小説百本ノック

常盤しのぶ

1日目 休日の占いと映画(お題:結果論)

 外に目をやると、いつの間にか夕日が落ちようとしていた。カラスが鳴き、どこからか帰宅の合図を知らせる電子音が流れてくる。

「もうそんな時間か」

 ふと口から漏れた言葉は、誰の耳に入るでもなく、部屋の片隅へと溶けて消えていった。


 ◆◆◆


 久々にまる一日の休日が取れた。特に何がしたいというわけでもなかったが、何かにつけて仕事関連であちこち動き回っていたため、休日らしい休日が取れていなかった。三ヶ月ほどそんな日が続き、流石に身体にガタが出始めたため、上司へ休暇の依頼を出した。上司は上司で私の懸命な働きぶりを知っていたため、休日自体はすんなり取れた。たった一日だけだったが、それでも万々歳だ。


『今日のラッキー星座は蟹座のあなた! 何をしても上手くいく日。チャレンジしたいことがあれば今日から始めてみて!』

 朝食のコーンフレークがいつもより美味しく感じられた。たまらずおかわりを用意する。

「チャレンジ、なぁ」

 そういわれても向上心のないばかな私には、進んでチャレンジするような何かを持ち合わせていない。何が良いだろうか。折角なら休日を活かした何かをやってみたい。

 おかわりのコーンフレークを食べながら 10分ほど考えた結果、映画館で映画を何本か観ることにした。何か面白い作品に出会えるかもしれない。


 恋愛映画を映画館で観るのは初めての体験だった。イマドキの若手女優と若手俳優を起用した漫画原作の青春ラブストーリーとの触れ込みで、客もそこそこ入っているようだった。私のような中年男性一人というのは、流石に他にいなかったが。

「……私には合わなかったのかな」

 昔からあるようなベタなストーリーに人気の芸能人をくっつけて映画にしました、そんな感じの映画としか言えなかった。私は映画評論家に向いていないのかもしれない。


 次に観た映画は海外制作の長編シリーズの最新作だった。SF寄りで日本でもコアなファンが多い。しかし

「さっぱりわからんかった」

 その長編シリーズは名前だけでしか知らない私にとって、今回公開されていた映画は途中から読まされたミステリ小説が如くストーリーの解読に苦労した。知る人ぞ知る、という類なのだろう。


 歴史の伝承をコメディタッチで描いた今回の映画は、今まで抱いていたイメージを打ち崩すという意味で確かにある種一定の面白さを感じられた。監督もそういうコメディ系の映画やドラマで名を上げた人物らしい。

「面白かったけど、なんか違ったなぁ」

 面白かった。確かに面白かったが、題材にした歴史と担当した監督のコメディ色がミスマッチしているように思えた。もう少し違う題材、もう少し違うコメディタッチにするともっと良くなったかもしれない。これも私は上手く言語化できないのだが。


 なんとも言い難い何かを抱えたまま部屋の鍵を開けた。何か良い映画に出会えればと思い、映画館で何本か映画を観たが、今日はあまり良い収穫とは言えなかった。今日観た映画も、今日の私の休日そのものも、結果だけを見ればあまり良くはなかったかもしれない。が、それはあくまで結果論なので、今日の占いの結果が良かっただけでも良しとすることにした。

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