第33話 騒動終息と海底神殿の謎。

その頃、ハーマン子爵家ではパトリックからの説明を受けた子爵が報告を聞き、ため息を付いていた。


「はぁ…パトリックの危惧していた以上の状況だった訳だ…魔人に魔界獣…もうこれ以上無いほどではないか…」


「災厄並の危機的状況でしたが、サルナス殿のお陰で大事に至らずに済みました」


「そうか…それでその魔界獣は本当に大丈夫なのだな?」


「サルナス殿のスキルによって強制的にテイムされた様です。姿も小犬並になっており、ステータスも100分の1になっている模様です。コチラは冒険者ギルドで確認されるでしょうから後ほど説明が有るかと…」


「うむ…やはりパトリックの目に狂いはなかったという事だな…もし、あのままサルナスを帰らせていたら大変な事になってただろうからな」


「あの時は私もこれ程の者とは思っておりませんでしたが…しかし、目の当たりにしたあのスキルはタダ事では御座いません。希少な魔獣をテイムしているだけで無く、あのメフィスト=サークリフの造ったゴーレムまでも手に入れている…しかも其れらを身に着けて能力を上げるなど…見た事も聞いた事も無いスキルです」


「サルナスか…ウチに引き込めぬか?」


「恐らくは無理でしょうな…貴族は嫌いとはっきり言っておりましたし、冒険者ギルドでのエルド様への態度では…」


「わ、分かっておる…アレは私が悪かった…」


「…まあ、それが無くとも難しいでしょうな。あの者は一貴族がどうこう出来る範囲を超えています」


「そうか…致し方あるまい…さて、出費の件だが、やはり支払いは此方で持つべきだろうな?」


「無論です。冒険者ギルドと事を構えては当家の威信に関わります。それに関してはこの剣を売りに出せは賄えるかと」


パトリックが出したのは魔剣カリムである。


「この魔剣カリムは西方に伝わる伝説の英雄カリムの使っていた剣らしいのです。オークションに出せはかなりの値がつくでしょう」


「なっ…英雄カリムのだと?…売るには惜しい剣だが…」


「私もそう思いますが…支払いを考えればやむ終えませんな」


「まあ、この程度で済むなら安いものかのう…この剣はオークションに出す。後はパトリックに任せる」


「畏まりました」


こうして魔人の企てから始まった一連の騒動は終息に向かう事となった。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「おはよう御座います!サルナスさん。今日はどちらかにお出かけですか?」


定宿の『アマルフィ』に戻ってから3日目、俺はリカルド商会に顔を出そうと思っていた。

リリスは朝食を用意しながら俺に話し掛けて来たのだ。


「うん、2日もゆっくりしたからな〜。今日はリカルド商会へお礼に行くつもりだよ。色々と無理言って馬車やらを揃えてもらったからね」


「サルナスさんそういうトコ律儀ですよね〜」


「ん?そうかな?普通じゃ無いか?」


「だってお金出して買ったんでしょ?商売なんだから向こうは当たり前だと思ってますよ〜」


「ん〜、でも良くして貰ってるのは確かだよ。まあ暇つぶしも兼ねてるけどね」


その後リリスと世間話をしながらゆっくりと朝食を取り、支度をしてからリカルド商会に向かった。

ガッツもラッキーもアインもついて来ると言うので、皆で馬車に乗りリカルド商会向かう。チビは強制的に連れて行く。


リカルド商会に到着すると、ガッツは馬車の面倒を見てくれると言うので任せた。

ラッキーを肩に乗せてチビを抱えながら店に入る。アインは認識阻害を掛けて宙に浮きながら俺の頭の上に居る。

俺の顔を見た店員さんが挨拶すると直ぐにジェシーを呼んで来てくれた。


「サルナス!帰ってたのね!大活躍だったんですって??」


「流石に情報が早いな。ガントレットもブラッドも大活躍だったよ。ありがとうな、ジェシー」


「そうだったの??それは良かったわ!ココじゃ何だし奥に入って!」


ジェシーはパタパタと歩きながら奥の部屋に案内してくれた。

奥の部屋に入るとアインが認識阻害を解除したので、アインを見たジェシーが驚いている。


「そうか、ジェシーは初めてだったか?彼はアインと言ってゴーレムだよ。メフィストと言う錬金術師に造らせたんだ」


「メ、メフィスト??それってメフィスト=サークリフの事??」


「ああ。ジェシーはメフィストを知ってたのか」


「そりゃあ有名人ですからね…商人なら知らない人は居ないわよ。しかし、良く造ってくれたわね…かなりの偏屈と聞いてるけど…」


「まあ、色々とね…お陰で助かってる。アインは優秀だからな」


『アインです。初めましてジェシー』


「えええ!!!しゃ、しゃべってるじゃないの??」


「そりゃあ喋るだろ?」


「そんなゴーレムなんて聞いた事も無いわよ…」


『サルナス、私はゴーレムとしては規格外です。普通のゴーレムは意思を持ちませんから話も出来ません』


「あっ、そうだったな…」


「…そうだったな、じゃ無いわよ!しかもテイムの印が入ってるじゃ無いの」


「そりゃあテイムしたからな…つか、ブラッドと一緒に自らをテイムしてくれた」


「はあ??ブラッドもって…」


俺は魔人の事やら魔界獣の件もジェシーに話した。もちろん口止めはした訳だが…。


「と言う訳で何とか生きて帰って来れた。ジェシーに礼をいわなきゃな。ありがとうな」


「れ、礼なんて良いわよ。私は商人なんだから売ってナンボよ。でも…役に立ったなら嬉しいわ」


そう言いながらジェシーは少し顔を赤くしていた。


「だけど…何か聞いてた話よりも大変な事に巻き込まれた訳ね…それでその子が魔界獣?」


「ああ、チビだ。宜しくな」


《…フン、ガキになど挨拶せんぞ!》


ジェシーに唸りながら牙を見せてるが尻尾はブンブン振ってる。


「はあ…相変わらず名付けのセンスは無いわね。もう少し良い名前は無かったの?」


「分かりやすくて良い名前じゃないか?」


「…」


《…》


何で二人とも黙ってるんだ?そんな生温い目で何故俺を見てるんだ?


