第32話 事後報告と休暇。

あの戦いから2日後にSクラスが率いる本隊の斥候が様子を見にやって来ていた。


パトリックさんが直ぐに戦いが終了した事を先んじて本隊に知らせておいたのだ。

聞いた話だと、本隊は集まるだけで空振りに終わってしまいひと悶着あった様だが、そこは子爵とギルマスが何とかするでしょ。俺は知らん。


斥候の二人はチビを見て何やら驚いていた様だが、とりあえず報告しに直ぐに戻ってしまった。




そして、その1週間後、騎士団や冒険者達と一緒にレッドロックスへ帰って来た。

パトリックさんは子爵に報告へ行き、ミカエルさんがギルマスに報告に向かう。

俺はミカエルさんと一緒にギルマスの報告に向かった。

とりあえずチビだけ連れて報告に向かうつもりだ。

冒険者ギルドに到着するとサリーさんが慌てて俺達の方にやって来た。今日はコケなかったな…サリーさんえらい。


「ミカエルさん、サルナスさん、お待ちしておりました!ギルマスが待ってますので部屋の方にどうぞ!あら、可愛いワンちゃ…ひっ!」


サリーさんがチビを見て最初は小犬だと思ったのだろう。でも頭が3つ有るのを見てビックリしたのだ。その時にサリーさんはコケてしまった…う〜ん残念。

気を取り直して立ち上がったサリーさんの案内で俺達はギルマスの部屋に通された。


待っていたギルマスはかなり疲れた顔をしている…どうやらひと悶着有ったのは間違いなさそうだ。


「…おう、ご苦労さんだったな。しかしお前達だけで何とかしちまうとは…流石に計算外だったぜ…」


その言葉に対してミカエルさんが先ず口を開く。


「今回の件は魔人が魔界獣を召喚する生贄として魔獣を集めていた事が原因です。5000ほどの魔獣が召喚により消えてしまった。その時に魔人も自らを供物として生命を差し出して【ケルベロス】を召喚したのです。そして、其れをサルナスが強制的にテイムしたので戦いが終了したという訳です」


「うむ…報告は聞いていたが…で、その犬っころが【ケルベロス】なのか?…確かに3つ頭が有るが…」


それに対しては俺が答える。


「希少魔界獣のエルダーケルベロスです。現在は俺のスキルによって強制的にテイムされて、その結果としてレベルダウンしてるので身体も小さくなり、ステータスも100分の1に落とされてます」


「なるほど…おい、レスターを呼んで来い。アレに鑑定させる。悪いが確認だけさせてくれ…これも仕事の一つだからな」


「もちろん。その為に連れて来てるのですから」


しばらくするとサリーさんが男を連れて入って来た。彼がレスターなのか?

まるで貴族の様な質の良いシャツを着ている金髪イケメンだ。


「レスター、この犬っころの鑑定を頼む。ここに書き出してくれ」


レスターは鑑定しながら結果を書き出している。



名前:チビ(エルスカンドラ)

種族︰エルダーケルベロス(希少魔界獣)【強制平伏中】


レベル【強制レベルダウン中】:29(2981)

HP【減退中】:1354/1354(135490)

MP【減退中】:1095/1095(109542)

攻撃力【減退中】:1643(164395)

防御力【減退中】:1181(118138)

回避【減退中】:1299(129926)

幸運【減退中】:29(2981)

