対台風異能的戦略班

総督琉

対台風異能的戦略班

 世界には〈大災害〉と呼ばれる事件が多く存在する。

 ーー津波、地震、落雷……ーー

 その中でも、今世界を最も多く襲っている災害は台風である。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



神風かみかぜ総司令。たった今、太平洋上に台風が出現したと雪島ゆきしま班から報告がありました」

「一週間前に台風が現れたばっかだぞ。まあ仕方ない。三日月班を出動させろ」

「はい。只今向かわせます」


 そう言うと、神風という女性に報告をしに来た男はその場から去った。神風はタブレット画面で一ヶ月以内の台風情報を確認し、大きなため息を吐いた。


「一ヶ月で台風が十回も発生している。しかも全て大型台風。何が起こる……」


 神風の顔は曇っていた。

 その頃、台風が出現したであろう太平洋に向かう五人の影があった。


「班長。どうして私たちが動くことになるんですか?」


 兎の耳を頭につけた女性は、海面ギリギリに背を向けて寝転んだ状態で風を全身に纏い、台風の出現した場所へと向かっていた。そんな彼女の様子を見るや、班長は言った。


「仕方ないだろ。今回の台風が本土に上陸すればまずいことになる。それくらいは分かっているだろ」

「でも霜月副班長の言う通りですよ。さっきまで離島でバカンスをしていたところですよ。それを邪魔するなんて許しません」


 まだ幼い少年は、愚痴を吐きつつ海に足をつけ、風を纏って空を飛んでいた。

 この世界には風を操る者たちがいる。そんな彼らは風を操り空を飛ぶことが可能である。


「木白と紅妻べにづまは何の文句もなさそうだぞ」

「いえ班長。そんなことよりあれを見てください。台風の目に、人影が見えるのですが」


 既に台風の前についていた彼らは、台風の中に人影があるのを確認した。その事実に彼らは驚いた。


「班長。速くあの台風を止めましょう」

「ああ。霜月、海原、あとで散々文句を言え。だが今は、目の前のことに集中しろ」


 三日月班の五人は、人が中心にいる台風を前に立ちはだかる。




 ーー同時刻。沖縄駐在対台風異能的戦略総基地


 台風を阻止するため、ある者によって創られた、台風から世界を守護する組織。その組織は日本中のあらゆる場所に基地を有し、だがしかしその存在はその世界に住まう者たちには知られていない組織であった。

 その組織の総本部があるこの沖縄にて、神風総司令は書庫にてとある書物を見ていた。


「神風。何を見ているんだ?」


 上官に敬語も使わず話しかけたのは、神風総司令の補佐役である九重ここのえ副総司令であった。


「九重。最近台風が多すぎる。だから何かあると思ってな、過去の記録を漁っていた次第だ」

「へえ。真面目ですね。神風は」

「真面目にもなるさ。明らかにおかしいことなんだ。一ヶ月で十回以上も大型台風が発生し、そのどれもが日本本土へと向かっている。明らかに仕組まれたことなんだ」


 神風は真剣な表情でページを次々とめくっていた。


「そういえば今年の負傷者の数は例年に比べてかなり多い気がします。まあ見過ごすわけにはいきませんね」

「ああ。とはいえ、何の手がかりもない状態だ」


 とページをめくりながら言っていた神風は、読み進める中であるページを見つけた。


「神風。どうかしたのか?」

「人柱」

「人柱?何ですか?それは」

「私たちには風を操る者と風を自ら巻き起こす者がいる。その力を使えば竜巻を発生させることも可能だ。だがしかし、長い間持続させることはできない。そこでだ、人柱を使えば、竜巻を台風に変え、いつまでも威力の落ちない台風が完成する」


 神風は冷や汗をかきつつ、その文を読んでいた。


「それは大変だな」

「それどころじゃないぞ。もしそんなことが可能ならば、もし本当にできるのならば、敵は、私たちの中にいる」




 ーー同時刻。太平洋


「班長。この台風を止めるのはもう限界です」


 風へと手をかざす霜月、海原、紅妻、木白。四人は台風の威力に圧倒されていた。風を押さえる手は力の限界が来ていた。


「了解」


(お前たちは風を操る能力者。対して私は風を発生させる能力者。台風を止ますためには、台風を消失させるためには、陸上との摩擦かエネルギー供給を断って台風の威力を止ますしかない。だがそれは私たちがいない場合の話。私は風を発生させる。他の人はもっと上手くやるけど、私は頭が悪いから、だから、力づくで消すしかない)