「自覚無しって訳ね…まあ良いけど。コレからどうするの?また仕事かしら?」


「いや、1ヶ月ほど休む事にしたよ。ここ何年も休んでなかったからな。冒険者ギルドには話してある」


「そう…じゃあ少し付き合ってくれない?行きたい所があるのよ」


「行きたい所?何処だ?」


「一週間後くらいにベアカインドに行きたいのよ」


「まさか…用心棒がわりに連れてこうって訳じゃ無いだろうな?」


「それならキチンと冒険者ギルドに依頼してから頼むわよ。仕入れじゃなくて、ちょっと見たいものがあるのよ」


「ベアカインド…定期船の港町だったな?何が見たいんだ?海でも見たいのか?」


「つい最近ね、ベアカインドで海底神殿が見つかったらしいの。それを見てみたくて…」


「海底神殿?泳いて行くのか?」


「そりゃあ海底ですからね。泳ぐと言うか潜るわよ」


「ジェシー…泳げるのか?」


「はあ?泳げるに決まってるでしょ!!泳げなかったら行かないわよ!!」


「そ、そうか…それなら良いが…」


「サルナスこそ泳げるの?金槌だったら行かなくて良いわよ?」


「俺は港町の育ちだからな。泳ぎは得意だよ」


「へぇ〜そうなの。それなら安心ね」


『サルナス、私も海底神殿に興味が有ります。是非行きましょう』


「あら、アインは話が分かるわね!」


思わぬ所から賛成の意見が出たのでびっくりしたが…アインは遺跡とかにも興味が有ったのか?


「うむ、アインが行きたいなら行ってみるか海底神殿に」


「やったあ!じゃあ決まりね!」


「移動はウチの馬車で行けば良いからな。ブラッドなら片道一週間も有れば着くだろう」


「じゃあ一週間後に出発よ!遅れないでね!」


何かあれよあれよと言う間に海底神殿行きが決まっていった。

俺はリカルド商会を出てからアインに聞いた。


「アインは海底神殿に興味があるのか?」


『実は【アーカイブ】の情報によると、2000年程前に海底に沈んだ神殿がベアカインドの近くに有ったとの記録が残っております。そしてその神殿には【アーカイブ】の産みの親である、大賢者ラウドーラ=ゼビウス=エターナリアの遺産が有るとの記録を発見しました』


「なっ!遺産だと??…それで海底神殿に…何かイヤな予感しかしないが…」


『危険な輩に遺産を取られるのは不味いかと推察します』


「うむ…そういう事か…分かった。ちょっと調べてみようか。ところでアインは海に潜れるのか?」


『可能だと判断します。しかし海中では移動出来ないと推測されます』


「…アイン…それは駄目じゃないか?」


俺はメフィストの所に相談に行くことにした。

屋敷に行くとゴーレムのお迎えなのだが、アインが先に行くとあっさりとドアが開いた。アインは顔パスなのか??


「おや、サルナスか、久し振りだな。どうだ?アインの調子は?」


「悪くない。ちょっと相談があってな…実は今度、海底神殿に行くのだがアインが海中では移動出来ないと言うのでな…」


「海中??そりゃあ無理だな。海中に入っても問題無いが、移動出来ないのはモデルとなってる生物が海中を漂うだけの生物だからだ。当然、アインも海中では移動出来ない。海中で移動させるのなら水魔法を移動手段に加えるだけだが…やるかい?」


「是非頼むよ」


「なら直ぐにやろう。アイン此方に…はぁ??何故テイムの刻印が浮かんでるのだ??」


俺はメフィストにも例の魔人や魔界獣の話をする事になった。


「なるほど!それは面白い!流石は私の最高傑作だな!」


『お褒めに預かり光栄です、父上』


「うむ、本当に良くやったアインよ。小奴が居ないと色々素材集めが厳しいのでな」


「そこかよ!」


メフィストは俺をシカトして作業に入っている。俺には詳しく分からなかったが、何やら魔法陣を刻印している様に見える。


「これで良いだろう。前は移動は風魔法を使っていたが、それに水魔法も使える様に魔法陣の刻印を足してやる事で海中でも移動は可能となった」


「ありがとう。コレはお礼だよ」


と俺はゴーレムの核を3つ差し出した。

メフィストは思わぬ収穫に驚きながらもニコニコしながら核を受け取る。そして箱の中に核を入れた。ん?あの箱どこから出したんだ??


「この程度なら簡単な事だ。コレで核が手に入るなら何時でもやるぞ」


「そうか、そのうちまた他の相談にも来るよ。その時は宜しく」


「うむ、任せておけ」


よし、コレでエターナリアの遺産の件も相談出来そうだな。

俺はメフィストの屋敷から出て馬車に戻った。


『サルナス、上手い事父上を乗せましたね』


「良いかアイン、モノには出すタイミングが必要なんだ」


『多少、詐欺の匂いもしますが』


「人聞きの悪い事を言わないで欲しいな。多少の相違はあるかも知れんが」


俺は馬車を走らせた。

一週間後が楽しみである。

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