第2話 最初の部屋 2
私の名は
職業は漫画家。ただし手掛けているのは主に男性向けのアダルト漫画だ。
同業者の中ではそこそこ売れている方で、なぜか女性限定のファンクラブもある。
女手一つで私を育ててくれた母親は、アメリカで起業家と再婚している。小さい頃別れた実父とは成人してから再会し、今は私の個人事務所のマネージャーだ。
最近、勧められるまま執筆した小説が何の間違いかとある賞を受賞してしまい、妙な形で知名度が上がってしまった。幸い漫画を描く時とは別名義の仕事だったので、私は周囲が鎮まるのを待って今は再びアダルト漫画に没頭している。
しかし今の世の中、あれはあれ、これはこれというわけにもいかず、近頃は小説の方から私の本業を探りあてて興味本位で漫画の依頼を寄越してくる輩が増えつつある。
※
「急にこんなところに連れてこられてさぞ、戸惑っているだろうね。腹を立ててもいいんだよ。なにしろ、これからもっと恐ろしい話をするんだから」
祖母の声はどうやら録音らしかった。私は母が十代で実家を出たこともあり、祖母や他の親せきとはあまり交流を持たぬまま成人した。資産家だという事は母から聞かされていたが、母には兄弟が多く家出同然に飛びだしてそのまま疎遠となった母と実家の繋がりはないに等しかった。
――なのに、一番遠い身内である私をなぜ?
寝ているところを強引に連れ去るという行為といい、おかしな部屋に閉じ込めて恐ろしい話だのなんだのと勿体をつけるところといい、とても身内のやることとは思えない。
「ここは私が所有するマンションの八階だよ。近所では『長靴マンション』なんて呼ぶ連中もいるが、私のお気に入りの物件さ」
私はおぼろげな記憶を手繰り、そういえばそんな話題を聞いた覚えがあると思った。
祖母はいくつもの不動産を所有しており、この『長靴マンション』は一階から八階まで、祖母とその子供たちしか住んでいないという特異な物件だった。
構造はワンフロアに一つしか部屋がなく、細い鉛筆のような造りになっていた。一階のみが前に突きだしており、そのシルエットから極端に脛が長い長靴のようだと揶揄されているらしい。
「お前をここに連れてきたのにはわけがある。一年前、
私は録音と知りつつ「ええ」と相槌を打っていた。伯母の莉亜は母の双子の姉で、祖母一家の末っ子にあたる人物だ。死亡の報は母を通じて、だいぶ後になってから知らされた。
母の姉であるにもかかわらず生前はほとんど交流がなく、多忙だったこともあって祖母や親戚のところには顔を出さずじまいだったのだ。
「その莉亜だけどね。私は兄弟の誰かに殺されたと思ってるんだ」
私は思わず「えっ」と声を上げていた。一体祖母は何を根拠にそんな不穏なことを言うのだろう。
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