第14話 王都にて。

王都の長い行列に並ぶ前に俺は魔獣武装(ビーストアームス)をリムーブした。この距離ならガッツを馬車に乗せても大丈夫だろう。しかも休み休みだからね。

ガッツは馬車の中に、ラッキーは俺の頭の上に乗って来た。


前に並んでいる商人さんが2時間くらいで王都に入れるのではと教えてくれた。何でも最近王都で騒ぎが有ったらしく、検問が厳しくなってるそうだ。騒ぎって…王都だろ?


2時間くらいでやっとこちらの順番が回って来た。俺がテイマーギルドのギルド証と冒険者ギルドのギルド証を2つ提示するとガッツとラッキーの確認をして解放された。

俺は前に居た商人にリカルド商会の場所聞いていたのでそちらに向かった。


リカルド商会の本店はやはりデカい。レッドロックスの支店もデカいがやはり本店は違うな。

俺は店の横に馬車を停めてガッツに見ててもらう。俺はラッキーとリカルド商会に入った。


「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」


「俺はサルナスと言います。レッドロックスの冒険者ギルドの依頼でリカルド商会の支店からコチラに荷物を運んで来ました。取り次ぎをお願いします」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


店の人が奥に入って行く。しばらくすると小柄な執事さんみたいなのがやって来た。


「お疲れ様でございます。当店の番頭のカイセルと申します。ささ、コチラへどうぞ」


カイセルさんに連れられて2階の部屋に通された。そこに1人待っている人がいた…ん?ネレイムさんに似てる気がする…。


「ご苦労様でしたな。サルナスさんでしたね?私が当店の主、マルケス=リカルドと申します。早速ですが品物を拝見したい」


俺は挨拶もそこそこにポシェットから箱を取り出した。鍵はマルケスさんが持っており鍵を開ける。そして箱は俺が開けて中身を鑑定する。間違いないようだ…。


「では、コチラの品…鑑定の結果間違い無い様です。ご確認願います」


「うむ、では…間違い有りませんな。ではコチラを…」


マルケスさんが差し出したのは割符の中身である。俺はカードを取り出して割符を嵌め込むとカードが青く光って割符にギルドの紋章が浮き出て来た。コレで任務完了である。


「お疲れ様でしたな。思ってたよりも早かったので助かりましたぞ」


「お急ぎと伺ってましたので…途中厄介なのに巻き込まれなければもう一日早く来れたのですがね」


「それはそれは…盗賊ですか?」


「ああ、盗賊も来ましたがそちらは直ぐに片付いたんで…それよりオークの群れに襲われていた馬車を助けたので…」


「何と!大変でしたなぁ!」


「もう少し遅ければ馬車の連中は危なかったかも知れません。運が良かったです」


「オークはどれほどの群れだったのですか?」


「そうですね…60は下らないと思います。オークリーダーを倒したので三分の一近くは逃げましたが」


「そ、それ程の数を…失礼ですが…サルナス様はDランクとお聞きしてたのですが…」


「まあ、色々有りまして…ダンジョンのオーガくらいは楽に倒せるので、オークくらいでしたら問題無く対処出来ます」


「オーガ??それは凄い!!」


「あ…そうそう、ジェシー=リカルドと言う娘さんにお会いしたのですが…」


「ジ、ジェシー?!!!そ、それはいつ頃に??」


「はい、オークの群れに襲われていた馬車に乗っていたのです。ケガはありませんでしたが、帰ったらレッドロックスの支店に顔を出してくれと言われたので…」


「何と!!ではジェシーはレッドロックスに向かったのですな??!」


「それは間違い無いと思います」


「ちょ、ちょっとお待ち下さい…」


マルケスさんは慌てて部屋を出て行った。どうやらジェシーは家出でもしてた様だな…だから乗り合いで馬車に乗っていたのだ。

しばらくするとマルケスさんが年配の男性を連れて来た…マルケスさんに似てるな…。


「私はアレックス=リカルドと申します。何でも孫娘のジェシーを助けて下さったとか…」


この人がリカルド商会の会頭、アレックス=リカルドか。商人ギルドの実質の主でもある。


「偶然ですよ。冒険者は助け合いですからね。当然の事をしたまでです」


「それでも感謝を…それでジェシーはネレイムの所に行ったのですな?」


「そう聞いています。レッドロックスに戻ったら支店に顔を出してくれと言ってましたから」


「そうですか…ホッとしました。まさか本当にレッドロックスに行くとは…」


そう言うと安心したのと呆れているのと複雑な表情になった。商人としては見せない顔なのだろう。


「サルナス様、頼みが御座います。私の手紙をネレイムに送って欲しいのです。もちろん依頼料はお支払します」


「いやいや、そのくらいは依頼料など要りませんよ。個人的にであれば届けます。依頼料を貰うとなるとギルドがうるさいですからね」


「そうですか…それではお願いして宜しいですかな?」


「ええ、冒険者ギルドに寄った後にこちらに伺いますのでその時にでも」


「しかし…サルナス様は何と言うか…お金に無頓着ですな」


「そうですかね?冒険者は助け合いだと思ってましてね。そう言えばジェシーお嬢さんには商人は借りたものは必ず返すのが当然だと叱られましたが。ハッハッハ」


「その様な失礼な事を…何卒ご容赦下さい…」


「いえいえ、俺は感心したんですよ…しっかりとした考えを持ってるなと。しかもオークの群れに襲われた直後に震えもせずに堂々とです。フルネームを名乗ったので其処だけは迂闊だと注意しましたが…立派なものですよ」


