6 「ロリのときはこういう格好なの……」
「もし、私が定期的にロリになったとしても、それでもあなたは私のことを好きでいてくれる? ロリな私も愛してくれる?」
わずかに冗談っぽさを含ませた声色で、姫奈(ひな)は葵太(あおた)に尋ねた。精一杯無理をして、明るくいたずらっぽく尋ねたようだが、声の震えやかすれは隠せていなかった。朝のまだ冷えた空気が揺れた気すらした。
相当勇気を出して告白したのが、幼馴染の葵太にはわかった。
幼馴染だからこそ、葵太にはわかった。きっと、自分が長年の片想いを明かした以上に、姫奈は緊張したことだろう……誇張ではなく、そう思えた。
だけれど、正直、姫奈がこの話をし始めたときから、葵太の気持ちは決まっていた。だから、「ロリな私も愛してくれる?」と尋ねられた瞬間には、葵太にはもうなんの迷いもなくなっていた。
そんなの受け入れるに決まっている。ロリ返りがなんだ。月に一度ロリになるからと言って、姫奈が姫奈じゃなくなるわけじゃないじゃないか。そんなのは姫奈と付き合えるなら些細な問題に過ぎないじゃないか。
だからこそ、
「当たり前だ。姫奈、俺は……」
すぐに返事しようとしたのだけど、
「待って葵太! 私に提案があります」
「提案?」
「そう、提案。ほら、せっかく土日なんだから、一緒に過ごしてみないかなって。論より証拠というか」
結論を急ごうとする葵太をなだめるかのように、姫奈が人差し指をピッとさせる。パジャマがブカブカなせいで、第一関節くらいまでしか出ていなかった。世の中には萌え袖という言葉があるが、もはや萌えパジャマ感だ。かわいい。
正直、どうなろうと葵太は葵太は姫奈と付き合うつもりだったし、彼女の特異体質とも付き合っていくつもりだった。数十分の時間のなかで、その決意は固まっていた。
しかし、ロリ化する彼女を持つのがどんなかなのかは、実際に体験してみないとわからないことだ。味わったうえで改めて決意を告げたなら、彼女も安心するに違いない。
「わかった。じゃあ2日、一緒に過ごしてみよう!」
葵太の言葉に、姫奈は小さな肩をほっと撫で下ろしつつ、同時にどこか緊張感を含んだ声で、
「……ありがと」
小さく返した。
○○○
「……お待たせ」
話し合いから10分後。書庫で葵太が時間を潰していると、廊下に消えていった姫奈が戻ってきた。
「姫奈、遅かったな。何をして……ってぶわっっ!」
「ごめん、なんか勇気が出なくてさ……」
頬を赤く染めながら、姫奈は視線を逸らす。なぜこうも照れているかと言うと、それは彼女の服装にある。小学生用の、女児服を着ていたのだ。
白とピンクのフェミニンなTシャツに、ピンクと黄色のチェックスカートを合わせたスタイル。どのカラーも白が混ざったような薄い色合いであることを踏まえても、女児でしか、女児の華奢な体躯でしか、女児服でしか成立し得ない色の組み合わせだ。年齢の割に、大人っぽい雰囲気を持つ普段の姫奈とは、間逆な出で立ちである。
「ひ、姫奈、その格好はっ!」
「ロリのときはこういう格好なの……べ、べつにこういうのが積極的に着てるわけじゃないんだよ!? ただ、サイズ的に普段のだと動きずらいし、かと言ってこのサイズ感の大人向け服って意外となくて、それで仕方なく着てるというか……」
そう話しながらも、見る見るうちに姫奈の頬は真っ赤に染まっていった。ロリ時はJK時よりも頬が丸くなるせいで、今やさくらんぼのような感じ。
「な、なるほど……」
「なるほどって何よ! 勇気出して着てきたのにその反応? なにか問題でも!?」
「いや、問題はないよ。変じゃないし、むしろ似合ってるんだが、似合ってるのが問題というか……」
そうなのだ。ブカブカのパジャマもそれはそれでかわいかったが、ロリ状態の姫奈が女児服を着ると、かわいさがより際立っていたのだ。
実際、こうやって不満げに頬を膨らませているのを見ていると、指でツンツンしたくなるし、抱き締めたくもなる……葵太はナボコフ的な欲求を持ってはいない側の人間だと自分を解釈しているが、それでも人並み以上には子供好きな質なので、それゆえあまりのかわいさに動揺してしまったのだ。
少なくとも、彼女が16歳の高校2年生であるなど、今の馴染んだ格好を見て思う人はいないだろう。それくらい、姫奈は10歳の少女でしかなかった。
「いやでもかわいいし」
「か、かわいいかな!?」
「少なくとも、普段の服を着てブカブカなのよりも自然ではあるかな……」
「か、かわいいかな……??」
「うん……か、かわいいよ」
「……えへ♡」
葵太としてはサラッと言った一言だったが、姫奈は過敏に反応。流すことを試みるも、もう一度尋ねてきて、最終的にデレた。
……ダメだ。普段かわいいとか照れくさくて言えないのに、ロリモードだと自然に出てしまうじゃないかっ!!! 姫奈が子供の姿をしているから、なんていうか恋愛的な意味合いじゃなく、愛らしい的な意味合いで「かわいい」と言ってしまったわけだけど、でも姫奈は精神的には年頃JKのままだから普通に照れてるぞっ!? いや、なんかいつもより感情表現がストレートな気もするし……(汗だく)
「……姫奈、俺は今からチェンソーマンに転生して、『かわいいの悪魔』を食べようと思う。そうすることで『かわいい』を世界から消去して、このややこしい誤解を阻止しようと思う。『かわいいは正義』と言うだけあって、善悪を超越した存在と戦うことになるからおそらく厳しい戦いになるが……」
「ちょっと待って例えが急すぎてよくわからない」
「放っておいてほしいんだ俺のことは! そうじゃないと、お、俺はもうおかしくなってしまう……!!」
「もうすでにおかしくなってる気がするし、その原因はおおかた私にあるから」
「で、でも、俺はもうこのままじゃ自分が自分じゃいられなく……」
「それに、放っておくのはできないよ。着替えたし、そろそろ朝ごはんにしたいから」
「え、朝ごはん?」
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