 三日月は台風の前に巨大な竜巻を創り出して見せた。大きさは目の前にある台風よりは少しばかり小さいが、それでも十分に創れていた。


「お前ら。ここまでよく耐えた。あとは私に任せとけ」


 四人は一斉に飛散し、台風の前から離れた。その直後、台風も動き始めた。それを阻止するように、三日月は創り出した竜巻を巨大な台風へと直撃させた。


「喰らえ。その台風を。『竜巻一号』」


 三日月の創り出した竜巻は台風へと直撃すると、その衝突で周囲には激しい風が吹き荒れた。海は激しい揺れに見舞われ、近くにいた三日月たちは吹き飛ばされそうにもなっていた。

 だが三日月は手に力を込め、台風を押した。台風は次第に威力を衰えさせていた。


「今か」


 三日月は激しい風が吹き荒れる中、勢いよく台風の中へと飛び込んだ。そして台風の目の中につくや、そこにいる一人の少女を救い出した。

 すると次の瞬間、台風は一瞬にして消失した。


「台風が……消えた!?」




 ーー台風消失から一時間後。

 総基地へと帰還した三日月班は、班長である三日月のみ神風総司令と二人きりで話をしていた。


「三日月。今回台風の中心にいたと思われる少女。彼女は人柱と呼ばれており、台風を起こすためのキーである」

「では、今回の台風は人工的に起こされたと!」

「ああ。それに、その首謀者である者はこの総基地の内部にいると思われる」

「なぜでしょうか?」


 あまりにも確信している目付きに、三日月は思わず訊いた。


「理由はいたって単純だ。ここの基地が太平洋に最も近いからだ」

「なるほど……」


 三日月はあまりにも単純な答えに小さな声でそう返答した。


「必ず私はその犯人を見つける。だからお前らはいつも通りにしていろ。変に首は突っ込むなよ」

「……はい」


 どことなく悲しい顔をしていた神風。彼女の顔を見るや、三日月は何も言えずに部屋を立ち去った。

 三日月が去った後の部屋で、神風は一人一枚の写真を見つめていた。そこには、神風とともに父と母らしき人物が写っていた。


「父さん……母さん……。私には何をどうすればいいか分からないよ」


 神風はため息を吐き、背もたれに背をつけて天井を見上げた。


「神風。入って良いか?」


 ノックとともに聞こえた声。神風は先ほどまでの表情を一変させ、資料を整理していたフリをする。


「入ってきな」

「はーい」




 ーー私立戸賀学園

 その学校は海のすぐ近くにあり、そしてその学園には小学生から高校生までの生徒が通っていた。

 その学園の門の前で、


「海原。おっはよー」


 いつも通り学校へ登校する海原へ、一人の女性が話しかけてきた。


「春風。なんか機嫌良いな」

「いやいや。良くないよ。昨日何度も電話かけたのに、どうして一度も出ないの」

「昨日もバイトだよ」


 頬を膨らませて言う春風に、海原は平然と答えた。

 春風は仕方ないと思いつつもため息を吐いた。


「海原。どうせ明日もバイトでしょ」

「まあそうなるな」

「たまには私と遊ぼうよ。今は駄目だ。最近は何かと台風が多い。だから絶対外には出るなよ」

「はいはい。出なきゃ良いんでしょ」


 春風は少しばかり怒っていた。海原には春風の怒っている原因が分からなかった。


「何で怒ってるんだ?」

「怒ってない」

「怒ってるじゃ……」

「怒ってないって言ってるでしょ」

「そ、そうだな。怒ってないな……」


 海原は圧し負け、何も言えなくなった。気まずい空気が流れる。とそこへ、海原の所有する携帯にはメールが届く。メールを見ると、どうやら神風総司令かららしい。



『今日の夜、このメールが届いた者だけで作戦を開始する。作戦の内容は後々話すとして、この情報は極秘だ』



「極秘の任務?」


 海原は携帯をとじ、教室へと入った。

 そしていつも通り、授業が始まるのであった。そんな長い授業の最中、海原はいつも通りに授業をサボって屋上へと向かっていた。だが屋上には先客がいるらしく、海原は屋上への扉に寄りかかって頭の後ろで手を組んだ。


