第2話 交渉

業務日報

 新芽の月十日

 記録者 コンス侯爵家冒険公社 スーナ支社長 男爵サイアム

 収支報告は帳簿の通り。春素材の供給が落ち着いてきたので買取価格を戻す。

 本日、要塞都市クロイツより弊社荷駄隊到着。予定通り出荷分を積み込み明後日出発予定。銀行に向け、先受け分の金額からの相殺額の報告も送る。

 道中、ゴブリンの斥候を見かけたという報告を受けた。目撃者を呼び、ゴブリンに詳しい登録冒険者にチップを払って聞き取りを実施。おそらく猟師だろうという意見。地図を作っているのではないかと思われるが、目撃者も彼らの持ち物を詳細に見ているわけではないので不明。

 本日、交渉団が出発。少人数は危険なので、総勢二十人ほどとなる。出費がいたいが、ケチな伯爵はびた一文ださないだろう。

 客人が指揮を執るらしい。あまり目立たぬよう言い含めておいたのだが。

 「友人」からの手紙も受信。帝都では客人を追放した皇子の探索隊の成果がさっぱりになっているらしい。客人の後釜は一時的なことだと主張しているが、そろそろめっきがはがれるだろうということだ。そうなると皇子が彼を呼び戻そうと思うだろう。まだ、行方のほうは把握してないらしい。

 出荷時、「友人」への返信をあずけることにする。


業務日報

 新芽の月十五日

 記録者 コンス侯爵家冒険公社 スーナ支社長 男爵サイアム

 収支報告は帳簿の通り。素材の集まりが悪い。買取価格を上げざるを得ない。

 侯爵領の森に密猟者が入っているのではないかという疑惑の声があがっている。

 養生中のダンジョンの扉の封印が破られていたり、禁猟区域に焚火の跡があったそうだ。スーナの町に密猟者を疑うような人物の目撃報告はない。また調査を依頼しないといけないのか。まだ半期は始まったばかりなのに。

 ゴブリンとの交渉が終わった。ほぼ、こちらの条件通りでまとまってうれしい。加えてゴブリンたちから交易の申し出があったので弊社で取りまとめを行う。伯爵家には少し分け前をやればいいだろう。明日、直接談判にいく。

 彼らは故地に戻ることを切望しているらしい。客人の意見では、名こそあげないがこれは帝国貴族が後ろについている追放劇で無理な話だろうということ。

 そのため、ゴブリンたちは年限を定めて以降は伯爵の保護民となることでまとめたそうだ。伯爵は私的な納税を受け、私的な保護を行うことになる。領民には数えないので、帝国中枢よりもとめられる負担は増えない。伯爵領の防衛に限り、ゴブリンたちは助力の義務を負う。これは公然とではないが、実はよくある関係だ。関係を結ぶ相手はゴブリンよりドワーフやエルフが多いがないわけではない。

 間違いのおきないように外見、合言葉の符丁をさだめたそうなので、違反者に貸す処罰も含め徹底を指示する。

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