第13話 ハンターネーム
「弟子の登録をしたいのだけど」
受付に近づいたカーミアさんは、私の方をちらりと見てからそう切り出した。
それにつられるように受付嬢も私を一瞥すると、カーミアさんが差し出したカードを手に取って確認した後、すぐさま奥の方へと消えていった。
「なんだか手馴れてますね」
「そうね。彼女たちはそれが仕事なのだもの」
私は頭の中でそういうものなのかな、などと素朴な感想を抱いていると、今度はカーミアさんの方から口を開いた。
「さっき、アン───私に話しかけてきた子が私のことをシーザーと呼んだでしょう?」
「はい」
「あれはね、私のハンターネームなの」
そう言ってカーミアさんはカウンターの上にあったカードを私に見せてきた。
「シーザー……って書いてありますね」
「ええ。ハンターとして活動するときには、必ずハンターネームを登録しないといけないのよ」
「どうしてですか?」
「前にも言ったけど、ハンターっていうのは国とは切り離された世界中にある機関なの。つまりハンターはどこの国だとか関係なく活動できるっていうのが最大の特徴なのだけど、どうしても国際問題っていうのはあるでしょ?」
「……」
辺境の村で育ってきた私はすでにそこから理解ができていなかったが、カーミアさんがあまりにも当たり前のように話すので、口を挟むことはできなかった。
「もちろんハンターズギルドも国の敷地内に設置されてる以上、その国と無関係というわけにはいかないわ。それで、過激な国だと敵対国のハンターは入れさせるなとか言ったりもするのよ。
そこで本当の名前で活動していたとすると、名前だけである程度出身がわかってしまうの。だから、そういうトラブルをなるべく回避するためにハンターネームっていうシステムがあるってわけ」
「名前で……」
その話を聞いた時、私は二人と初めて出会った時のことを思い出した。
ライラさんもカーミアさんも、初めて私の名前を聞いた時に、少し驚くような素振りを見せていたのだ。
私には、このことがどうしても今の話と無関係には思えなかった。
「それで、そのハンターネームっていうのは師匠が弟子に授けるものなのよ」
「……えっ」
私が自分の名前について考え込んでいると、カーミアさんの声で現実へと引き戻された。
「ふふ、どんな名前にしてあげようかしら」
「その……変なのは嫌ですよ?」
「変なのって?」
「それは……」
例えばと聞かれて、初めて私は自分が名前というものに無知なのだと気づくことになった。
私は、変な名前というものがどんなものかわからなかったのだ。
逆に言えば、変ではない名前───つまり普通の名前というものもわからない、ということだ。
二人が私の名前に微妙な反応をした理由も、私にはわかりようがないことなのだった。
そんな私の様子を見て、カーミアさんは軽く息を吐いた。
「やっぱり。ペリットちゃん、自分の名前がおかしいってことも知らないんでしょ?」
「私の名前が……ですか?」
「ええ。少なくとも、帝国ではありえない名前だわ。他の国で特徴的な名前を付けるところにも当てはまらない。つまり、ペリットっていう名前には、ハンターネームと同じで何者かを隠したいという意図があるのよ」
「……」
何者かを隠したい名前。
その理由を、私はよく知っている。
つまり父は、私が人でない───おそらくは魔族であるということを、知っていたのだろう。
でも、なぜ?
そうだと知っていたなら、どうして我が子として私を育てたのだろうか。
……やはり、私が考えても何もわからない。
わからないことだらけだ。
私が自分の無力さに唇を噛みしめていると、その様子を見ていたカーミアさんが微笑んだ。
「運命、なのかしらね」
「……運命?」
「ええ。運命」
カーミアさんがそう言い切ると、カウンターの奥から先程の受付嬢が一枚の紙を持って戻ってきた。
それを機にこの話は行き場のないまま終わってしまい、私はどこかもやもやとした気持ちを抱いたままカーミアさんの弟子として認められたのだった。
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