「風神様。私立戸賀学園には、やはり台風児たいふうじが在籍しておりました。はい……はい、はい。ではすぐに捕らえてきます。はい、はい。では」


 海原はその話を聞き、ふと思った。


「なあお前、誘拐でもするつもりか?」


 そう問うと、屋上で電話で話をしていた男は激しい動揺を見せた。それを見て確信した。


「なるほど。捕らえて吐かせるしかないか」


 海原は拳を構え、男へと飛びかかった。


「ちっ。ふざけるな。捕まるわけにはいかないんだよ」


 男は海原へと手をかざすと、激しい風が海原へと吹き荒れた。海原は咄嗟に風を操り、左右へとかき分けた。


「お前も風を操れるのか。他にもいたとは驚きだ」

「何だお前?その能力を持っている自分が特別だとでも思っていたか?そんなわけないだろ。その能力を持っている者を俺は百人以上知っている」

「そうかい。だが安心しろ。風を操る者がどれだけ存在していたとしても、世界はじきに終わる」

「じきに?そうか。なるほど。お前、最近台風が多いことに何か関係しているな。それと風神様とかいう奴はお前のボスか」


 男は笑みをこぼし、鋭い目付きをしながら言った。


「バレたのなら、殺すしかない」


 風は威力を増し、海原は今にも風に吹き飛ばされそうになっていた。強風にさらされ、操作すら困難であった。だがしかし、そこへ三日月が現れた。


螺旋風らせんぷう


 三日月は男へと手をかざし、回転する風を放った。その風により、男は呆気なく吹き飛んで背後にあったフェンスへと体を打ち付けた。


「海原。こいつは何者だ?」


 問われ、海原は先ほどまでの一部始終について話した。三日月は頷き、男の方へと歩み寄る。そそてフェンスを蹴り、男の顔を睨み付けて言った。


「台風児とは何だ?それと世界が終わるとはどういうことだ?」


 男は断固として沈黙をする。

 さすがに無理と判断したのか、三日月は手を男の脳天へとかざした。


「言えば生かそう。だが言わなければ殺そう」

「……わ、分かった。言うから」


 男は一度呼吸を整え、話し始めた。


「俺は自分が持っているこの力を知ってから、毎日のように人気のない森の空を飛んでいた。だがそれが見つかって、風神と名乗る者に連れ去られた」

「風神は男か?女か?」

「それは分からない。全身白装束だったから。連れ去られた後、俺は風神に脅された。台風児と呼ばれる子を拐えと。しなければ命はないとな」

「なるほど。じゃあ嫌々してたってことか」

「ああ。そうだよ」


 三日月は内容を整理しつつ、もう一つ男へと問うことにした。


「なあ。風神の居場所は」

「宮……」


 だがその瞬間、突如として現れた風の柱に男は飲み込まれた。呆気ない最期であった。

 空を見上げると、白装束の何者かが去っていく姿が見えた。


「奴が風神か……」




 ーー夜。対台風異能的戦略総基地

 神風によって集められた者は三日月班の五人と雪島班の四人、鹿児島基地の司令、つむじ烈破れっぱであった。


「これほどの少数ですか」

「いや。今回の作戦は日本全国の各基地の司令に協力を要請した」

「ですがそれほどの大人数で、一体何をするのですか?」


 問う霜月に、神風は答える。


「今日、風神という何者かが戸賀学園に侵入した。その目的は台風児と呼ばれる者を連れ去ることにある。そして前回現れたあの台風の中には子供がいた。その彼女から聞いたのだが、風神は世界を壊すために台風を無数に出現させ、一気に日本全土を覆うらしい」

