第50話魔王と聖なる乙女~ 母の想いは純粋で歪んでいき② ~

 ※流血表現

 ※ゆるい性描写有り

 ※ラスト時系列戻ります(過去編※本章の)


 ーーーー

 

「おい、あれって神殿の聖騎士だよな?」

「ああ、白いマントに銀の鎧だから、そうだと思うが……」

「どうして呪術一族の長の娘と一緒なの?」

「さぁ、どうしてかしら? 呪術一族の屋敷にむかっているようだけど……」


 村人達のざわめきがリールの耳に届く、リールは恥ずかしさで顔を上げれなかった。

 顔は、きっと茹でタコのように真っ赤だが、ブラッディベアの血がリールの顔色をかくして、誰にも気付かれていない。


「あ、あの、カヤックさん」

「なんですか? リールさん」

「わたし、自分で歩けるので下ろ「捻挫が悪化したら大変なのでダメですよ」

「……痛みは感じにく「感じにくくてもダメですよ」


 リールの意見は、ことごとくカヤックに却下された。

 ブラッディベアに襲われて転んだ時に、足首を捻挫したリールは、カヤックに横抱きに抱えられ村の中を歩いていた。 このままリールの呪術一族の屋敷いえに送る気みたいだ。


「……せめて、屋敷の前で下ろしてください」

「…………忘れなければ」


 長い沈黙と了承じゃない返事にリールは不安を覚え、カヤックは忘れていたのか最初から下ろす気はなかったのか、リールを抱えたまま呪術一族の屋敷に訪れ、


「り、り、り、リールどうしたんじゃ? 何があった⁇」

「…………ただいま帰りました」

「あ、ああ。 おかえり。 で、どうしたんじゃ? 君は聖騎士だな?」

「はい、カヤックと申します。 魔物討伐中にリールさんが捻挫してしまい、偶然通りかかった私が介抱いたしました」

「そうだったのか、ありがとう。 娘が無事だったのは君のお陰だ」


 カヤックは思うところがあるんだろうか、リールの父親の言葉に少し驚いたようだった。

 そんなカヤックの気付いた、リールの父親は、


「? どうかしたか?」

「……ああ、いえ、なんでもありません。 やはり人の噂はあてにならないなと、思っただけですから」

「ああ、神殿そちらでもさんざんな言われようだろう。 呪術使う、わしらと神聖な神殿は昔から折り合いが悪くてな」

「…………価値観の違いですから」

「カヤックくんといったか、否定せんのもいいな。 君さえよければ頼みがあるんだが、娘が完治してからになるんじゃが、娘と一緒に魔物討伐に行ってくれんか?」

「おっ、お父様ぁ、何をっ!」

「え……?」

「いや、なに、前からリール、一人で魔物討伐に行かせるのは心配でな、かといって戦闘にむいてる呪術使いもおらんし、殿、どうだ、引き受けてくれんか?」

「……そう、ですね。 ですし、お受けします」

「そうか、そうか」

「お父様ぁ、わた「まぁ、難しいと思うがよろしく頼む」

「こちらこそ、では、失礼します」


 カヤックはお辞儀をしてお暇の挨拶をしたあと、リール達の目の前から、


「ほほう、     な」

      消えた

「えっ、      の?」


 はじめて見る光景に関心と戸惑いの声がリール達、親子からこぼれ落ち、


(ん、まって、今の魔法? で、屋敷ここまで来れば、公衆の面前で横抱きにされなくてもよかったのでは……?)


 そんな疑問にリールは支配され、後の魔物討伐の際に、この疑問を問い掛けたら、


「牽制は必要ですから」


 ……――と、訳の分からないことを言っていた。

 この時に見せたテレポートは、カヤックや、今は亡きカヤックの両親や親族しか使えない特別な魔法は、現在いまはディアーナ王家のみ受けつかれ、ディアーナ王家の王女の婚姻先には決して継承されないユニークスキルと知れ渡っている。 そして、


 ― 本日 ―


「魔物討伐に行きましょう!」

「かっ、カヤックさん、急に出てこないで下さいっ!」


 ― 翌日 ―


「今日は散歩に行きましょう!」

「もう、カヤックさん、今日も急なんだから……」


 リールとカヤックの魔物討伐からはじまった交流は、村や呪術一族、神殿の人間に知れわたり、3年後のリールの婚姻相手がカヤックではないかと噂も一気に広がった。




 そして3年の月日は流れ、リールとカヤックが18歳の誕生日をむかえた日、


「わたしと結婚して下さい」

「……――っ。 はい、喜んで。 ただ、ひとつだけ条件があります。 もう使


 リールにとってカヤックのこの条件が不思議でならなかったが、惚れた弱味か、その条件さえ守ればカヤックが自分と一緒に居てくれる幸福感から、リールは条件を受け入れた。


(たとえ “ 初夜 ” の関係だとしても、愛する人と一緒に居られるのは幸せだわ……)


 リールに呪術を使えなくなって欲しい、そんな村長達の思惑も理解していたからか、リールは “ 初夜 ” が終われば、自分達は夫婦の営みをしないだろうと思い込んでいたが、


「リールさん、愛しています」

「わたしも……っ、愛してる」


 その後も夫婦の営みは続き、2年後には金髪翡翠色の瞳をした双子の男子、ファラットとディアを授かりリールは幸せの絶頂にいたが、


「……――っ、ディアが “ 魔物使い ” 、忌み子なのっ」

「そうだ。 お父様と神官長様に相談して対策を練ってもらっているが……リールさんの問題が解決したのに、どうして、また」

「え? わたしがどうかしたの?」

「な、なんでもない。 とりあえずディアの問題は私達でなんとかするから、リールは約束を破るなよ、いいな!」

「わ、分かっているわ」


 夫カヤックにはディアの他にも心配事があるようだったがリールには何も話してくれず、10年の月日が流れ、


「ディア、ディア、大丈夫なの!?」

「かあさま、おちついて、ディアはだいじょうぶです。 ねむっているだけですから」


 先日の村の村長の孫息子・ガルーシェをはじめ、マヤとダルクに連れ出されたディアは【白数珠】を壊され “ 魔物使い ” の能力ちからを強制解除した “ 反動 ” の影響で3日も眠り込んでいた。


(ファラットに眠るようにって部屋を追い出されたけど、ダメだわ、やっぱり心配で寝れない、様子見だけでも)


 コンコン。


「ファラットなの? どうぞ」

「かあさま、ねれましたか?」

「……心配で寝れないわ。 ディアの様子はどうなの?」

「ディア、かくれてないで、でてこいよ」

「か、かあさま……」

「ディア、目覚めたのね! 良かった!」

「く、くるしいよ。 かあさまぁ」

「ああ、ああ、良かった。 もうお母様を心配させないで」


 リールは息子達を力強く抱き締め、ディアが苦しくて悶えてるが、放す気配もない。


「いい、ディア、もう、この家から出てはダメよ。 決してお母様から離れないで。 お母様がディアを守るからね」


 この時のリールは、いずれファラットは独立し、ディアは永遠ずっと、自分の側に居るんだと思い込んでいた。

 そんなリールの想いは純粋で歪んでいき、その想いを否定する出来事が待っていることなど、リールは知らなかった。

 18歳に成長したディアと手を取り合う、の姿を見るまでは。


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