おお 勇者! しんでしまうとは なさけない…。
no.name
第1話
ビロリーーーーイ!
〖おお 勇者よ!
しんでしまうとは なさけない…。
そなたに もういちど きかいを
あたえよう。
ふたたび このようなことが
ないようにな。
では ゆけ! 勇者よ!〗
「………………」
このセリフを聞くのは、いったい何度目だろうか。
数えるのもバカバカしい程に繰り返された同じ台詞。
周りを見渡せば豪華絢爛な謁見の間。
周りに立ち並ぶ鍛え抜かれた兵士達。
この光景を見る度に城の中を家探しして宝物庫でも荒らしてやろうかと何度思ったことか。
いや、実際の宝物庫には鍵が掛かっていて入れないのだけど。
だが、家探しなら何度かした。
手に入れられるのは精々微々たる金か薬草、稀に毒消しとかだが、毎回同じ所で手に入る。
はあー。と溜息を吐いてまた同じ作業の様な繰り返しを始める。
「確かここは10ゴールドだっけ?」
ピコーン
【ハルトは10ゴールドを手に入れた】
俺の名前はハルト。
まあ、ユーザー名だけど今はそう名乗っている。
因み俺は勇者でも何でもない唯の一般人……の筈だ。
なのに王様は復活する度、毎に何故だかあの台詞をカマしてくる。
こりゃどう考えても夢だろと思ってオーサマ(笑)とか呼んでいたけど繰り返しが30を越えたあたりから笑えなくなった。
因みに復活と言っているが別に死んだ訳では無いし1度も死んだことは無い。
これはきっと呪いか何かではないかと推測しているのだが、宿屋以外で寝ると時間関係なく毎回あの城の玉座の間で同じ時間に王様にあの台詞を聞かされる。
そこがどこであっても必ずだ。
お陰で初期の頃に知り合った冒険者仲間達には仕事を途中で逃げ出す腰抜け野郎と罵られ、いい感じだった女性には愛想を尽かされる等、散々な目にあっている。
唯一救いなのはレベルが下がったりしないし、手に入れた金や品物は無くなってない事くらいか。
因みにレベルやスキルについて冒険者仲間に聞いてみた事があるが、そんなシステムは存在していないらしい。
詳しく説明しても首を傾げるか、可哀想な奴を見る目で同情された。
それはさて置き、今更薬草や小銭が手に入ってもたかが知れてるのだが、ゲーム脳の俺は手に入るものはゴミでも手にしたい人間なのでせせこましいと思われても、このルーティンは毎回必ずこなすのだった。
「さて、ルーティンも終わったし次は何処回ろうかな?後この国で回ってないのって何処だっけ?」
俺は目の前にマップ表示を映し出し確認する。
このマップは行ったことのある場所を埋めていくタイプの地図で行ってないところは黒く塗り潰されている。
「西側は海だからこれ以上は無理だな。
ミサイヤ大陸まで船旅5日掛かるって言ってたし船の中で寝ない自信ないな、うん。
東は行ける所まで行ったし、これ以上は足早い乗り物でもないと無理だし、北は山脈で寒さに耐えて越えられる自信ない。
大体、登山とか野宿待ったナシじゃん。
でも近くに宿がある街とかあるのかな?あったら行ってもいいが、うーん。
やっぱり南の魔の大森林探索かなぁ。まだコンプリートしてないし。
ただ微睡んでる時の魔の大森林は危険がウォーキングして来ちゃうのがなぁ。
やっぱりソロは辛いなぁー」
こうして再び俺ハルトは旅を再開するのだった。
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