幼女とクラスメイトと姉

まこ

第1話 ナプキンと幼女

 年の離れた姉には逆らうことはできない。


 加賀 リョウ、高校1年生の春休み。僕は今、ドラッグストアの生理用品の棚へと向かっている。


 スキーに行った姉は左腕と右足首の骨を折って入院した。姉がまた何かをやらかしたのかと心配したが、暴走したスキーヤーを受け止め、自分だけ崖から転げ落ちたそうだ。先日退院したが、まだ松葉づえ生活である。


 そして、姉の生理である。


 母は旅行中。父は仕事。松葉杖の姉は僕を使った。

 図書館まで散歩した帰り道に姉から電話。


「リョウ、今お金持ってる?」


「あるよ。プリン?」


「ごめん。ナプキン買ってきて。ついでに、とりたまのプリンも!」


 「とりたま」はケーキ屋の店名である。とてもおいしい。姉はプリン、母はロールケーキ、父はチーズケーキが一押しである。要するに何でも美味しい。ちなみに僕はシフォンケーキ。待て、それどころではない。


 ナプキン…


 こんなことなら財布を持ってくるのではなかった。


 姉からナプキンの包装の画像が送られてきた。40枚入りを買えと…




 生理用品の棚の前に5歳くらいの女の子が立っている。じっとナプキンを見つめている。お菓子のコーナーは隣のレーンだよ?


 近寄りがたし…


 ナプキンを見上げる幼女。

 少し離れた場所からその幼女を見つめる男子高校生(僕)。


 怪しすぎる。


 しゃがんで作業をしていた店員さんが幼女に気がついた。

 少しの間じっと幼女を見つめ、その後僕を見てニヤリと微笑む。

 30歳くらい? 髪の長い美人の店員さんである。母や姉と何か話をしているのを何度か見かけたことがある。僕の事も知っているのかもしれない。

 何故ニヤリと笑った?


 幼女は立ち去りそうにない。行くしかないと判断。

 ゆっくりと近づきながら姉から送られてきた画像で目的の商品を確認。

 よりにもよって幼女の真正面、棚の一番上の段にある。


「前を失礼。」


 幼女の横に立ち、一声かけてから商品を手に取る。速やかに離脱せねば…


「それはおススメなのか?」


 幼女に声を掛けられ驚いた。少し乱暴な口調とハスキーボイスが妙にマッチしていてかわいい。いや、そうではない。何故ここ(ナプキンコーナー)にいる? そして何故話しかけた?


「僕にはちょっとわからないよ。(男だし)」


「店長のおススメもない…」


 幼女はそうつぶやき、どのナプキンにするか悩んでいる。姉のお使いだろうか? は〇めてのお使い? 買うものの難易度が高すぎないか? あと、店長のおススメは無いぞ。店長、男だから。


「私も同じのにする。届かないから取ってくれ。」


「こっちに数が少ないのもあるけど、これでいいの?」


「多い方がお得だ。」


「なるほど。」


 小さいのに経済観念がしっかりしていらっしゃる。言われた通り、40枚入りを渡した。


「私も同じのにしよーっと。」


 突然背後から若い女性の声がして、僕と幼女の間、後ろから手が伸びてきて僕らと同じ商品を持って行った。なんてこった。いつの間に? 全く気配を感じなかった。


「売れ筋? 売れ筋なのか!」


 幼女はナプキンを上にかかげ喜んでいる。くの一のような若い女性は「おさきに~。」と言って去っていった。


「お兄さん、ありがとう。」


 幼女は僕にお礼を言って、レジへと向かった。


 残された僕は、ナプキンを手に 一人 生理用品コーナーでたたずむ。


 一瞬 呆けてしまったが、僕もレジへと向った。


「ちょっと!」


 店員さんに呼び止められた。僕を見てニヤリと笑った人である。何もしていませんよ。僕は悪い高校生じゃないよ。心の中でスライムのようなことを言う。


「あの女の子、一人で来たみたいだから、家まで送ってあげて。」


 何故僕が? どういうことだ?


「最近、小学校の近くで不審者が出たのよ。あの子の家、あなたの帰り道の途中にあるから。とりたまとあなたの家の中間くらい。」


「わかりました。」


 これは断れない。ケーキ屋(とりたま)に寄るという事も、帰る方向に店があるため理由にならない。そもそも、不審者を出されたら断ることなどできない。

 しかし、僕の家も幼女の家も知っているとは…。きっとご近所さんなのだろう。そうか、それでニヤリと笑ったのか。ちょうどいいボディーガードがいるぞと………




 レジではちょうどさっきのお姉さんが支払いをしていた。次が幼女。その次が僕。


 幼女が商品を出した。レジのお姉さん(20代後半?)はちょっと驚いたが、幼女に値段を告げる。


「968円です。」


「しまった。プリンが買えない…。」


 幼女は小さな声で呟いたが、その声はレジのお姉さんにも聞こえたようである。


「10枚入りもあるよ。そっちにする?」


「ううぅ…、これにする!」


 幼女は少し悩んだが、そのまま買うことにして、千円札を出した。エコバックを持っていなかったので、レジ袋の5円が加わり、973円。あっ。僕もエコバック無い。


 商品を出して、レジ袋もお願いする。ナプキンを見て目を見開くお姉さん。うつむいて、肩を震わせている。幼女の前のお姉さんもナプキンだけを買っていった。つまり、3連続で同じナプキンを買う客。2人目は幼女。3人目は男子高校生。


「…973円です。」


 レジのお姉さんは、先に値段を言ってからバーコードリーダーをナプキンのバーコードにかざす。ピッと虚しく電子音が鳴った。


 気を取り直して幼女を追い、店の出口の手前で追いつく。


「ちょっと待って。」


 幼女は立ち止まって振り向いた。


「んっ?」


「あのお姉さんに、君を送って行けと言われました。」


 手のひらでさっきの店員さんを示す。


「おおっ! お隣さん!」


 なるほど。


 店員さんがこちらに手を振っている。思わず手を振りかえしそうになったが、幼女に手を振っているのだと思い至り、手は振り返さずに軽く会釈した。


 幼女は、店員さんに手を振り返した後、僕と手をつないだ。うれしそうである。


「しもべができた! 冒険の始まりだ!」


 ごっこ遊びが始まったようだ。冒険に出るなら対等な仲間にしてほしかった…


「最初はスライムだな!」


 海賊王ではなく勇者ですか。パーティーメンバーは下僕しもべではないですよ。武器はこれ(ナプキン)か? スライムに御札おふだのごとくナプキンを張り付けているところを想像してしまった。驚きの吸収力。


 それにしても、レジ袋の透明度! 中が透けて見えるではないか。


 幼女と男子高校生が手をつなぎ、それそれがナプキンを持ち仲良く歩いています…



____________________

地の文が足りてなくて説明不足かもしれません。

初めてなので見逃してください。

全13話です。


彼の苦難はつづく…

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