Escape from despair ~絶望からの脱出~

如月瑞悠

1 奪われた故郷

 皆、一度は何かに追い込まれたことがあるはずだ。

 感情、環境、何が原因かは時と場合で無限に変わる。

 その最低状態から、打開策を見つけて行く。

 これは、魔女であるが故に、絶望に追い込まれ、そこから脱出する話。

 

 これは、一つの伝説であり、少女が絶望から脱出する伝説だ。


「ー進め」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ー燃え盛る。それはまるで地獄絵図。


 少女が目を開けて、見た光景。

 炎が、村を包んでいる。

「え…なんで?」

 目覚めたばかりの少女には、困惑の意しかない。

 起きたら目の前が炎だなんて、誰が想像できるだろう。

 大事なものが、絶望という炎にかき消されてゆく。

「なんで…何が…どうなっている…こんなの‥」

 

 ー絶対におかしいと。


 大陸全土を襲う大火事となった出来事。

 『伝説の大火』とよばれ、人々が最も恐れた日だった。

「ーあれから、9年…」

 街道をゆっくりと歩きながら彼女は言う。

 忘れてはならない、家族を奪ったことを。

 忘れてはならない、数々の死者が出たことを。

「ーだから私は、そのことを忘れないために。」

 それが自分に課せられた使命だと思った。

 大火についての文献は少ない。

「だからこそ、今ある情報を頼りに向かわなきゃ。」

 向かうは『古の主塔』。

 この大陸に5ある塔の全てを管理する、中央塔。

 この街道を抜けた先にある中枢都市、『ライハトゥン』の塔。

 へ、向かうはずだった。

 先日、巨大な精霊が討伐されたらしい。

 街道沿いで話している二人の男が目に入る。

 別段、通り過ぎようとしたがー。

「大火ですかですね‥そうだ、弟が…」

 槍を背負う男が『大火』と発言したのだ。

 あの人たちなら大火について知っているかもしれない。

「あの…」

 槍ではなく、剣を持っている男に話しかけてみた。

「ウワッ!…と、すまない。どうかしたか?」

 いきなり話しかけたのだから、動揺して当然か。

「大火について…なにか知っているんですか?」

 単刀直入にー。

「名前は…?」

 剣を持つ男が名前を聞いてきた。

 ーにしてもこの人、どこかで…

「名前は―。」

 一度咳払いをして。

「私は、エルダ。エルダ・クリステロイ…」

 剣を持つ男が目を丸くする。

「先代英雄…リアラ様の旧姓…その子孫か…」

 確かに、英雄がいる家系のことは自分も知らされていた。

 話がずれた。

「あの…大火について、何か知っているんですか?」

 剣の男は一つ間を開けてー。

「何故、大火について知りたい?君と関わりがあるのか…」

 次の瞬間、大地が揺るいだ。

 槍の男がその槍を構える。

 剣の男も鞘から剣を抜き取る。

 私も魔法杖を取り出す。

「つい先日『セカンド・ユグドラシル』が片付いたばっかなのに…」

 剣の男がー。

 そうか。この人が先の精霊を討伐した人の一人。

 剣の男が、周りを見渡す。

 この揺れは何が…

 何の変化も感じられないが、どこかで何かが起きたことは確かだ。

「エルダ。とりあえずここから離れよう…向かうはコモリッチ領だ。」

 今いるヴィクテリアとは離れた場所。

「ー。分かりました。そこで大火について話してくださいね…」

 とりあえず、ヴィクティリア領から離れることにした。


 随分走っただろう。

 森の中。

 この森の奥の関所を通ればコモリッチ領だ。

 一方で、中央塔とは逆方向だ。

 次の瞬間、大気が揺れる。

 まるで、空気を斬り裂くような刃が背後から近づいてくる感覚。

「なに!」

 私より早く反応した者。

 バルドルと言っただろうか。

 剣で私を守り切った。

 真空波が来た方向。

 そこには一人の男がいる。

 赤と黒の禍々しいコントラストの服を着た男。

 茶髪に紫の眼。

 武器を持たずに堂々と仁王立ちするその男。

「誰だ…いきなり先制攻撃とは…」

 バルドルと男が睨み合う。

「俺は、アニマスの『追随者』第4祭祀、フィルギャ・ソイルド。」

 そう名乗った男の目に殺意が宿る。

「この道は通させないよ。命令なんでね。」

 フィルギャは煽るかのようなことを言う。

