来世でも。

 廃屋に入り込んだあたしたちは今、作戦会議をするところだ。

「デスグラシアの住む神殿はここから三分のところにある。そう、あそこ」

 ソフィアの指差す先は、真っ黒な神殿だった。いかにも「入ってはいけない」というオーラを醸し出している。 

「デスグラシアとどう戦うか。そこが問題なのよね」 

 頭を抱えるソフィア。アネラがはいっと手を上げて、立ち上がった。

「弱点はどこか、判る?」

「瞳。ムルシエラゴは桔梗の瞳を攻撃されると、一気に弱るわ。でも、彼奴は攻撃を避けるのも、攻撃をするのにも秀でているから瞳を攻撃する前にあたしたちがやられる可能性の方が十分高い」

 瞳を攻撃するのは、簡単。けれどもこれはデスグラシア以外だったらの話。デスグラシアは圧倒的な戦闘力で、とにかく倒しまくる。

「まあ、簡単な方法はあるけど……」

 ソフィアがボソッと、本当にボソッとそう呟いた。けれども皆目を輝かせて、ソフィアにグイっと近づく。

 あたふたした表情のソフィアは、「落ち着いて」と皆に言う。

「あの……死亡確率百パーセントの方法だけど、いい?」

 苦笑いするソフィアだが、皆自信満々に頷く。

「自爆。一人はデスグラシアに突っ込んで瞳を刺す。もう一人は神殿上空から飛び込んで神殿を炎に包む。その後デスグラシアに体当たり。待機していた三人は止めを刺し、神殿を破壊。その後、デニーロとアネラの前世、想いを寄せていた人を救出。っていうのが一連の流れだけど、どう??」 

 ソフィアの提案が終わると、皆黙り込んでしまった。それもそうだろう。仮にそれをやるとして、誰が自爆するのか、他の三人はどうするのか、とかいう話が死ぬほど出てくる。

「でも、この方法でしか確実に倒せる方法と言うのがないの……」

 落ち込むソフィアの背中を雷姫がさする。仲間を失う。その言葉は今のあたしにとっては、死ぬほど重いものだった。

 皆一様に暗い顔をして俯いている。誰かいい提案してくれないかな……。が、雷姫とソフィアは小声で何か話している。どうしたのだろう。何かいい案を思いついたのだろうか。

「……さっき、あたしが言った自爆作戦で行くことになったけど、いい? 自爆担当は、あたしと……雷姫」

 ソフィアがおずおずと皆に伝える。

「……え!?」 

 皆、何が起こったのか理解できなかった。自爆作戦決行?? ソフィアと雷姫が自爆担当?? え?? 

「あたしたちがこれをやるのには、理由がある」

 雷姫が、特になんとも思っていない様子で発言した。あたしの中では悲しみが止まらないのに。

「レウェリエ、アネラは、まだ目的を達成できていない。逢うべき人に逢えてないから。だから生きないと。エレナは、前に『やりたいことを見つけられない』って言ってたじゃん? あたしたちはエステラに悔いなんてない。だからちゃんとやりたいことを見つけて生きてほしい。判った?」

 全員、涙が止まらなかった。二人も、本当は怖いのだろう。肩が震えている。逆に、怖くない訳がない。デスグラシアを倒す、ただそれだけのために自分の命を犠牲にしなくてはならないからだ。

「明日で、あたしたちの命が終わるわ」

 ソフィアが窓の外の星空を見ながら、切なげに呟いた。え? 明日? いくらなんでも、早すぎない? 

「決意がもう固まっているうちに、いきたいの。お願い。あたしたちは、何も怖くない。だってさ、一緒だから」

 あたしは心から祈った。この二人が、来世でも絶対に結ばれますように。幸せに、こんな命の終え方をせずに済みますように。

 目から涙が零れたその時。夜空を、流れ星が横切っていった。

 

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