第3話 奴隷

「喜んでるところ申し訳ないが、頼み事を聞いてくれないか」

 ギルマスが俺に問いかける。

「内容によりますね」

「そうか、じゃあ言わせてもらう。君からもらった情報が正しいと分かったき、最前線に合流してマップなどの情報を落としてくれないか?これは命令ではない、頼み事だ。断ってくれても構わない」

 ギルマスがそう言って、少しだけ静寂な時が流れる。そして俺は返事を伝えるために口を開く。


「すみません。断らせていただきます」

「すまない。断ってもいいとは言ったが、理由を聞かせてくれ」

「誰かのサポートはやりたくないからです。俺はSランクを目指しているので」

「そうか。分かった、もう用はない。下がってくれ」

「失礼しました」

 ギルドマスター室を出て、扉を閉めたところで一息つく。

 きっと、崖から突き落とされる前の俺だったら、ギルマスの要望に答えただろう。それらしい理由をギルマスに言ったものの、きっと俺はサポート以外の価値を誰かに見出して欲しくて断ったんだと思う。でも、これは子供っぽくて誰にも言えないな。

 今日はもう疲れた。ダンジョンの疲れもあるだろうし、今日は宿を取って寝るか。


 今までは1泊8リースの宿をとってたが、今日は奮発して一泊朝食付きで50リースの宿に泊まった。日が沈みきっていないのに、ベッドに横になるとすぐに眠りに落ちてしまった。



 次の日、太陽の日が登る前に目が覚めた。

 めちゃくちゃ気持ちよく眠れたな。そういえば今の俺の体めちゃくちゃ汚いよな。朝食前までには綺麗にしておこう。

 普段はユーリが出してくれる水で体を拭いていたが、今日は臨時収入もあるから公衆浴場に行くことにした。

 浴場の受付で、入浴券と石鹸を買って中に入る。

 自分の影の面積を増やすために伸ばしていた髪と体を洗う。そして、髪を影で束ねて湯船に浸かる。

「はぁ、最高に気持ちいいなぁ」

 思わず声が出てしまう。

 そのまま湯船に浸かっていると、お腹の音が鳴った。人が少なくて良かった。恥ずかしい思いをするところだった。

 よし、そろそろ上がって、朝食を食べに帰ろう。

 体についた水気を拭き取り、綺麗な衣服を見にまとい、宿屋に向かう。

 宿屋に着くと、すでに何人か朝食を食べており、一層お腹が空く。俺はすぐにキッチンカウンターに向かう。

「朝食一人前をお願いします」

 そう言って鍵を見せたら軽い返事が返ってきた。

 1分もしないうちに、プレートに乗った朝食が出てくる。俺はそれを持って席につき朝食を食べる。

 ご馳走様でした。流石に50リースもするだけあって、朝食はすごい量だった。お腹いっぱいになった。


 さてと、これからどうするか。

 冒険者は基本的にソロで活動しても、メリットよりデメリットの方が大きい。特にGランクがそうだ。支出が収入を上回ってしまうのだ。特に部屋代がそうだ。ここは一人当たりの値段だけど、普通の冒険者は1部屋あたりの値段の宿屋を利用する。1泊8リースぐらいで安いしな。

 ところで俺が今持ってるお金は金貨2枚、銀貨13枚、鉄貨28枚、銅貨62枚で計3642リースだ。銀貨や鉄貨、銅貨がこんなに多いのは湖に落ちていたのを拾ったからだ。まさか、昨日金貨をもらえるとは思わなかった。

 よし、奴隷を買おう。

 お金に余裕あるし、俺を崖から突き落とす心配もないからとてもいい案だと思う。相場は知らないけど、3000リースで2人は買えるだろう。

 そういうことで奴隷商館に向かう。

 行ってみて、奴隷を見て周り気づいたことがある。それは総じてジョブを持っている奴隷の値段は最低でも3000リースはする。最高は「画家の王」というジョブの奴隷で1000万リースを超えていた。誰がこんなの買うんだ。

 そして、俺のお財布事情的に適した奴隷を見つける。それはジョブを持ってない10歳になる前の子供の奴隷だ。その中でも、親のジョブがわからない子供だ。奴隷商の人に教えてもらったんだが、ジョブの遺伝は3割ぐらいであるらしい。だから身元がはっきりしている奴隷は少し高くなるとのことだった。

 俺としては、冒険者に役立つジョブなら良くて、役に立たないジョブだとしても、なんらかの形で俺に利益が出るようにすれば良いと考えた。だから少しでも安い奴隷を男女1人ずつ買うことにした。体を清潔にしたり、新しい衣服などを合わせて2300リースだった。男の方の名前は「アラン」で女の方の名前は「アリス」だ。

「アラン、アリス今日からお前らの主人になるレインだ。よろしくな」

「「よろしくお願いします」」

「それじゃあついてきてくれ」

 俺は2人を連れて、今朝泊まった宿とは違う宿に向かう。向かっている間に後ろにいる2人の様子を見ると、まるで初めて外に出たかのような反応をしている。

 きっと物心ついた頃からずっと奴隷商館の中だけで生きてきたんだろうな。

 宿屋につき、受付にいる女性に話しかける。

「1部屋を10日分頼む」

「はいよ。50リースだよ」

 銅貨を50枚渡し、部屋の鍵をもらう。

「ちょうど昼時だし、昼飯を食べようと思う」

 俺はアランとアリスの2人に話しかける。

「分かりました」「はい」

 宿屋に備え付きの酒場兼食堂に向かい、3人で席につきメニュー表を見せる。

 奴隷商館以外で初めての飯だろうから値段気にせず食べて欲しい。

「値段気にせず頼んでいいぞ」

「ごめんなさい。字が読めないので頼めません」

「そうか。肉でいいか?」

「大丈夫です」「お願いします」

 俺はウエイトレスさんを呼びとめ、一番高い肉料理のステーキ定食を3人前頼む。すぐに料理が出てきて、俺たちは食べ始める。

 アランとアリスは、フォークとナイフの使い方は知っていたみたいで、俺よりも綺麗に食べていた。年下の2人の方が食べ方が綺麗でショックを感じる。

「ご馳走でした。さて、これから部屋に行って、今後について話すことがある」

「「わかりました」」

 俺たちは代金を払い食堂から出て、さっき借りた部屋に入る。

 部屋の中にはベッド一つと、椅子と机の1セットしかない。

 俺は椅子に座り、アランとアリスにはベッドに座らせた。

「単刀直入に言わせてもらう。お前らには冒険者になってもらう」

「本当ですか!」

 アランは目をキラキラさせて、声色が高く返事した。

「どうしてそんなに嬉しそうなんだ?冒険者は命を落とす危険があるんだぞ」

「だって、異世界といったら冒険者じゃないですか!」

「イセカイがなんなのかは知らないが、冒険者に夢を持っているならいい。アリス?どうした?口を開いて固まっているが」

 俺とアランがアリスを見つめると、アリスは口を開き、こう叫んだ。

「どうしてアランもなの!私が主人公だと思ったのに!優しいご主人様との異世界恋愛ものだと思ったのにぃぃいいい!」

 今度は俺とアランが固まってしまった。


********設定********

登場人物の年齢

レイン 16歳

アラン 9歳

アリス 9歳


10歳を過ぎると、ジョブを授かる。

ジョブを授かると目が覚めた時に身体に違和感を感じる。神殿に向かい自身のジョブを判明させに行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る