愛する人を見つめ、星空を見つめ。
四つの願い。
はっきりと、理由があったはずなのに。
マリアのためにも、もうやめようと決意したはずなのに。
というかこれ、いつの……??
自分は手首を見て戦慄した。
手首、足首、腕、太腿。四肢に広がる歪に巻かれた包帯。巻きなおそうとした時、手首に原因不明の傷があることに気が付いた。
昔は、突然王として世間に放り出されたショック、母親が亡くなった悲しさによく自傷行為を繰り返していた。が、マリアを授かってからは、マリアのためにも自傷行為は封印。それ以前にマリアが愛しすぎて自傷行為なんてしなくても平気だった。
だが、包帯に覆われて今も存在している傷跡。
よくレウェリエや仲間に、「どうしたの?」と心配される。その時は決まって毎回、「戦った時の傷痕」と言ってごまかすが、最近それが苦痛になってきた。
自分を傷つけることなんかしなくても、幸せになれるはずなのに。
でも、自分が自分でいられる方法は、これなのだ。
あたし……いや、自分の空想の中でも「僕」と呼ばせてほしい。
僕は、貴族の中でも上位に位置する貴族、
幼い頃から自分とひたすら戦ってきた。何故かって……?? 大体もう察せたかと思うけれど、一つのこと、たった一つのことなのにその一つの重圧が重すぎて僕には耐えきれなかった。
そう、「性別」。
性別で制限されることは、多い。例えば、僕は学校に行ったことなんてないからソフィアから聞いた話だけども、例えば制服。あれは男か女で決められる。並び方もそうだ。
僕は自分が男女どちらとでも思ってない。唯一言えるのなら、自分の性別に違和感がある。
性別に関して、僕は色々言われたことがあった。
両親からは「早く結婚しなさい」親戚からは「女の子らしくしなさい」友達からは「どんな『男の子』が好きなの?」。もううんざりだ。
性別に囚われ、囚われまくった結果、自分は誰にも本当のことを打ち明けられない、嘘つきで最低な奴になってしまった。もう自分が嫌いで嫌いでたまらない。エスカレートする自己嫌悪。全てが嫌いで、もう生きる希望を見いだせなかった。
ソフィアに出逢うまでは。
彼女もまた、自分らしさを貫いている人だ。
ムルシエラゴの血筋も、夢が人形になることでいつも洋服が周りと一風変わっていることも、ソフィアだからこその魅力だ。
彼女とは、二百年前、百合の花が咲く丘で出逢った。
それこそ、運命だったんだと思う。あの場所で彼女と出逢っていなかったら、今もひたすら自己嫌悪に苦しんでいたと思うから。
彼女と愛し合うことに抵抗なんか一切ない。そもそもなんで周りはそんな冷たい目で見てくるのだろう。別に、なんだっていいじゃないか。人の恋愛に口出しするだなんて、御節介もいいところ。
正直、彼女がこの世からいなくなるなら、死んだ方がまだマシ。彼女のいないこの世だなんて、意味がないから。
……僕は左耳にピアスを開けた。
あたしは、活発に友達と遊ぶより、ソファにちんまりと座って、じっと人の話を聞くことの方が好きだ。
何故? あたしは、お人形になりたいんだ。
黒髪に、ストレートの姫カット。ぱっつん前髪。自分で作ったゴスロリの服。スカートはお人形らしく、膝上かミモレ。フリルをつけて、黒いパンプス、白いタイツ。これが、あたし。
でも、日に日に大人になる日が近づいているかと思うと、嫌だ。お人形なんかにはなれないという現実を突きつけられている気がして。だからあたしのこのファッションは永遠に続けるつもりだ。だって、これこそが自分らしくいられる方法なのだから。
あれだけ恨んだ血筋が、お人形になると少しマシに感じる。黒髪なんて、普通にエステラで生まれていたら滅多にならないし。
でも、何か違うんだ。お人形になれていないんだ。
あたしは今日もフルーツを切っていた。
果物屋の仕事はとても楽しく、マウカの大通りにあって収入もいいから大好きな仕事……なのに。何故か最近、つまらないと感じてしまうんだ。
退屈。朝早く、毎回同じ農家さんからフルーツを買い、八時の開店前にそれを全て洗って、切るものは切ったりする。近くのケーキ屋さんに果物を売る。毎回同じ顔ぶれのお客さん。夜の九時、閉店。その後も掃除やらお金のやりくりやらに追われ、寝るのは夜中の一時。そしてまた朝の五時に起き、また同じような一日。
休みなんかない。あたしだって同年代の子たちと一緒に遊びに行ったりしたいのに。
思えば果物屋も、父の跡を継いだだけ。自分にやりたいことはなかったのか。寝る前に毎日、考えてしまう。
楽しくない。
いつか、幸せになりたい。
自分らしく、生きたい。
自分の夢を、叶えたい。
やりたいことを、見つけたい。
悲し気な四つの願いは、夜空に消えて行った——。
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