「お前なぁ・・・なんだ?ヴィクトの復讐か?」

 バルドルも煽りに便乗する。

「違う!」

 フィルギャが腕を振り下ろし、真空波が飛ばされる。

 バルドルがまた、剣で跳ね除ける。

「俺は、七星様の命でここにきた!あんな汚らわしい奴知るか!」

 酷いいいようだと、槍の―翡翠が目を細める。

「お前も魔力保持者…何故そんなに…」

 これまであってきた者は全員魔力保持者だ。

 ヴィクトも、リヴァスも、そしてこいつも。

「神紅族の血を消したいのか!」

 フィルギャの瞳孔が縮んで行く。

「神紅族…黙れ、そんな汚らわしい血と一緒にするな!」

 フィルギャが拳を固める。

「もうキレた…逃げればいいものを…ここまで怒らせて…」

 フィルギャが何かを持ち上げる仕草をする。

 次の瞬間、大地が揺るいだ。

 先程と同じ揺れ。

「お前が‥揺れの正体!」

 フィルギャの周りの地面が歪む。

 歪んだ地面から岩が出現した。

「お前の能力は…岩を操る…ですかい…」

 翡翠が槍を構えながら呟く。

「俺を貶した報復だ!」

 次の瞬間、岩がバルドル目がけて飛んでくる。

「あぶっ!」

 バルドルはジャンプし、岩が大地に亀裂を入れる。

「避けれる瞬発力はあるのか…じゃぁ、これは無理かな?」

 何も起こらない。

 が、突如バルドルの前に岩が出現、そのままバルドルを突き飛ばした。

 どうにか受け身が取れたようだ。

「フィルギャ!」

 翡翠がフィルギャに飛び掛かるもー。

 フィルギャが指を鳴らし、頭上に岩が出現。

 そのまま下敷きに―。

 ならないように、私が魔弾を当て、岩を砕く。

「助かっただぜです。」

 相手は相当手強い。

『勝手に、目的を変えるな。』

 第三者の声の後、フィルギャがいきなり倒れる。

「く…魁星様…」

 どこからともなく現れた男。

「お前の目的は戦うことではない。」

「す…すいません…」

 フィルギャが土下座し、謝罪する。

「迷惑をかけたな。だが、一つ。ここから先には行かせない。」

 そこだけは譲らないようだ。

「コモリッチ領に何かあるんですか?」

 禁忌を質問してしまった。

「ーそうか。」

 魁星は、魔法杖を召喚する。

「クリネス・ポルタント・エクスプロージョン!」

 その詠唱で、森が騒めく。

 大地が爆ぜた。

「退散だ!」

 バルドルが撤退を命じた。

「反対方向に!コロルバス領!」

 三人はそこで撤退したのだ。

 ー魁星に勝つことは出来ない。


「フィルギャ…お前、次目的を誤ったら…後は無いからな?」

 それだけ言って魁星は、紫の煙となり消えた。


 コロルバス領


 雪が降っている。

 コロルバス領は、氷の魔力が最大値まで高い所

 この世界で『雪』は、大気中の魔力が凍ったものをいう。

「コロルバス領…」

 私が目にしたのはボロボロの廃集落だった。

「炎が新しいな…」

 元々、家の材木であったであろう瓦礫。

 バルドルが炎を消しながら言う。

「爆発でもあったんですかいね…」

 翡翠も炎を槍で突きながら呟く。

 もう何度目かの爆音だ。

 それもすぐ近く。

「次はなんだ⁉」

 バルドルが後ろを振り向く。

 爆炎舞い上がった雪、火の粉、瓦礫、人の残骸。

「アーアーアーアッ…足りないです…まだですよ‥」

 何だろう…この雰囲気は…

 集落が破壊されただろうに人がいる。

 爆破した側の人間。

「お前は…誰だ?」

 三人がそれぞれの武器を取り出す。

「おいおぃ…まだいやがったのか‥いいですねぇいいですよぉ。」

 全身が怠そうなその男。

 目の下には巨大なクマ。

 その目からは殺意が伝わってくる。

 糸切り歯に付いた血液。

 血まみれの腕。

 奴のものではない。

 誰かの、ここの集落の人のもの。

「何なんですか…あなたは!」

 思わず魔弾を放ってしまった。

「若いっていいよなぁ…」

 魔弾を腕で跳ね返した男。

 背は170ぐらいだろうか。

 禍々しい赤と黒の服装。

「お前らの行動範囲…大陸全土なのかよ…」

 バルドルが見たのは服装。

「おいらは、アニマス第8祭祀『戦喰者せんしょくしゃ』ドールグス・ラシル。」

 その場にいた三人が奴を睨んだ。

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