第32話『とても……懐かしい…気配だわ』

 ※主人公視点

 ーーーー

 


 閉じていた瞳を微かに開く。

 私の銀髪や衣服の裾が上空へ、ふわりと舞い上がり"浄化"の魔法を何時でも発動出来るように力が集まっていく。


 この“浄化”だけでは、ディアーナ王国全体の濃厚な瘴気は"浄化"仕切れないから、ルティルナの都を中心に"浄化"魔法を広げていくように"想像イメージ"して、身体から真っ白に光輝く巨大な白鳥が現れると同時に私は祈るように両手を組む、


 …ーどうか、人々を魔物の驚異から守れますように。


 その願いと共に巨大な白鳥はバサッと翼を広げて、ガルフォンが私達の姿を隠すためにはった認識阻害の空間結界の外へ、羽ばたいて行く。


「あれ、なんだ!」

「すっげぇ」

「白い鳥!」

「誰の魔法っ!?」

「ママぁー、あれ、なぁに?」


 私の"巨大な白鳥浄化魔法"を目撃した人々が騒ぎだす。

 巨大な白鳥からはキラキラと光る真っ白な粒子が人々へ降り注ぎ、最後は霧散して、ルティルナの都の外へ広がって消えていく。


「あら?身体が怠かったのに、楽になった?」

が""されてねぇか!?」

「聖女様がいらっしゃるのか?」

「聖女様はまだ王宮に居られるだろ?」

「もう、旅立たれたはずだ!」

「行方不明って聞いたわよ」


 聖女の"浄化"魔法だと気付いた人々が「聖女の噂話」で騒ぎ始めた。


 くらっと眩暈めまいがしてうずくまった私に、フィル君が慌てて駆け寄る。


「ハル、大丈夫?」

「…ハァ、ハァ。

 ………うん、大丈夫」

「支えてるから立てる?」

「うん」


「おい!

 でっかい鳥、この辺から出てこなかったか!?」

「誰もいないぞ」

「分かってるな!?

 だぞっ!」

「分かってるわよ」


 私達が居る鐘塔カンパニーレの中、上層の鐘がある場所まで、下層の、しかも屋外からのざわめきが届く。

 人々の声が重なりあって、私にはよく聞こえない。ガルルッとフゥが周囲を警戒する。


「賞…金…?…山…分け?」

「お頭?」

「ティティ、どうしました?」

「しっ、静……かに…して」


 ティティは「静かに」の意味で、口元に人差し指を立てる。狼の耳がキョロキョロと左右に動く。

 人狼族ティティの耳が人間達でも、拾えない音を拾ったようだ。


「……王宮の……から。

 フィルと…ハルに……懸賞金が…ひとり…白銀貨、50枚…掛け…られて…る」


 ひとり白銀貨50枚って、日本円で50,000,000円!

 ふたりで白銀貨100枚で、総額100,000,000円もっ!?


「宰相。

 ……か?」

「…ええ、ガリジェダ・リディエール宰相。

 王宮の【魔王封印派】のです」


 フィル君とガルフォンの会話が私の耳にはいる。


 ガルフォンの叔父さんって、3年前にガルフォンの両親と弟さんを暗殺して、一緒に亡くなった執事長のディオールさんが言うには……何かに憑かれてるって人だよね。

 その人が国王陛下とフィル君の【魔王打倒派】の敵対派閥のトップって偶然なの。


 私は不安と心配が入り交じった表情でガルフォンを見つめる。その表情に気付いたガルフォンが、


「大丈夫だよ、嬢ちゃん。

 ここは俺がなんとかする」


 そう言って、私の頭をわしゃわしゃと荒く撫でる。


「何処だ?何処に居る?」

「此方か!」

「あっちを探せ!」

「此方は誰も居ないわ」


 屋外では、まだ私達を捜索する人々が居る。さっきより人数が増えてる。


「何か策はあるんですか?」

「"浄化"魔法の時と一緒だよ。

 認識阻害と防音の空間結界をはる」

「ガルの…テリトリーに……入った…人に…見つから…ない?」

見つからないそうならないように、空間結界の範囲を狭めて、俺達の輪郭に沿って、空間結界をはる。って、ことで嬢ちゃん、ちっと我慢しろ」

「きゃ、あぁ…」


 ガルフォンにまた俵担ぎをされた私は思わず悲鳴をあげる。捜索する人々に見付からないように、慌てて口に手を当てる。


「ガルフォン!

 ハルは僕が支えるからっ」

「……それだとアレ突破すんのに時間かかるだろ」


 フィル君とガルフォンは小声で話して、私にはよく聞こえないが、ガルフォンが親指で屋外の「捜索する人々」を指差してる。


「さすがに…俵担ぎそれは…」

「ん。じゃあ、お姫様抱っここうかぁ?」

「わ、わわっ」


 俵担ぎだった私が、ぐるんっと下へ落ちて、ガルフォンの胸元へ、お姫様抱っこの体制になる。

 ガルフォンはニヤニヤしながらフィル君を見つめる。


「……それも、だめ「フゥに…乗せて」

「お頭?」「ティティ?」


 フィル君の声に被るようにティティが口を出した。ガルフォンとフィル君がティティを見つめる。


「ハルは…フゥに、乗せて。

 …フィルは…後ろに…乗って…支えて…」


 ガルフォンが…なんとも言えない…怒り?を孕んだ、黒いオーラのティティに見つめられる。その瞳はギラリッと獲物を狙う肉食獣と一緒だった。


「これ…だと、の…空間結界…でしょ?」

「へ、へぃ」

「それと……あんまり…フィルと…ハルに…構ってる…と、面白く…ない」


 ティティは自分の身体をピッタリと、ガルフォンの身体にくっ付ける。ガルフォンは照れながら、


「お頭……悪かったよ」


 私をフゥに乗せながら、そう呟いた。そんなやり取りを見ていた私はー…、


 え、えぇ。

 ガルフォンとティティふたりって、恋人同士だったの??


 私は視線で、後ろのフィル君に問いかける。フィル君は私の言いたいことを察して、コクコクと頷く。


 異種族恋愛かぁ~。

 ムツキとイーディスと一緒だぁ。


 …でも、異種族同士だとんだよね。




 ―――――




 ハルがルティルナの都で"浄化"魔法を使った同時刻。王宮の一室。


『あら』


 執務机で書類を確認していた、宰相ガリジェダは手を止めて立ち上がる。男性のガリジェダから、女性の声が零れる。

 ゆっくり窓へ近づき、そっと窓ガラスに手を触れる。


『とても……懐かしい…気配だわ』


 窓を開けると風が部屋の中へ入り込む。


『誰だったかしら?』


 ガリジェダは少し考え込む。


『…ああ、思い出したわ。

 ……ムツキ様だったかしら』


 コン、コン。

 部屋のドアがノックされる。


「どうぞ」


 本来のガリジェダの声で入室を許可すると、国王陛下付の文官が入ってくる。


「国王陛下がフィルシアール様と聖女様のことでお呼びです」

「承知しました。今から謁見へ向かいます」


 ガリジェダはそう言うと、文官を残して部屋から出ていく。


 ガリジェダ宰相…。

 昔はよく笑う陽気な人で、自分にも他愛ない言葉をかけて下さったのに、兄夫婦家族が亡くなった3年前から、人形のように変わってしまった。


「何が…貴方を…変えてしまったのですか?」


 文官の呟きは誰にも届くことなく消えていった。

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