第22話ティティとフゥ

(えっ!魔王の“封印”が‼︎)


 私が意味も分からず戸惑っていると、ガルフォンは首元からシャツに隠れる様に付けていた“薄紫と水色が輝く石”のペンダントを取り出した。

 その石を強く握ると私達は真っ暗な異空間から“外”へ。ルティルナの都の表通り近くの脇道に出た。


(【魔石】の力で異空間あそこを創っていたのか)


 私がぼんやりそう思っていると


「あれ?」


 ルティルナの都から、いや、ディアーナ王国全体から今までと比べられない“瘴気”が溢れている事に気付いた。


「フィル君…おろして」

「身体は大丈夫?」

「瘴気でダルいけど…平気」


 聖女は瘴気を“浄化”出来る唯一の人だが、普通の人間ひとよりも瘴気に弱い体質だが、逆に瘴気も聖女に弱く、魔王が居る『静寂の森』と濃過ぎる瘴気のかたまりを除き、かすみの様な瘴気は聖女の周りには近寄れない。


 現在いまディアーナ王国から溢れてる瘴気は『静寂の森』と同じ瘴気だった。


「身体が辛かったらすぐ言って」

「うん」


 フィル君は私をおろすと、私の身体を支える。


「おい。あっちが騒がしくないか?」


 ガルフォンが指差した方向から


「きゃーー!」

「魔物だぁ!」

「助けてくれ‼︎」


 私は叫び声の方へ走ろうとしたが、身体がよろめいて走れない。


「ハル!」


 フィル君は私の身体を支えようとするが


「仕方ねぇなぁ」


 ガルフォンは私をヒョイとたわらを持つ様に担ぎ上げ走り出した。


「きゃあ」

「ガルフォン!」

「時間ねぇだろう」


(フィル君?)


 どうしてか分からないがフィル君が悔しそうにガルフォンを見ていた。



 ーーーーーーーーーーーーー



「誰かぁ助けてぇ‼︎」


 私達が騒動の現場、表通りの先に大きな噴水がある広場に到着した時、女性が赤紫色の鱗、緑色の瞳、手と足は鋭い爪が生えた恐竜に似た『ブラットドラゴン』に襲われていた。


「危ない!」


 フィル君は剣を取り出して、魔法の水の矢をブラットドラゴンに放って、女性を助け出そうと走ったが


(ダメ!間に合わない‼︎)


 チャリーン


 ブラットドラゴンの爪がもう少しで女性の身体を引き裂こうとした時、上空から鈴の音と、氷のかたまりの魔法をまとって三日月の様な形をした剣が2つ、ブラットドラゴンの頭と体に刺さって氷のかたまりが弾けて、ブラットドラゴンは倒れて動かない。死んだようだ。


「フゥ、おりて」


 チャリーン


 小型車ぐらいの大きさの蒼白い毛と金色の瞳の狼の幻獣“幻狼げんろう“に乗って、前世むかしの仲間のティーニャと同じ人狼族の少女が女性とブラットドラゴンの死体の近くにおりてきた。


 真っ白な耳と尻尾と髪は腰まで長く頭の上からポニーテールに結んであり、金色の髪留めに鈴が2つ付いている。

 瞳は金色で瞳孔が狼の様に細長くなっており、赤色と金色のアラビアン風の踊り子の格好をしていて、腰周りに真珠の飾りが巻き付いている。


 チャリーン


 ブラットドラゴンに刺さってる剣を2つ、引き抜くと血を拭って腰にある黒い鞘にしまった。


「ありがとうございます。ありがとうございます」

「怪我はない?」

「はい!貴女様のおかげで、こうして無事です」

「よかった」


 ブラットドラゴンに襲われていた女性が人狼族の少女の両手を掴んでお礼を伝える。人狼族の少女も優しく確認する。


 チャリーン


 人狼族の少女が動く度に鈴の音が聞こえる。


「お頭、戻っていたのか」

「「お頭??」」


 私とフィル君はガルフォンの言葉に???になってると、私を担いだままガルフォンは人狼族の少女の元へ走り出した。


「わぁ!」

「お、おい」


 私がびっくりしてフィル君は私達を追いかける。

 ガルフォンはキラキラとしたすっごい笑顔だ。


 ブラットドラゴンに襲われていた女性と別れた人狼族の少女と幻狼は私達に気付くと


「ガル」

「お頭。視察から戻るなら、知らせてくれてもいいじゃないか」

「…苦しい」


 私をポイッと放り投げると、ガルフォンはお頭?をぎゅうぎゅうと抱きして、フィル君は見事に私をキャッチした。


((変わりすぎ))


 私とフィル君は呆然と眺める。


「…クルル、クー」


 幻狼が私に近づいて匂いを嗅いでいる。


「お前」

「クゥ?」


 フィル君は私と幻狼を離そうとするが、幻狼が『どうしたの?』と言っているみたいに首を傾げた。その仕草を見てフィル君は自分フィル君の胸を押さえた。


(これって)

「やっぱり可愛い♡」

(やっぱり、落ちた)


 イグニも幻狼のクゥにこんな感じで落ちていたな。


「貴女達は?」


 やっと私達に気付いたお頭?が私を見てる。


「こいつ等は…」


 ガルフォンはまだお頭?に抱きついたまま、お頭?に耳打ちをした。


「そう。ガル、離して」

「了解」


 ガルフォンは渋々ながら離れると、お頭?は私に近づいて来た。


「はじめまして、ボクはティティ」


 ティティは幻狼を撫でで


「このこはフゥ。…

(え!クゥって)


 私が前世むかしの幻狼の名前が出てきて戸惑っていると


「どういうことですか?」

「…ガル。お願い」


 フィル君の質問にティティはガルフォンに短くそう言った。

 ガルフォンはため息を吐いた。


「仕方ないな」


 また真っ暗な異空間に私達4人と1匹は移動した。


「ティーニャって」


 私はティティから出た名前に困惑して、フィル君は辛そうに瞳を閉じた。

 ガルフォンは切なそうに眼線を逸らす。


「ボクは…


 ドッキン


「…

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