
しかし世界は、その些細な望みすらも奪っていった。
村をゴブリンの群れが襲った。隠匿の魔術や魔力結界も限界がきていたらしい。いとも容易く私の平穏は奪われた。私が一生を過ごすはずだった村は、そんな希望は、あっけなく炎に包まれた。
走った。走った。ただひたすらに走った。家族のことも友人のことも忘れて、ただ逃げるためだけに走った。そして燃え盛る村が見えなくなるほど走ってから、泣いた。
ひとしきり泣いて落ち着いた後、お母さんの言っていたことを思い出した。村から東へしばらく歩いたところには、生き残りの人間が住む街があるらしい。そこに辿り着かなければ。この世界を一人で生きていけるほど私は強くない。そう思い東へ歩き始めたのが少し前。
「山よりはマシなはず」
東の街へ辿り着くには大きな山を越えなければならなかった。しかし山はゴブリンのような魔物たちの住処だ。視界も悪く、群れにでも出くわしたらまず助からない。だからこの廃砦に入るしかなかった。かつて人間と魔物が争っていた時代に作られたであろう砦には、わずかながら魔力結界が張ってあった。ほとんどのゴブリンはこの程度の魔力結界で退けることができる。しかしゴブリンの中にはそういった魔力結界に耐性を持つ個体も存在する。その為安心して休むためにはこうした準備が必要なのだ。
不幸中の幸いであったのは、私に魔法の心得があったことだろう。これが無ければ私はとっくに死んでいたと思う。
「明日にはここを抜けたいなぁ…」
独り言つ。森で手に入れた食糧も無限ではないし、ここからどれくらいで街につくのかもわからない。考えれば考えるほど、無情な現実が立ちはだかる。零れ落ちそうになる涙を無視して、私は目を閉じた。
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