第11話 お似合いの2人
「もしかして・・・私の手紙・・届いていないのですか・・・?」
ノエル様は困ったように私を見た。
「うん・・僕は目を通していないんだけど・・・手紙が届いていたなんて知らなかった。ごめんね。」
「そ、そんな・・・。別に謝らなくて良いですよ。何か手違いがあったかもしれないですし・・・。」
私が言うとクリスタ様が口を開いた。
「ノエル、もう一度屋敷に帰ったら探してみた方がいいわ。何処かに紛れ込んでいる可能性もあるかもしれないでしょう?フローラ様、すみませんでした。ノエルにはきちんと手紙を探して貰うのでお許し下さい。」
そしてクリスタ様は頭を下げてきた。
「い、いえ・・・そこまでして頂かなくても大丈夫ですよ。口頭で伝えればいいだけですから。実は、ノエル様。私・・・。」
そこまで言いかけた時、何故かクリスタ様が私とノエル様の間に割って入って来た。
「フローラ様っ!この間のお手紙の内容覚えておいですか?私がボートに乗ってみたいとお話した事・・・。」
「ええ、勿論覚えていますわ。」
「それでは・・・今乗せて頂く事は出来ますか?」
クリスタ様は何故か必死にお願いしてくる。その時私は気が付いた。ああ、やはり彼女はノエル様の事が好きなのだと。だから私がノエル様とお話ししようとするのを阻んでいるのだと言う事を。
心の中で笑った。そこまでお2人が愛し合っているならやはり私は邪魔者以外の何者でもない。だったら早くノエル様にも婚約破棄をを受け入れてもらわなければ。でも今は・・・。
「ええ、いいですよ。それではお2人供、こちらへいらしてください。池までご案内しますね。」
私は笑みを浮かべ、立ち上がると2人を引きつれて池へと向かった。
そこはハイネス家の広大な敷地にある池。池の広さは約400㎡あり、白鳥も飛んでくる事がある。周囲は美しい花畑が広がり、さらには太く立派な木々も生え、緑豊かな葉を茂らせている。夏場は正に涼を取るには絶好のスポットである。
「どうぞ、このボートをお使いください。」
私は2人にボートを見せた。
屋根付きの2人乗りの可愛らしい手漕ぎボート。それを見た時のクリスタ様の瞳がキラキラと輝く。
「まあ!なんて・・なんて美しい場所、そして・・・素敵なボートなのでしょう・・・。」
両手を胸の前で組み、大喜びしているクリスタ様を目にして思った。ここにクリスタ様を連れてきて良かったと・・。そしてノエル様を見ると愛おし気な瞳で口元にやわらかい笑みを浮かべながらクリスタ様をじっと見つめている。
ああ、やはりノエル様も・・・。
それを見た時、再び私の胸はずきりと痛んだ次の瞬間・・・。ノエル様は私の視線に気づいたのか、こちらを見て気まずそうにぱっと視線をそらせた。
「フローラ様、乗せて頂いてもよろしいですか?」
クリスタ様は私に振り向くと言った。
「ええ、もちろんです。」
「それではご一緒に・・・。」
クリスタ様は何故かノエル様ではなく、私に声を掛けてきた。何故私に・・?だけど、私はボートを漕ぐことが出来ない。
「申し訳ございません。私はボートを漕ぐ事が出来ませんので・・・ノエル様と2人で乗って来てください。」
するとノエル様が私を見た。
「・・・いいのかい?」
「ええ。どうぞ。」
私はにっこり微笑んだ。何故ノエル様はそんな事を尋ねるのだろう?私に遠慮しているのだろか?私は2人の恋仲を裂く気は全くない。だって誰がどう見ても私よりもずっとクリスタ様の方がノエル様にはお似合いだって事・・・誰よりも自分が一番理解しているのだから。
「行ってらっしゃーい。」
私は池の淵に立ち、ボートで漕ぎ出す2人を見送った。だんだん岸から遠ざかっていくボート。そして仲睦まじく微笑みあう2人。そしてそれを見ているだけの私・・。
徐々に目頭が熱くなっていくのを目をこすって、私は無理に我慢するのだった—。
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