第23話 巨大な爪痕と二千の魔獣

カイムスさんに連れて行かれた小屋で斥候のライトさんに引き合わされた。


「ライトは此処の村の出身だ、地理にも詳しい。斥候としての腕も保証する」


「俺はレッドロックスの冒険者サルナスだ。今回、調査の依頼を請けた。宜しく頼む」


「ライトだ。コチラこそ宜しく。さて、何処から始める?」


俺はパトリックさんから預かった地図を机の上に広げた。


「パトリックさんが言うにはこの印の3ヶ所が怪しいとの事です。どこから行ったら効率的だろうか?」


ライトは地図を見ながら少し考えていた。


「まず、この印が旧ラシム砦の跡だね、此処から一番近い。次この印がマイセン洞窟と言って天然の洞窟だ。最後、この印はナゼル鉱山…もう既に廃棄された鉱山だ。この順番なら効率良く進めるだろう」


「君の見立てで構わないのだが、どこが一番怪しいと思う?」


「う〜ん…魔獣の多く発生してる場所を重ね合わせるとナゼル鉱山が一番怪しいかな」


「ありがとう。其れならこの順番で良いだろう。案内を頼む」


「先にナゼル鉱山じゃ無くて良いのか?」


「先に可能性の薄い方を潰して置けば、鉱山の方に多くの時間を使えるからね。もし、他のが当りならそれはそれで早く調べられるから良いだろう」


「なるほど…じゃあ早速行きましょう!」


俺達は魔獣に気付かれない様に徒歩で移動する。ライトは斥候だけあって足も速く、それでいて持久力もあった。


「サルナス殿は足が速いな。斥候の職業かスキル持ちなのか?」


「いや、俺の職業は魔獣使役(ビーストテイマー)だよ。ちょっと特殊なスキル持ちではあるのだがね」


「はぁ??テイマーなのか??魔獣が見当たらないが??」


「まあ、そこらも含めて特殊なんだ…」


「ふ〜ん…」


あまり納得してない様だが、気にせず歩く。半日で最初の場所である旧ラシム砦の跡に到着した。此処にはダークウルフの群れが住処にしている様だった。

しかし、魔獣で溢れ返っている訳でもなく30匹程のコロニーを形成してるだけであった。住処として使っているのなら適当な数である。


「ここでは無さそうだな…次に行こう」


俺達は早々に砦を後にしてマイセン洞窟に向かう。

此処から3日の行程だった。

初日の仮眠時にリムーブしてラッキーとガッツを見せたらライトさんはビックリしていた。


「おいおい…そんなスキル聞いた事も無いぜ…」


「まあ、そうだろうな。他言無用で頼む」


「もちろんだ。コレでも騎士団に居るのだ。人の秘密をペラペラ喋ったりせぬよ」


ライトさんが仮眠中にラッキーとガッツの食事を取らせた。



そして3日後にマイセン洞窟に到着。


早速調査に入る。


マイセン洞窟の中には魔獣は居なかった。しかし、奥の方に何かが暴れたような痕が残っており、どうやら最近のものらしい。


「コレって何かデカいヤツが暴れた痕ですよね…」


「…推察するに10mはゆうに超えてる様だな…爪の痕がとんでも無いデカさだからね」


取り敢えず調査報告に入れて置こう。この時点でイヤな感じがかなり強くなっていた。少なくともオークジェネラルの時に感じたレベルのものだった。


此処での調査を終えて、俺達はそのまま4日掛けてナゼル鉱山まで進んて行った。



「こりゃあ…ヤバい…」


ライトさんが思わず声を出した。

ナゼル鉱山の入り口にはとんでもない数の魔獣達が居たのである。


「ざっと数えて2000はいそうだな…」


「サルナス殿、これじゃあ中まで見れそうに無いですよ…」


居るのはコボルドを中心にダークウルフやオークの姿もある。所々で小競り合いが有る事から統率は大してとれていない。


「ココってどの位の長さに掘られているのだろう?」


「かなり長いと聞いてます。本来は天然の洞窟だったのですが、奥の方で鉄鉱石が見つかりかなり広く長く掘り進められたらしいです。枯渇してからはタマに魔獣を間引くのに入るくらいで奥深くまでは…」


「だとすると…此処に出てる魔獣の倍以上…あるいは3倍は見ないと駄目かもしれない。とにかく村に戻って知らせよう。その後直ぐに俺はレッドロックスに戻ってパトリックさんに報告する」



