第10話 文通?

 おかしい・・・。あれから丸3日経過しているのに、肝心のノエル様からの返事が全く来ない。その代り、何故かクリスタ様からは毎日手紙が届いている。

その手紙の内容は本当にシンプルなものだった。例えば、今朝は私が夢に出てきたので幸せな寝覚めだったとか、町へアクセサリーを買いに行ったとき、私の黒髪にとても似合いそうなカチューシャを見つけたので、お揃いで買ったとか、美味しいケーキ屋さんを発見したので、今度こちらへ来るときに手土産に持って行くので一緒に食べましょう等々・・・。全て私に対するクリスタ様からの熱烈な?アプローチの内容ばかりであった。


「クリスタ様・・一体どういうおつもりかしら・・・それに肝心のノエル様からは返事が来ないし・・・。」


ノエル様から連絡が来ない限りは、こちらから再度手紙を出すわけにはいかない。


「どうせ明後日は週に1度の顔合わせの日だし・・それまでは待っていた方が良さそうね・・・。」


それから2日間・・・クリスタ様からの手紙攻撃?は続いた―。




 そして2日後―


本日はとても良く晴れた日で、風もさわやかに吹いている。私は邸宅の庭に白い木目の3人分のガーデニングテーブルセットを用意してもらい、2人が来るのを待っていた。

何て気持ちの良い風・・・。目を閉じて椅子の背もたれに座って待っていると遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「フローラ様ーっ!」


目を開けて見るとそこにはクリスタ様が私の方目指して走って来る。私は椅子から立ち上がると2人がここへ来るのを待っていた。クリスタ様の背後からはノエル様が後を追うよう走っている。その姿はまるで目の離せない恋人を愛おしんでいる姿に見て取れた。


ノエル様・・・。


私の胸がズキリと痛んだその時―。


「キャアッ!」


突然クリスタ様が躓き、地面に転びそうになった。危ないっ!


「クリスタ様っ!」


私は咄嗟に駆け寄り、クリスタ様は私の腕の中に倒れこんだ。


「クリスタ様・・・大丈夫ですか?」


「え、ええ・・・。だ・大丈夫です・・・。」


クリスタ様は私の腕の中で言うと、顔を上げて私を見た。


「キャアッ!」


途端に真っ赤になるクリスタ様。


「クリスタッ!フローラッ!」


追いついて来たノエル様が走り寄って来た。


「こんにちは、フローラ。クリスタの事、受け止めてくれてありがとう。大丈夫だったかい?クリスタ。」


ノエル様が心配げにクリスタ様に声を掛ける。


「え、ええ・・・。私は大丈夫です。フローラ様・・本当に有難うございます。」


「いいえ、お怪我をされなくて良かったです。」


私が笑みを浮かべると、さらにクリスタ様はますます顔を赤くする。

・・・本当に何て愛らしい方なのだろう。彼女ならばノエル様が恋に落ちても仕方が無い。


「さあ、本日は天気も良くて風も心地よいので、お庭で定例会を開かせて頂こうと思い、ご用意致しました。本日用意したのは冷たいハーブティーで、ペパーミントですよ。喘息の緩和に良いそうです。」


私は瓶に入れてあるペパーミントティーを2人のグラスに注いだ。


「まあ、私の為に・・・本当何て素敵なお方なのでしょう。私・・フローラ様から頂いたお手紙、大切にとってあるのですよ?」


「ええ、私も大切にしまってあります。」


そこまで言って、私はノエル様を見た。彼はずっと笑顔で静かに私とクリスタ様の会話を聞いている。・・・それにしても何かおかしい。何故ノエル様は手紙の事を話して下さらないのだろう?ノエル様が黙っているのなら私の方から聞き出すしかないか・・・。


そこで、私は息を吸い込むとノエル様を見た。


「あの、ノエル様。お話があります。」


「話?」


ノエル様は視線を私に写した。


「はい、お手紙についてです。何故返事を下さらないのですか?」


「え・・?手紙・・・?何の事・・・?


ノエル様は首を傾げた―。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る