「そんなことをして何になる?」

「風神の目的は分からない。だが風神を倒すために既に作戦は開始している。私達は宮古島へと向かう。雪島班は旋司令の下動け。三日月班は私についてこい」


 雪島班は旋司令に連れられて先に宮古島へと向かった。

 そして三日月班と神風だけになった部屋で、神風は三日月へと問う。


「なあ三日月。確か今日風神に会ったんだよな」

「はい。ですが話もしていないし、顔も見ていません」

「ああ。問題はそこじゃない。重要なのはその時間に基地にいなかった人物。もしくはアリバイのない人物だ」


 神風は既に誰かを察しているようだった。


「では私達も宮古島へ急ごう」


 宮古島についた神風たち。そんな彼女らの前に、白装束を着た謎の者が現れた。


「待っていたよ。対台風異能的戦略総基地総司令、神風」

「相変わらず呼び捨てか」

「気づいていたか」

「ああ」


 神風はその者を睨むや、白装束の者は笑い声を響かせていた。


「そうか。そうだよな。お前はそういう奴だった。残念ながら君たちに報告がある。今ここ沖縄の各島では一斉に台風が出現した。その台風はじきに日本にある対台風異能的戦略基地を襲い、滅ぼす。つまりは、一瞬にして君たちが積み上げてきたものは灰となる」


 だがしかし、神風は怯まずに言った。


「安心しろ。沖縄にある無数の島。その全てとはいかないまでも、各地に存在する多くの基地に呼び掛け、沖縄の各地に仕込まれていた台風児を回収した」

「は!?何だと!?」

「それとだ、この島にいる台風児も、既に我々が回収している」


 白装束の者は咄嗟に振り返った。するとそこには、一人の少女を抱えた旋司令がいた。


「やってくれたな。神風」

「お前の目的、少しは理解したよ。対台風異能的戦略基地全てを破壊する。それはつまり、あの日世界を襲った巨大台風を止められなかった私達を恨んでいるのだろう」

「黙れ。黙れぇぇぇぇええ」


 白装束の者は巨大な風の渦を発生させ、それを天高く飛ばした。


「まさか……」

「私立戸賀学園。もうじきそこには竜巻が空から降り注ぐ。お前たちに止められるかな。それにあそこには台風児もいる。あの学園へ直撃すれば本物の台風と成り代わる」


 白装束の者は高笑いを浮かべた。


「三日月班、それに旋司令と雪島班。君たちはあれを止めてくれ。私は彼女と決着をつけなくてはいけない」


 三日月班、旋司令、雪島班は空を飛ぶ竜巻を追いかけて空を駆ける。


「二人きりになったんだし、話をしよう。副総司令、九重」

「バレていましたか。私の正体」


 そう言うと、白装束の者は仮面を取り、正体を露にした。その正体は当然、九重副総司令であった。


「九重。やはりあの事故のことか?」

「ああ。五年前、巨大な台風が私の住む宮古島を襲いました。結果、全て失った。生き残ったのは私のみ。そんな時私は思ったんです。死にたいと。それでもあなたは私を拾い、副総司令にまでしてくれました」


 九重は時折神風との楽しい記憶を思い出していた。


「とても嬉しかった。でもある日私は知ってしまった。あの日宮古島を襲った台風は、対台風異能的戦略総基地にて、台風の研究をしていたあなた方が発生させてしまったイレギュラーな台風。いや、ただの竜巻だって。だからその日誓った。対台風異能的戦略基地、その全てを破壊して復讐してやるって」


 九重は感情的になり、神風へと手をかざした。手からは風が放たれるも、神風は真っ向から受け止めた。


「どうして避けない?」

「それが私の罰だから。長い間お前を苦しませたんだ。このくらいの痛みに比べれば、お前が背負ってきた痛みの方が辛かったんだろ。凄く苦しかったんだろ」

「お前に私の痛みが分かってたまるか」

「分からない。だけど分かりたいんだ。お前が背負ってきた痛みを。分からないままで逃げるのは違うから」


 立ち尽くす神風へ、九重は何度も風を放つ。その度に神風は身体中にかすり傷を負うも、その攻撃から逃げはしない。


(頼むからそんなことしないでくれ……。私は身勝手なんだよ。なのにどうして……どうしてお前は……)


