哲学者魔王
三上 獬京
プロローグ
これ程の憂鬱さは無いと、早朝の定刻通り場所に到着したマーカスは思った。目の前にはなめした革を主とした、露出が少なく防御力も低い装備をしたブロンド髪の青年の他に軽装のいら立ちを隠す事なく足を揺らす男。
「やあ、僕がフェザリオンで彼がレッチ。今回はよろしく頼むよ」
「あ、ああ……よろしく。俺は上級指南役のマーカスだ。今回はロックドレイクの討伐依頼を受けるって事で良いよな?」
「ああそうさ。頼りにしているよ、マーカス」
そう言って輝く笑顔を振りまく姿に俺の不安は加速する。
ロックドレイクの討伐は
頼りにする、というのは指導者としてではなく戦力としてという意味だろう。
金持ちが箔をつけるために冒険者になるのが最近の社交界の流行と友人が言っていたがどうやら本当らしい。汚れを知らぬ鎧や剣には使われた形跡はほとんどない。しかし1番の問題はそこではない。
「フェザリオン、君のパーティは前衛職3人と後衛職2人と聞いていたが、まさか遅刻しているのか?」
フェザリオンはその言葉に変わらぬ表情で言った。
「その2人なら昨晩に解雇したよ。彼らの仕事は終わったからね」
ハーバルはその言葉に口を噤み天を仰ぐ。そして腰かけから小さな手帳を取り出してペラペラと捲り、目的のページを見せつけるように前に出す。
「ギルド規定として、『パーティメンバーの変更は1週間以上前にギルドに告知する事』そして上級依頼受諾条件は『パーティメンバー変更後はパーティランクスコアを初期化し、当パーティで少なくとも8回の依頼達成の必要がある』。この意味が分かるか?」
「もちろんだとも、変更はギルドに報告したし、8回以上達成の成果はある」
そして取り出したカードには紛れもなく3人のパーティの依頼達成回数が8回となっていた。
「確かに条件はクリアしているか……」
むきになるでもなく冷静にカードを示すフェザリオンに評価再検討の必要性を感じながら一度頷き外壁に隣接した関で手続きを済ます。
「今日中にけりをつける。調査隊からの資料は読んできたな?」
「『ロックドレイクは最大で3ユリウス長、8ユリウス重。名の通り体表が岩石のように硬質な素材で覆われており、斬撃武器は意味をなさない。そのため打撃武器による攻略が最良』」
標的の住処への道中、レッチが初めて口を開く。
「『外皮を突破すれば内皮は非常に柔らかく破れやすい。外皮の攻略が最重要である』」
「わかった」
マーカスの静止に饒舌なレッチは舌打ちで答える。
レッチを先頭にフェザリオン、マーカスの順で高木の森林を進んで行く。
ふと視界に白色の蝶が一体飛んでいた。血の匂いに敏感に集まる飢餓虫と呼ばれる蝶だ。
蝶はフラフラと風に逆行するように木を縫って飛び、不自然な盛り上がりに止まるとその羽を赤く染めた。
二人に待機するよう言い、その盛り上がりに近づくとそれは正しく今回の標的たるロックドレイクの死骸だった。
体の芯から真っ二つに綺麗に切り裂かれ、垂れた臓物に飢餓虫が群がっていた。
「しかも恐ろしく切れ味のいい、斬撃による一撃死か」
懐布で鼻を少しつまみながら近くに落ちていた成形された木の棒を拾って内臓を探ると、内臓はあまりにも無防備で綺麗な状態であった。
「ん……?木の棒がなぜこんなところに……?」
「使いやすいだろ。それ、振ってたら結構いい感じになってさ。お久しぶりだね、おじさん」
話しかけられるまで一切の気配に気が付かなかった。それほどまでに自然と融合した出で立ちだった。その声といい体格といい、脳裏によぎるのはたった一人であった。
「そんな……兄上……!?」
その日、三人の冒険者が行方不明になったことはすぐに忘れられたことだろう。
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