第5話 蜜月

翼はバイトを始めた

駅の近くのお菓子屋さん

彼女のイメージにあまりに合いすぎて

つい翼を見にお菓子を買いに行くほどだった

「いらっしゃいませ!」

そのあと顔をみてほほ笑む

「お決まりになったらお声がけください」

翼はじっとこちらを見てニコニコしている

それにすこし恥ずかしくなりながらも注文をきめて話しかける

「え~っと・・・これとこれで」

「ありがとうございます!」

そう言ってケーキを取り分ける

「お会計は800円になります!」

「はい」

翼が声に返事してお金を出す

「800円ちょうどお預かりします!ありがとうございました!!」

そういってケーキのはいった箱を僕の手の中に収める

すると

翼は顔を少しこちらに近づけ

「聡、あとすこしでバイト終わるから少しまてて?」

その問いに

「わかった」

と一言残し店を出る

あまりバイト中に邪魔はしたくないっと思いながら

バイト中にきているだけで充分邪魔だと

矛盾を頭に抱えてとりあえず出る

そして数分後

翼は店の裏口から出てくる

「おまたせ!」

笑顔でこちらに向かってくる

「おつかれさま」

僕も笑顔で迎える

「もう!聡はいつも突然来るんだから!!」

「いや翼のかわいい制服がみたくてね!」

「・・・変態!」

笑いながら返してくる

そのあとはいつも少し遊んで彼女を見送る

そんなことの繰り返しだった

この日もゲーセンに行って彼女が好きなぬいぐるみをとる

そんなまるで彼氏と彼女のような時間を過ごす

しかし、二人の間にはそんな約束や言葉はなく

しかも、彼女には彼氏がいる

モヤモヤした気持ちを抱きながら

今日も駅の前に立つ

この日も手をつないだ状態でそこまで向かった

「たのしかったね!」

翼がいう

「そうだな・・・」

なんかさっきのモヤモヤが言葉を曇らす

「?どうしたの?」

「いや、なんでも・・・だよ」

そう返した

翼はすこし表情が固くなる

「本当に?」

「・・・・」

僕は何も言えずにモヤモヤを消す言葉を探す

沈黙が流れる

「あのさ・・・」

その中をある一言をいうため口を開く

「あのさ、送らせてよ。」

「え?いつも駅まで送ってくれてるよ?」

「いや、翼が帰る地元の駅まで」

「え?だってそんなことしたら・・・お金だってかかるし・・・」

言い淀むしかし

「送りたいんだ!っていうか・・・翼とぎりぎりまで居たい・・・」

その言葉に翼ははっとした表情を浮かべて

すこしして

「うん、いっしょに行こう。私の駅まで」

その言葉にただ嬉しくなり

「ホント?」

つい聞き返す

「うん、お願いします」

そういって頭を下げてくる

そんな行動すら愛おしくて

そのまま抱きしめた

「え??」

困惑を浮かべこわばる体しかしそのこわばりはほどけて

「いきなり抱きしめるのは・・・ずるいよ」

そういって手を僕の体に添えてくれた

そしてそのまま手をつなぎ

切符を買いに行く

そして

「いこうか?」

そう声をかけて手をつなぎ改札を抜けた

僕はなんか一つ関門を抜けた気分だった

それから二人は列車が来る時間も

来てそれに乗り込んでからも

ずっとつないだ手を放すことなく

たわいない話をしながら彼女の地元の駅までを過ごした

「次は・・・」

車掌さんの声がする

「あ、次だ・・・」

翼がいう

「そうか・・・」

さっきまで楽しかったのにいきなり寂しさがこみ上げる

それは駅で別れていた時とは比べ物にならないほどに

そんな思いをよそに列車は彼女の地元の駅に着いた

シュー―――

ドアが開く

そこを二人手をつなぎ降りた

「・・・」

「・・・」

無言で降り立つホーム

無数の人が出口へ向かい改札を抜ける

まばらになるホームそこに立つ二人

本当は手を放して翼を送り出すのが正解だと思う

けど、体がそれをこばんだ

翼も手を離さない

そして体が無意識的に動いた

翼の手を優しく引き寄せ

そして彼女の体を包む

さっきとは違い彼女はその行動に逆らうことなく

静かに胸に収まる

無言で数分たっただろうか

「ありがとね、ここまで来てくれて」

翼が顔を胸に押し付けるように声を出す

「ううん、うれしかった少しでも一緒にいれて」

翼の耳元につぶやく

それからまた無言で二人は抱きしめあう

周りの目など気にせず

ただ二人の世界が僕たちを包んでいた

そして翼がすこし距離をあけて

「じゃ、もういくね」

そういって離れようとした

その瞬間瞳がウルウルとうるんでいたそれを見て

離したくたくないそう思った

そして

彼女が開けた距離を縮めて

うるんだ瞳に顔を近づけ

口づけをした

彼女は驚くこともなく静かに受け入れてくれた

胸の鼓動がうるさい

けどそれ以上に彼女と触れている唇が熱かった

少しして顔をはなして翼の目を見る

今もウルウルと潤んだ瞳は変わらないが

瞳はまっすぐ僕を見ていてくれた

「こんな事したら・・・離れられないよ・・・」

そう言って

また抱き合った

「そしたら、離れられるまで一緒にいよ」

そう答えてホームのベンチに座り

お互いの気が済むまで話した

時間は過ぎてふと見る時計

「・・・もう行かなきゃ、怒られちゃうから」

翼は名残惜しそうに言う

「そうか・・・あのさ、また送るよ!ここまで」

「え?」

「送るよってか送りたいんだ翼のこと・・・」

その言葉に嬉しそうに

「ありがとう!」

そう答えてつないでいた手を持ち上げて

僕を立たせて

最後にキスをした

「またね!」

そういって翼は改札へと向かう

その姿を最後まで見送り

僕も列車を待ち

元の駅に戻っていた


翼が使っていた駅

その駅が横に流れていく

窓の外はまた景色が動いていく

あの当時一人で乗って寂しさと

愛おしさを胸に残し

乗った列車

その当時とはまた違う状況で年数を経て

席につき外を眺める

そのあとの二人は

毎日会い

そして毎日帰りを送り

ホームでたわいない話をして

駅で抱き合いそしてキスをする

そんな日々が続いた

それは蜜月というにふさわしい時間だった

しかし、甘い時間は永くは続かない

終わりは突然だった

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