 九重はいつしか風を放つのを止めていた。ゆっくりと空から降り、神風の前に立った。


「神風。私は……」

「言わんでも分かっている。お前は頑張った。だからもう休め」

「でも私は……神風を傷つけた」

「良いじゃないか。この世界に誰かを傷つけたことがない人間なんていないだろ。誰だって生きていれば誰かを傷つけてしまうものだ。だからな九重、何度でも私にぶつかってこい。その度に私が受け止めてやるからさ」


 笑顔で神風は言った。身体中に怪我を負いながらも、彼女は笑って言った。


「ごめん。ごめん……ごめん……」

「今は泣いて良いんだ。そのための涙なんだから」


 九重は神風の胸の中で涙を溢れさせた。今まで抑え込んでいた気持ちが溢れ出すように、九重は神風の胸の中で涙をこぼす。




 ーー私立戸賀学園


「はあ。今日も海原は休みか……」


 一人の少女はため息を吐き、彼がいつもサボるといる屋上へと向かった。だがそこには誰もおらず、少女はフェンスに寄りかかって空を見上げていた。


「何……あれ!?」


 空に浮かぶ巨大な竜巻。それを見るや、少女は固まった。


「海原!?」


 竜巻に立ち向かう人影。その中に海原らしき人物を見つけた少女。だがそこから竜巻のある空までは相当距離が離れており、見えるはずもなかった。それでも彼女には見えていた。

 その頃空では、


(今日は皆登校しているはずだ。もしこの竜巻が落ちれば、春風は……。そんなことはさせない。今ここで俺の全身全霊を、今ここで受け止める)


 海原は竜巻を下から受け止め、空に滞在させていた。その間に、三日月はこの竜巻と同じ、それ以上の竜巻を創っていた。だが既に受け止めている者たちには限界が来ている。

 三日月はそれを肌で感じつつも、焦りを見せていた。


(もし同じ威力でない竜巻をこの竜巻に放ったのなら、この竜巻は飲み込まれて巨大化する。逆に大きすぎる竜巻を創ったのなら、この竜巻を飲み込んで下の学校は終わり。同じ威力、同スケールの竜巻でないと……)


 だが既に皆は限界を向かえていた。


(まずいまずい。このままでは……)


「三日月班長。何をそんなに不安になっているんですか?」

「そうですよ。何度あなたが失敗しようとも、あなたには私達がついています。だから失敗してください。とことん」


 その時、三日月の中にあった不安は消え失せた。


「そうかい。なら失敗した時は、援護頼むぜ」


 三日月は竜巻をなげ、竜巻にぶつけた。竜巻と竜巻はぶつかり合い、周囲には激しい旋風が巻き起こっていた。その威力に下にあった学園の窓ガラスは砕け、生徒たちは一斉に机の中に身を隠す。


「何……これ!?」


 屋上にいた少女はフェンスを掴んで吹き飛ばされまいとしていた。

 竜巻と竜巻はぶつかり合い、そして次の瞬間、相殺した。


「竜巻が……消えた!?」


 だが春風は吹き飛び、宙へと舞っていた。そこへ、海原が飛んできた。


「春風。大丈夫か?」

「う、うん……っていうか何で空飛んでるの!?」


 春風は状況の整理ができず、困惑していた。そこへ一言、海原は言った。


「春風。今までそばにいてくれて、ありがとう」

「こんな時に……それに今までって、まるでこれからいなくなるみたいじゃんか」

「確かに……」

「まあでも、こっちこそありがとう。拒まないでくれて」


 春風は照れつつもそう言った。海原は思わず笑みをこぼした。




 ーー一年後。対台風異能的戦略総基地


「台風出現。三日月班、出動用意」


 三日月は仲間たちへとそう言う。だが相変わらず眠そうに仲間たちはベッドで就寝中。


「三日月班、出動用意」

「はいはい分かってますよ。何度言えば気が済むんですか」


 そう言いつつも、霜月副班長は二度寝を始める。


「ったくお前らは、いい加減起きないと、」


 と言って手の平サイズの竜巻を出現させた。


「起きますよ」


 そして三日月班は皆出動用意が完了した。

 皆横一列に並び、二人の上官へと敬礼した。


「三日月班。出動します」

「ああ。行ってこい」


 今日も台風に立ち向かい、対台風異能的戦略総基地は戦い続ける。

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