スキル【威力限定中】:黄泉の障壁、魔界炎の息吹、闇の咆哮、闇の爪、神殺しの牙、状態異常付与、状態異常無効、超再生、暗黒雷の波動、闇眼、超嗅覚


黄泉の障壁:魔力により張られる障壁。弱者は障壁を超える事は出来ない。


魔界炎の息吹:魔界の黒炎を吐き出し敵を焼き尽くす。


闇の咆哮:弱者はこの咆哮で身体が動かなくなる。


闇の爪:あらゆる状態異常を起こさせる爪での一撃。


神殺しの牙:咬まれるだけで無く、牙によるかすり傷でもあらゆる状態異常起こさせる。


暗黒雷の波動:闇の波動により暗黒雷を起こし敵に落とす範囲攻撃。攻撃を受けるとダメージの他に麻痺状態を引き起こす。


闇眼:先にこの眼に見られると何処に隠れようとも見つけ出される。



鑑定が終わり、全部書き出したレスターさんが驚いた顔をしながら話し出す。


「魔獣の鑑定も長くやっているが…この様な鑑定結果は初めて見る。この【強制平伏中】だの【強制レベルダウン中】などと言うのは見た事が無い。正直驚いたよ…」


「なるほど…サルナスの言ってる事と相違は無い様だな。レスター手間を掛けた…分かってるだろうがこの事は他言無用で頼むぞ」


「もちろん…何年やってると思ってるんです?新人じゃあ有るまいし…全く…」


「決まり文句だ。気にするな…ご苦労さん、もう戻って良いぞ」


ブツブツ言いながらレスターさんはそのままギルマスの部屋から出て行った。


その後、今回の分け前やら色々聞いた後で俺はお役御免となりそのままギルマスの部屋から出る事になった。


そして受付で今回の依頼料を受け取った後で冒険者ギルドを後にした。




俺はその足でテイマーギルドへと向かった。

ギルマスからテイマーギルドでチビの登録をして来いとの事だった。

テイマーギルドにはラッキーとガッツもついて来た。

ギルドに着くと早速ローラがやって来た。


「サルナス!今回も大活躍だったそうじゃないの!全くアンタには驚かされっぱなしヨ!」


「そりゃどうも…ローラ済まないがコイツの登録を頼む。ちょいと訳ありだが…」


「心得てるわヨ!その子が【ケルベロス】ちゃんね?まあ、ホントに可愛いわね!食べちゃいたいくらいヨ!」


何時ものチビなら牙を剥き出しに唸るはずだが、珍しく目を見開いてローラを警戒しているが怒る様子は無い。

ローラには一様に魔獣達は一目置くのだよな…何故なのか?


俺達はローラの案内でテイマーギルドの前に入った奥にある部屋に通された。

早速ローラは水晶を見ながらチビのステータスを確認する。


「希少魔界獣…御伽話くらいでしか聞いた事の無い様な貴重な子を見れたのねアタシ…」


ローラは感極まったような顔をしている。余程嬉しかったのだろう…何しろ魔獣マニアだからなぁ〜。

ローラはその後も色々調べてる様でチビを持ち上げたり、それこそ舐める様にチビの事を観察していた。


そして、何より不思議だったのはローラが聞いた事をチビがローラに直接念話で話していた事である。

チビは俺以外の人間とはまず念話で話したりはしないが、ローラとだけは普通に念話を使って話しているのだ。魔界獣であるチビでさえもローラの魔獣愛に影響されるのであろうか?

二人で話が盛り上がって1時間以上もあーでないこーでないと話してたのだ。

主に魔界獣について色々と話を聞いていた様だが、その際にローラは面白い話を引き出していた。

それは魔界獣には魔石では無く”冥石”という石が体内に有るという事である。

魔界獣は”冥石”がある為に強大な力を持つ事が出来るが、その”冥石”の力にこの世界が反発する事より此方の世界に入る事が出来無いらしい。その為にこちらの世界に来るにはその反発を抑える為の生命力が必要とされる…その為の供物、つまり生贄が必要になるらしいという事だ。

つまり、魔人はその事を知っていて召喚する為の魔法陣と供物を用意したという事である。そしてその生命力は魔石を持つ魔獣が適していて、人間などの魔石を持たぬ者は適さないらしいのだ。だからやり方を知っていても簡単には召喚する事は出来無い様である。

但し、本来魔人は魔界獣を召喚しようなどとは考えないらしい。それは魔界獣を制御出来るとは思ってないからで、制御出来無い危険な物をわざわざ召喚する必要が無いのである。だが、今回はチビが魔人を操れるという状況に偶然なった為に実現したのだと言う。


「中々面白い話が聞けたわ!チビちゃんとまた話がしたいわアタシ!」


「何なら1週間くらいローラに預けようか?」


「ホントにそうしたいとこだけど…アタシも色々忙しいのヨ…」


まあ、こう見えてもテイマーギルドの中でもかなりのキャリアだそうだ。頼りにされてるのでかなりの激務らしい。


「しばらくは休暇を取るつもりだから『アマルフィ』に使いを出してくれればこっちに寄るぞ」


「そうなの??じゃあ頑張っちゃおうかしらアタシ!!」


「まあ、無理しない程度にな」


「あら!嬉しい事言うじゃないのヨ!惚れ直しちゃうじゃないの!」


「あ〜、そう言うのいいから」


「もう!相変わらず冷たいわねぇ〜まあ、そんなトコも良いのだけどね!!」


相変わらずのローラ節炸裂である。

ローラはチビ用の紋章入り首輪を用意してくれた。ローラが首輪を着けてやり、似合うと偉く褒めたらチビは《…仕方無い…着けておいてやろう》などと尻尾をブンブン振り回して言ってやがる…チョロすぎるぞ、魔界獣。


ラッキーとガッツもローラに話しかけられて嬉しそうにしていた。この二人もローラのファンである。


テイマーギルドを出た俺達は『アマルフィ』に向かった。

しばらくはゆっくりと休暇を取るつもりである。仕事抜きで旅行などで街を回るのも良いかと思っている。

そう言う時間も必要だろう。


とりあえず今日は宿の美味い飯を食うとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る