「そうでしたか…そんな事が…ありがとう御座いました。流石は『朱刃』をお持ちの方だ…実力は今のクラスとはかけ離れてる様ですな」


アレックスさんは俺が置いた『朱刃』を鑑定したのだろう。


「実は数ヶ月前にトカゲの尻尾切りに遭いましてね…ダンジョンの中層に飛ばされたのです。その時にこのラッキーをテイムしたと同時に、とあるスキルを身に着けまして…それからは中層をレベル100を超えるまで篭ってたのです」


「その様な事が…良く戻って来れましたな。ではそのスキルが貴方の武器と言う訳ですね」


「ええ、その後、唯一種のハイトロルメイジのガッツをテイムしたりと幸運が重なって今の実力となったのです」


「それで『朱刃』も手に入れたと言う訳ですな?サルナス様は中々の幸運に恵まれているようですね」


「コレを手に入れた時は大変でした。罠にハマってオーガの巣に転送されましてね。そこのボスだったオーガリーダーが討伐のアイテムとして落としたんです」


アレックスさんもマルケスさんも顔が引き攣っている…何でこの話すると皆が同じ顔をするんだろう?


「それと一緒にあった進化の種でラッキーをメタルスライムからリキッドメタルスライムに進化させたんです」


「メタルスライムをテイムしたのは聞いた事が無いですな…それでリキッドメタルスライムとは…伝説級のテイムでは?」


「テイマーギルドでは珍しいと。ただしテイマーギルドではあまり評価されないのですよ。荷運びや偵察が出来る魔獣が評価されますから」


「なるほど…冒険者ギルドの方が稼げると言う訳ですな。しかも鑑定持ちなら引く手数多でしょう」


「らしいです。ついこの間知ったので…おっと、長話を…そろそろ冒険者ギルドに行ってきますね。後でまた」


「いやいや、コチラこそ申し訳無い。では手紙を書いておきますので宜しくお願いします」


俺は王都の冒険者ギルドに向かった。

王都の冒険者ギルドはとにかくデカい。レッドロックスの冒険者ギルドが小さい訳じゃなく王都の冒険者ギルドがデカ過ぎるのだ。

俺は直ぐに受付の男性にギルド証と割符の入ったカードを見せる。受付の男性は直ぐに奥に入ってから職員を連れて来た。


「レッドロックスのサルナスだね。こちらに来てくれ」


俺は案内されるままに奥の部屋に行く。

部屋に通されて少し待っていると職員さんが袋を持って現れた。


「それでは大金貨15枚になります。ご確認下さい。確認が終わったらココにサインをお願いします」


大金貨15枚って…大金貨で金貨100枚なんだぞ…金貨1500枚!!そんなに儲かるのかよ!!


俺は金貨を数えて確認した後で、平静を装いながらサインをする。いやあ流石はリカルド商会だなぁ〜。


「お疲れ様でした。私はこれで失礼します」


忙しいのだろう…ギルド職員さんが出て行ったので、大金をポシェットの中に入れて俺も出る事にする。


冒険者ギルドを出てから、ふと考えた…大金貨じゃ買い物出来無くないか?いや、待てよ…何か武具か道具でも買うか?それならリカルド商会に行くし、良い物が有りそうだ。いや、待て待て…ここは王都…裏通り辺りにとんだ掘り出し物があるかも知れない。鑑定持ちならそのくらいせねば。


こうして俺は裏通りの武具屋の並ぶ地域にやって来た。馬車を冒険者ギルドに預けてガッツも来てもらっている。ガッツにも武具を買ってやるかな。


行ってみると裏通りと言いつつかなり活気のある通りで人も多い。沢山の店の中で唯一客が全く入らない店があった。妙に気になる…意を決して店内に潜入する。


「何探してんだ?」


店の店主だろうか、ぶっきらぼうな言い方が客商売の下手さを物語っている。


「ウチのガッツに合う武具を探してる」


「テイマーか…そのデカいのは…トロルか?」


「ああ、殴りながら魔法を使う」


「はぁ??トロルが魔法だあ??からかってるなら帰りな」


「本当さ。ウチのガッツはハイトロルメイジって唯一種だからな。炎や雷の魔法で相手を殴る」


「ほう…ソイツは面白えな…おい!ちょっとコッチ来い!」


ガッツを呼び寄せるとしきりに両手や腕を確認している。すると店の奥に入って行き、しばらくすると中から大きな皮袋を持って来た。


「コイツを着けてみな!」


その皮袋から取り出したのは、二つの武器?なのだろうか。俺は鑑定をする。


ウラヌスナックル︰ウラヌスジャイアントのドロップアイテム。手に装着して殴る。俊敏の付与。攻撃力:+600、回避×1.25


ウラヌスジャイアント?確か北の方の巨人の魔物だったな…ほう…これは良さげだな。


「ガッツ、着けてみて」


ガッツはウラヌスナックルを着けてみる。シャドーをしながら着け心地を確かめてるようだ。


「オレ、キニイッタ」


「よし、買おう。いくらだ?」


「ほう、即決か。気に入ったぜ!200のトコだが金貨100枚でどうだ?」


俺は貰ったばかりの大金貨1枚を出した。


「オレが言うのも何だがよ…値切らないのか?」


「必要無い。良い品だ…200でも買ったよ」


「フハハハ!!お前気に入ったぜ!俺はラダックだ、宜しくな!」


「俺はサルナス、レッドロックスの冒険者だ。また王都に来る事もあるだろうから贔屓にするよ」


こうして俺はラダックの店でガッツの武器を手に入れたのである。

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