乾く体の見る夢
防護服と一体となった液晶に、「作業
(今日の場所も、随分と喧しい景色だったのだな)
外に出ると、私のように防護服を着た作業員が数名と荷物を運ぶ数百のドローンが、列を成して運搬用ヘリコプターに向かっていく。巻き上げる砂塵と汚染された大気のせいで、世界がやけに黄色に見えている。
ここは地下なのか、それともどこかの空の下なのか。それを知ったところで何かが変わるわけでもない。私を含めた作業員はみな、ただ前を向いて所定のヘリコプターを目指していた。
普段よりも分厚い防護服のため外の音は全く聞こえないが、おそらくヘリコプターの音とドローンの駆動音が空気を乱暴に行きかう地獄の空間だ。何百回も居合わせているはずだが、自覚をするたびに説明しがたい不快感に体内がむず痒くなる。ゆらゆら揺れながら歩く仲間を追い越し、私はタラップを少々乱暴に駆け上がる。簡易的な除染通路を通り、角になっている席へと一直線に向かうまでが、私の機内でのルーチンワークだ。外の音が聞こえないのだから後ろからやってくる仲間の声も聞き取ることができず、チャットでコメントを飛ばすような間柄でもない。それなりの移動時間が予想されるため、私は仮眠をとることにした。
(……ああ、それにしても)
意識が沈むその直前まで、頭の片隅にはずっと空腹がへばりついていた。
**********
私がこの「作業」に従事するようになったのは、生まれたスラム街を抜け出した数日後だったと記憶している。どんな労働者でも受け入れることを公言する案内所に、もれなく私も吸い込まれていった。ただし、金銭、地位、仲間……聞こえが良い報酬を並べたてておびき寄せては、やってきた労働者を使い潰す気でいる事を、管理組織は隠そうともしていなかった。善意で手を差し伸べる救世主など、都合よくいるわけがない。当時はまだ幼かった私でもわかる、この世の摂理であった。
それでも私が首を縦に振ったのは、ここには食事があったからだ。最初の数年ほどは、腐りかけて廃棄処分となった屑野菜のスープを食べ続けていた。原型をとどめていないのはもちろん、調味料で乱暴に塗りつぶされた味で、材料が本当に野菜だったかも定かではない。客観的に考えると酷い食事だと、今ならわかる。
しかし、それまでの私は、地面に析出した結晶すら這いつくばって舐め取るのが当たり前になっていた。それに対して件のスープは、生活の質が十数段跳ね上がるほどの素晴らしい食事だと、心の底から感じていたのだった。味の酷さのせいで人気がなく、かつ私が成長期だったからだろう。私は毎度監視員に止められるまで、鍋を数個空にする勢いでスープをむさぼっていた。
向上心も反抗心もなかったと言えばそれまでだが、私は幸いにも同じ生活を続けることがそんなに苦ではなかった。形式上賃金は支払われてはいたものの、私は食事をするために作業を行っていると言っても過言ではなかった。それまでの人生を考えると、私は少なくとも不幸ではなかったと思っている。
転機は、管理組織が汚染区域内での仕事を取ってくるようになってからだった。当初は防護服も簡素で質が悪かったため、作業員の死亡が相次いだ。命を落とすとまでいかなくても、皮膚が侵され指先が使い物にならなくなった同僚も知っている。
作業効率の問題だけであればより人を集めて使い潰せば済んだのだろうが、作業員のほぼ全員が耐え切れず、仕事ができていないことが体裁に響いたのだろう。管理組織は、それなりのコストをかけて対策を取らざるを得ない状況になった。
最終的に白羽の矢が立ったのは、ようやく庶民の間に降りてきたサイバネティクス技術だった。『内臓を機械に置き換えてしまえば死ぬことはなくなる』との公言があった日は忘れもしない。作業員の咆哮のような喝采が、どこへ行っても響いていたからだ。死の克服にあまり興味を抱かなかった私は、不快な騒音から逃れるように自室で食事をとっていたと記憶している。
単純に身体機能が上がることに繋がるため、サイバネティクス手術を受けた作業員による作業の効率は、作業内容を問わず飛躍的に上昇した。それに味を占めた管理組織は、間もなくして全作業員にサイバネティクス技術の導入を決定した。被検体の提供について、裏で企業と取引をしたとの噂がまことしやかに囁かれていた時期もありはした。今となっては興味を無くしてしまった者が多く、真相が明かされる日は今後も訪れないのだろう。
その時私も例にもれず、作業をするために……基、食事をとり続けられるように改造処置の誓約書を書かされている。
そして、それから私は――――――
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