俺達は夜中も出来るだけ歩き、3日で急ぎ村まで戻った。


「何だと!?2000も居ただと??」


「見えたのだけでな。殆どはコボルドでダークウルフやオークも見えた。統率はとれていないが数が多過ぎる。俺はパトリックさんの方に至急知らせる」


「何て事だ…あの鉱山は広くて長い…奥深くまで魔獣でびっしりなら3倍は居る事になるぞ…」


「とにかく村に居るのは危険かも知れない…最悪の事も考慮した方が良い」


「分かった。とにかく急ぎパトリック様にお伝えしてくれ」


「任せてくれ。それと気になったのはマイセン洞窟の巨大な魔獣の暴れた痕が有った事だ。無関係とは思えない」


「…とにかく其方は後回しかな…とにかく頼んだぞ」


「了解した」


俺はそのまま馬車を飛ばしてレッドロックスに急ぎ戻った。


3日後に戻って来た俺は、そのままパトリックさんの居る子爵家御用達の宿に直行した。


「鉱山跡にコボルド中心に2000だと…まさか…」


「見えたのだけでざっと2000。奥の方まで居るとすると約3倍になりそうだと言っていた。コレは簡単には済まないぞ」


「冒険者ギルドにも応援を頼まないと不味いな…此方で用意出来るのは1000人がやっとだ」


「後、気になったのがマイセン洞窟の巨大な魔獣が暴れた痕が有った事だ。どうも無関係とは思えない」


「巨大な魔獣?どの位の大きさだ?」


「爪痕から推察するに10mは有るだろうな…」


「10mだと??そんな魔獣が居るなど有り得ない…ダンジョンじゃあるまいし…」


「となると呼び出した…って事か?」


「まさか…召喚したと言う事か??そんな魔獣を召喚出来るなどタダ事では無いぞ…」


「でも、それだとこの異常発生の理由になる」


「そうか確かにな。…しかしそれ程の召喚となると膨大な魔力が…まさか…」


「とにかくギルマスに知らせて来る。緊急事態を出させよう」


「其方は任せる。我らは急ぎ明後日には出る事にしよう」


「気を付けてくれ…嫌な予感がする。オークジェネラルの時よりだ」


「分かった。サルナス…君も来てくれ。頼む」


「少し遅れるかもだか、必ず行こう。約束する」


俺はパトリックさんから割符を貰い、急ぎギルマスの元に向かった。

冒険者ギルドに着くと直ぐにサリーさんに報告するとギルマスの部屋に連れて行かれた。


俺はギルマスに調査の結果を話した。


「2000匹の魔獣か…しかもその三倍の可能性アリ…とにかく緊急事態を出して頭数を用意しよう。Sクラスが二人コッチに居るからそいつ等を出す。お前はどうする?」


「パトリックさんから来てくれと言われてる。先発したいがどうだろうか?」


「ソイツは構わんが馬車は使えんぞ。コッチで使うからな」


「そうか…なら用意しなきゃだな」


「先発は許可するが無茶するなよ。鑑定持ちの人数は少ないからな」


「死なない程度には頑張りますよ」


その後、緊急事態が出され冒険者ギルドが蜂の巣を突いた様に大騒ぎとなった。

受付でサリーさんから報酬の大金貨2枚を貰ってギルドを出た。


俺は急いてリカルド商会に向かった。


「おや、サルナス様どうなさいました?」


偶然、店先に出ていたネレイムさんに鉢合わせした俺は、ネレイムさんに事情を話して馬の用意をして貰おうとした。


「馬車ですか…うむ…そういう事なら甲魔馬は如何でしょう?」


「甲魔馬??あの農耕に使ってる奴か?」


甲魔馬とは馬の魔獣で皮膚がうろこ状になっており硬くて丈夫な魔獣である。大きさは馬の一回り大きい位で体重が倍ほどの大人しい魔獣だ。馬力もあるので農耕や荷物運びに使われる事か多い。


「はい、速度はさほど速くありませんが、硬くて丈夫で力持ち。持久力に優れてますから長距離でもバテません。サルナス様は鑑定の仕事で長旅も多いかと思いますし、テイムした魔獣もおります。普通の馬よりは使い勝手が宜しいかと」


「なるほどね…確かに馬力は有りそうだ。直ぐ用意出来るかな?」


「今ならウチにある中古の馬車をお付けします。1日待って頂ければご用意致します」


「それでいくら位かな?」


「金貨80枚で如何でしょう?」


「うむ、それで頼むよ」


「毎度ありがとう御座います。では明日の夕方には用意して置きますので」


「宜しく頼む。じゃあ明日に」


リカルド商会を出て、まだ早いと思ったが、メフィストの所に顔を出す事にした。

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