“世界で1番面白いホラー短編集”

木岡(もくおか)

第1篇 本気の人

第1篇① オフ殺

 男はスマホで自殺志願者が集まる掲示板を覗いてた。慣れた手つきで画面を操作して、書き込まれた文字を読んでいく。お気に入り登録されたそのサイトを覗くことは男にとっていつもの日課だった。


 「本気で自殺を考えています――」、「自殺のスポットとかやり方教えてください――」。今日もありきたりな書き込みが増えていた。何度も目にしてきた文字の羅列にため息を吐いて、男は無感情でアプリを閉じる。


 彼らは大体そんな書き込みをしているだけだ。検索したら出てくるような自殺サイトでは。言葉で言っているだけ。


 おそらく誰かに構ってほしいから。動機となる重い悩みは皆それぞれあるんだろうけど本当に本気で自ら命を捨てようと思っている人はたぶん、インターネットで公に宣言したりしない。


 でも、たまに見つけられるんだ。本気の人が……。


 男の趣味はその本気の人を見つけることだった。ネットサーフィンをすることで本気で死にたい人、死ねる人を探すのだ。だから、自殺志願者が集まる掲示板をお気に入り登録していた。


 自殺志願者が集まる掲示板を渡り歩いたり、人生に絶望している人をあらゆる方法で探す。最近はSNSでの検索が熱かった。ハッシュタグを付けてまで自殺についてつぶやいている人がたくさんいる。


 そして、もっと言うと本気の人を自ら殺すことが男の趣味だった。男が本気の人を探すのは人間を殺したいから。


 短く言うと殺人。それが男の趣味だった。


 殺人なんて願ってもなかなかできることではないけれど、本気の自殺志願者相手ならできる。本気の人とコンタクトを取って、外へ連れ出し、誰もいない所へ連れて行って……殺す。本気の人が相手なら自らそうされることを願う人さえいる。


 インターネットで出会った人とオフラインで会って殺す。今風の造語にするとオフ殺といったところだ。


 絶対に人には言えない邪な趣味。殺人に快楽や喜びを求めるという禁断の趣味だった。


 直接手を下せたらそれ以上はない最高の事であるが、なかなかそう上手くはいかない。自殺をしたいと思っても直接他人に殺されるのは嫌という人も多い。それもネットで知り合い、初めて会って1発目で殺させてくれる人はなかなか……。


 そう悩んだときは自殺におすすめの場所を紹介した。自殺の簡単なやり方も。自殺志願者を自殺へと誘導するのだ。最後の1歩を後押しする。そして、自殺の現場へ出かける。


 男は非日常をリアルに体験できるだけで満足だったから。人間の死体を見れるだけで良かった。


 この趣味のポリシーは完全犯罪だ。欲望は満たしたいけど警察に捕まるのはごめんだ。絶対に見つからないように注意を払う。だから、無理はしない。最悪、見つかっても相手が自殺志願者だから罪も軽くなるだろう。


 そんな狡っ辛い男はまたネットで本気の人を見つけた……。

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