忘れないから。
「マリア様」
クロエが頼んでいた紅茶を持ってきてくれた。ローズの香がとても上品で、心地よい。紅茶がやっぱり好きだ。
「ありがとう、クロエ」
「千五百歳のお誕生日、おめでとうございます」
そうか。あたしももう千五百歳。お母様が戦いに行ったとき、あたしは七百歳だったっけ。今ではあたしももう王の座に立っていて、国民を統率している。
でも、やっぱり国民はお母様の政治の方が満足そう。あたしはまだまだ未熟で、判断力も鈍い。だから、よく「王女様みたい」と言われる。
王女様みたいと言われるのは、苦ではない。まだまだ子どもでいていいんだ、という気持ちで満たされるから、少し安心感を覚えるのだ。
あれから、アウロスと国交を結んで、平和に過ごしている。偏見をなくし、互いに手を取り合うことは大切だし……ね?
「ありがとう。お母様に報告したいんだけど」
「勿論です。さあ、アネラ様のもとへ行きましょう」
人間界の人間は、エステラを見つけた。そして、エステラへ行けるようにもなった。様々な異世界と今は繋がっている。
あたしは、お母様の遺した魔法陣の上に乗った。ここから、繋がっている筈。
気が付けば、新宿というところの、お母様と旦那さんのマンションの一室に来ていた。
「マリア!!!」
「お母様!!」
あたしはお母様に駆け寄り、ハグした。
最近仕事が忙しくて会えていなかったから、物凄く久しぶり。全てが懐かしくて、ちょっと泣きそうだった。
「マリア、今日も可愛いね。今日で千五百歳でしょ? おめでとう。こんなに可愛い千五百歳、いるかしら」
あたしの頭をすり寄せるお母様。親バカモード入っちゃったか……まあいいや。こんなお母様も大好きだし。
「いいから、ちょっと落ち着こう」
「はーい」
母娘の立場が逆転した様で、おかしい。いつもお母様は面白いよな。あたしが冷静すぎるだけかもしれないけど。
「それにしても、最近のエステラはどう?」
お母様が尋ねてくる。そうか、エステラから人間界には、魔法陣で割と簡単におけるけれど、人間界からエステラには、特殊な機関を通らないといけないのか。異世界ステーション、だっけ?
「アウロスのムルシエラゴとも仲良くやれてるよ!!」
あたしが元気にそう答えると、お母様は安心したような顔をして、あたしの頭を撫でた。
「流石ね。あなたならできると思ってたわ。あたしも、ムルシエラゴと仲良くしたかったなあ……」
遠い目をするお母様には、まだ後悔があるようだ。じゃあ、それをあたしがどんどん叶えて行かなくては。
「仲良くできるのが、一番いいからね。これからも、仲良く、楽しくやっていくよ!」
「ええ! またいつでも遊びに来てね」
もう一度ハグをして、魔法陣に乗る。最後までお母様に手を振った。
また、遊びに来るね。
元のマウカ城。さあ、今日も頑張ろう……!! 王に休みはない。常に国民のことを考え、行動しなくてはならないのだ。大変だけど、苦ではないよ。だって、エステラが、国民が、大好きだから!!
あたしは机について、一冊の本を手に取る。そこには、お母様、そしてその仲間のことが書かれていた。
「命を懸けて悪魔の皇帝と戦った、星々の従者、海のペガサス、雷神の子、悪魔の狼娘、黒猫のヴァンパイアの生まれ変わりは、今後のエステラ史において最も名を遺すであろう。英雄である五人は、もっと讃えられるべきだ……」
本当にその通り。あの五人の遺した功績は、数知れないのだ。
ムルシエラゴとも友好関係を築こうとしたその優しい心。心の底からエステラが好きだという気持ち。全て本物だ。
……絶対に、忘れない。忘れられる訳がない。
英雄、海のペガサスの娘であることを一生の誇りに思う。この血縁、生まれた場所。それは全て、あたしが「選ばれしもの」だからこそなのだ。
選ばれたあたし。その命を、宿命を、全うする。その勇気を授けてくれたのは、あの英雄たち。レウェリエ・クリースはエステラで、お母様……アネラ・アンナ・フェルナンデス、雷雷姫、アナソフィア・ムーン・エリオット、エレナ・アンジェリは人間界で幸せに暮らしているだろう。
四人の心が、幸せで満ちていますように。あたしはグッと祈る。
エステラの平和を、五人の幸せを、全世界の友情を。
春風が外を吹いた。あの春風がもし、八百年前に吹いていなかったと思うと、今頃もうムルシエラゴにエステラは支配されてしまっていたのかな。そう考えると、運命への感謝が止まらなくなる。
——いつまでもエステラが、平和でありますように。美しく、愛おしい世界でありますように。五人が幸せになりますように。また、蒼き夜に宿命が告げられますように。
あたしは、五人のことを忘れないから。
美しきエステラは、蒼き夜に舞い降り、宿命を紡ぐ。 れしおはる @Haru0706
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