手に届く星

篠崎優

届かない星

私は今病床に伏せ、ピッ……ピッ……っと一定間隔で刻まれた電子音を聞いている。意味は無い。これしか出来ないからだ。たまに係の人がやってきて身体を拭いてくれる。


この生活をし始めてかれこれ2年になるだろうか。私の病名はいわゆる末期癌と言うやつらしい。身体の中でたまたまできた細胞がたまたま広がって、たまたま見つかって、ここに至る。

私の人生は最悪の一言で示せるものだったと思う。

3歳の時に親に捨てられて親戚の家に預けられた。親戚の家の間でもたらい回しにされて、施設に預けられた。その時に「あの子の親代わりになってくれ」と誰かに頼んでいた親戚の誰かは結局自分を早く何処かへやりたかったのだろう。


施設は中々に楽しかった。まあ当たり前だろう。子供というネットワークの中で大人の人は親無しの私たちを可哀想に思って接してくれていたし、子供同士も自分の境遇を何となく理解していたから同じ立場として遠慮はなかった。

その頃の夢は学校の先生だったと思う。


その後、私は中卒のまま小さな会社の事務に就職。そこで何とか生計を立てていた矢先に、彼に出会い結婚した。当時は運命の人だと思っていた。人生の中に見えた微かな光。そこにすがろうとしたけど。

彼は事故で亡くなった。結婚して2年か3年の時だったかな。その知らせを聞いた瞬間、私は自分がこの先どうなるのか、漠然とした不安に襲われていた。

彼は年収だけで見れば、他の女の人と取り合いになるような人だっただろう。


そこと私の感じていた『漠然とした不安』が結びついた。私は彼の年収に頼って、彼を選んだのだ。都合よく、私に気があるようだったから。そこに、運命の出会いなんてものは存在しなかった。


さらに3年後。私はパートを掛け持ちながら何とか生計を立てた。本当に大変だった。一日に幾つものシフトをこなし、身をこにして働き、やっとの思いでご飯を食べて……わたしはたおれた。


とつぜんだった。キュウニいしきがコンダクシテ……それで……それで。


もし、私の両親が死ななかったら、私は今頃何をしてたのだろうか。もしかしたら、学校の先生になっていたのかもしれない。

嗚呼、成りたかったな。学校の先生に。

夢を叶えたかった。夢には。夢という星には。私には届かない。


その瞬間、世界から何もかもが失われた。

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