恋縫

伊荘ろねる

第一話

麻衣と同じ家に住み始めてもう三年になる。

料理、家事、そして容姿と彼女の欠点を探すほうが難しいくらいに完璧な彼女は今は女の子がたくさん移っている雑誌で表紙を飾ったりしている。

そんな彼女だが、初めは麻衣の一目惚れだった。出会ったときに衝撃を受けたのだと少し前に教えてくれていた。

しかし、今では私が麻衣の虜になってしまった。

こんな私が一緒にいてもよいのかと三年たった今でも思うことはあるけど、そのたびに彼女は

「ずっと一緒にいようね。」

と私に甘い言葉をかけてくれる。


三年間一緒に住んで分かったことは彼女は何故か私にめちゃくちゃ甘いということ

ご飯の準備だって後片付けだって。嫌な顔一つも見せず彼女がやってくれる。

これだけ一緒に住んでいると彼女から事前に予定を聞いていなくても、なんとなく彼女が帰ってくるタイミングがわかるようになってしまった。


「もうそろそろ、麻衣が帰ってくるな。」


一人で生活するには広すぎるこの部屋で私は呟いた。

私の身の回りのお世話をほとんどやってくれる彼女に、せめてものお返しの気持ちを込めていつも彼女が帰ってきそうになると玄関でお迎えをする。

たとえ何時間待つことになったとしても、それが私から彼女への愛情表現なのだから。


少しすると家の前からヒールの音が聞こえる。やがてその音は私たちの家の前で止まる。

カバンの中から鍵を探し、鍵穴に差し込まれるのがわかる。

三年も一緒にいるのになぜかこの時間は嬉しくなってしまう。そう思っているとドアが開き彼女特有の甘い香りが部屋全体を包み込む。


「ソラ、ただいま。また玄関で待っていてくれたの?自分の部屋で待っていてくれていいのに…。」

そう言って彼女は少し困ったように笑う。


「麻衣、おかえり。」

そう寂しかった気持ちと、嬉しさを載せて返す。


「今日もいい子にしてたかな?」

「麻衣のことを考えながら待ってたよ。」

少しふざけた様に笑う彼女へ、私が言葉を返すと彼女の透き通ったように白い手が私を抱きしめる。


「麻衣とこうしている時が一番幸せ。」

今朝ぶりの彼女に感情が溢れ出てしまう。


「ソラは本当に抱きしめられるのが大好きだね。」

そう言って幸せそうに笑う彼女。


「着替えてくるから待っててね。」

私個人の感想としては、もう少しこうしていてもよかったのになんて思っている間に、彼女は寝室に向かった。まだまだ彼女が足りなくて私は彼女の後をつける。


着替えている間そばで待っていた私は、彼女の着替えが終わると同時に麻衣ちゃんに飛び掛かった。


「もう、今日はいつにもまして甘えん坊さんだね。」

言葉とは裏腹に嬉しそうな顔をした彼女が私を抱きしめる。

このまま二人の時間が始まるかに思えた矢先、彼女の携帯が振動と共に連絡が来たことを伝える。その連絡を見た彼女は、何かを思い出したかのように立ち上がる。


「そうだ、この後お客さんが来るんだった。ちょっとお掃除するから、ソラはそこらへんで座って待ってて。」

そう言って掃除を始める彼女


「一応ここは俺の家でもあるんですけど。」

そう呟くも手伝えることはないので、大人しく言われたとおりに座って彼女の掃除っぷりを眺める。掃除をする姿さえも可愛いな、なんて思っていると家のインターホンが鳴る。


「もう来ちゃったの?」

そう言いながら、モニターを見る彼女。そのモニター越しに男性の声が聞こえる。


「予定の時間よりも早くない?あんまり綺麗じゃないけど、どうぞ。」

そう言って彼女がモニターを切る

数分後家のチャイムが鳴り、背の高い男性が家に現れた。


「お邪魔します。麻衣ちゃんの部屋思ったよりきれいだね。」

「思ったよりって何ですか?」

「いやいや、冗談だよ。すごく奇麗な部屋だね。」

私をまるでいないものかのように扱う彼女と、その彼女に馴れ馴れしく話しかける男性に苛立ちを覚えた。


「ねえ、麻衣この男の人だれ?ていうか俺、お客さん来るなんて聞いてないし。そもそもこの人麻衣とどういう関係なの?」

私のことを気にも留めずに話し込む麻衣に声を荒らげる。


「初めまして、橋本真司です。麻衣ちゃんとは仲良くさせてもらってます。」

彼女に気を取られていると、男性が私に近づいてそう答えた。


「貴方もこんな時間に人の家に現れるって常識あるんですか?ていうか、麻衣とはどんな関係なんですか?さっきから凄い親しそうだし。『麻衣ちゃん』なんて呼んでるし。」

急に現れたこの男性に対してついつい声が大きくなってしまう。すると


「ソラ、こんな時間に大きい声出さないで、 近所迷惑でしょ?」

そう彼女が少し怒った表情で私に言う。しかし、それでも私の熱は冷めずに、二人に詰め寄る。


「私が質問してるの。二人はどういう関係なの?麻衣は俺だけじゃなかったの?」

そう言って私はその男性に向かって飛び掛かった。

男性は少し困った顔で笑うと、彼女のほうへ目配せをする。

するとついに彼女が


「ソラもういい加減にして。」


そう言って私を抱きかかえ、ゲージの中へ入れた。


「ごめんね、いつもはあんなに吠えたりしないのに」

「全然大丈夫だよ、これからソラ君とも仲良くなっていきたいからさ。」

「真司君ありがとう、そういえばごはん食べた?簡単なものなら今から作るけど」

「それよりも..」


そう言って彼は麻衣を抱き寄せ口づけをした。

私は二人の声をただゲージの中で聞いていた。

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