第2話 霊媒師
約束の日になり、俺の部屋に霊媒師が来てくれた。想像してたようなお坊さんみたいな袈裟の姿とかではなく、ロードバイク乗りが着ている軽快なウェア姿であった。どうやら、静岡からロードバイクでここに来たらしい。
霊媒師は簡単な自己紹介を済ませると、浄めの儀式と言って、シャワーを浴び始めた。素直に汗をかいてきたので貸して下さいと言えばいいものを。
シャワーを終えた霊媒師は、部屋の真ん中に髑髏の形をした蝋燭に火を着けて、三面鏡を飾った。部屋の電気を消してくれと言われたが、昼間なので元々電気は付けていなかったので、とりあえずカーテンを閉めた。
「よろしいかな?」
急に渋めの声を出して、霊媒師は両手を大きく広げた。
急な緊張感に俺はごくりと唾を飲み込み、霊媒師を見守る。
「出てきなさい!!!」
その声と同時に俺の部屋の台所から何かが落ちた音がした。後で確認するとコップが一つシンクに転がっていた。
「逃げるな!来い!私の後ろに来て姿を見せよ!」
確実に霊媒師の元へ歩み寄る床を擦る音が聞こえる。
霊媒師は三面鏡越しに霊の姿を捉えたようだ。
「貴様か!……………。」
?今まで威勢のあった霊媒師が急に顔を俯かせて黙って震えている。何かとてつもない霊なのかもしれない。俺は完全にその不気味な雰囲気に飲み込まれ恐怖で立っていられない程の緊張感に襲われる。
「…………。ぶ、ぶはっ!はははっ!!ちょっと待って。ははははは!」
何と、あろう事か、霊媒師は笑いを堪えていただけのようだ。突然、爆笑しだした。
「どうしたんですか?」
俺は霊媒師に尋ねる。
「ああ、ちょっと思ってた霊とは違ったもんでな。ちゃんと除霊はするから、黙っててくれたまえ。」
思ってた姿と違ったのはお前もだよ。と、心の中で突っ込みながら、そのまま黙って様子を見る事にした。
「では、話を聞かせてもらおうかのう?」
その後、霊媒師は一時間以上ボソボソと幽霊相手に会話をしていた。
はっきり言ってよく聞こえないので、待ちくたびれた俺は霊媒師のウェアを洗濯機から取り出して乾燥機に入れてから、適当な場所に座りスマホで、今ここにいる霊媒師の名前を検索してみた。
検索をすると、かなりの数の情報が載っていて、八割は霊媒師本人のツーリングライフのブログだったが、実際に除霊してもらった方の口コミも結構上がっていた。その口コミ全てに目を通したが、どうやら格好のわりには、本物らしく、「除霊してもらえて無事に普通の生活を送る事が出来ました。」等、どれも大絶賛だった。それを読んで俺は安心した。
時間が過ぎ、霊媒師は俺に声をかけてきた。どうやら除霊が終わったようだ。
「どうでしたか?」
俺は尋ねた。
「六本木さん。すいません。」
言い忘れていたが、俺の名前は六本木サトルだ。
「なぜ、謝るのですか?まさか…」
「いや、その洗濯していただいたウェア、乾いてましたら着たいのですが。」
そういう事か、よく考えたら俺が貸したバスタオルを腰にかけているだけの姿だったのだ。
霊媒師はウェアを着ると、改めて話始めた。
「六本木さん。お代は結構です。単刀直入に言います。この霊、除霊できません。」
「え!どういう事ですか?先程あなたの口コミをネットで調べさせてもらいましたが、除霊率100%のすごい霊媒師さんって絶賛で、しかも経営している浜松餃子の店も食べログ3.7。いや、それは、ともかく何でですか?教えて下さい!それか、もっと凄い霊媒師さんとか紹介できないんですか?」
俺は絶対脈ありだと思っていた女性に振られたかの様に困惑していた。
「六本木さん。この霊はどんな凄い今時の霊媒師だろうが除霊はできません。」
「何でですか…。」
もう、その瞬間、俺は引っ越す事を決意して理由を聞いてみた。
霊媒師は少し間を置くとこう言ってきた。
「六本木さん。私は今時の霊媒師には無理だと言ったのです。」
???
「なぜなら、彼女(幽霊)は、未来から来たからなんですよ。」
なんだってー???
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