第8話 気が付きました
部屋に帰ってきた私は制服から濃い緑色のロングワンピースの普段着に着替え、部屋の中央に置かれた白い丸テーブルに椅子を寄せて座ると手紙を開封した。便箋は上部に可愛らしい花が描かれており、フローラルな香りもする。
「まさか・・・この手紙に香水がふりかけてあるのかしら・・・?」
便箋に花を近付け、再度嗅いでみるとやはり得も言われぬ良い香りが残っている。
「とても素敵な香りだけど・・・女性が同性に送る手紙に香水って振りかけるものなのかしら・・?」
首を傾げつつ私は手紙に目を通した。
拝啓
親愛なるフローラ様。1日に何度もお手紙を出す非礼をお許し下さい。ノエルから話を聞きましたが、フローラ様の邸宅はとてもお庭が広くて大きな池迄あり、さらには小型のボートもあるそうですね。なのでご迷惑でなければ2人きりでボートの上で過ごす時間を作って頂けないでしょうか?どうぞよろしくお願い致します。
かしこ
「・・・。」
クリスタ様の手紙を読んで今度こそ私は確信した。間違いない・・やはりクリスタ様はノエル様の事を好きなのだ。それで・・私とノエル様を2人きりにさせるのが不安で・・・。
「そう言う事だったのね・・・。」
私は呟いた。つまり、私はあの本に出てきた悪役令嬢と同じ立場にあるという事だったのだ。どうりで似たようなシチュエーションが多々あったし、マルティナ様とベアトリーチェ様も浮かない顔をしていたはずだ。
「これって・・・私は2人の恋仲を引き裂く邪魔者って事よね・・・だって無理矢理ノエル様に婚約者になるように財力で迫ったのだから・・・。」
だけど・・・。
私は本当にノエル様が好き。そして好きな人に幸せになって貰うのが私の一番の望み。ノエル様を幸せにする事が出来るのは自分だと信じて疑っていなかったけれども・・・。
「私が相手では無かったって事よね・・・。」
だとしたら、私に出来ることはただ一つ。ノエル様と婚約を破棄する事。でも・・もう両家で婚約は結ばれてしまったのだから、私から一方的に婚約破棄を願い出ても相手が受け入れてくれなければ意味はない・・・。
そこまで考えて私は思った。
「そうだわ・・・。私が直接ノエル様に婚約を破棄にしましょうと伝えればいい事じゃない。ノエル様が好きな相手は私では無いのだから、婚約破棄の話を絶対に受けるに決まっているわ。」
そして、私は手元にあったクリスタ様からの手紙をチラリと見た。
「口頭で伝えるのは・・辛すぎるわ。ノエル様の喜ぶ顔を見るなんて耐えられそうにない・・・・。クリスタ様の様に手紙に書きましょう。でも・・・その前にお父様にノエル様との婚約を破棄したいと伝えなければ・・・。」
その時・・・
コンコン
ノックの音が聞こえた。
「フローラ様、お茶とケーキをお持ちしました。」
私付きのメイドのアリスの声が聞こえた。
「ありがとう、アリス。中へ入って。」
「失礼致します、フローラ様。」
茶色の髪に大きな瞳がとても可愛らしいアリスがトレーに私が大好きなハーブティ―とケーキを持って入って来た。
「どうぞ、フローラ様。」
カチャリとテーブルの上に紅茶とケーキを置くアリス。私はそんなアリスをじっと見つめる。すると私の視線に気づいたのかアリスは顔を赤らめてこちらを向くと言った。
「あ、あの・・・フローラ様?どうされましたか?」
「いいえ、アリスはとても可愛らしい女の子だと思って見ていたのよ?」
そしてニッコリ笑うと、ますますアリスは可を真っ赤にさせる。
「そ、そんな・・・か、可愛いだなんて・・・。で、でも・・フローラ様・・本当に私の事可愛いと思って下さるのですか・・・?」
何故かスルリと指をからませてくるアリス。
「フローラ様・・・私・・・。」
え?え?何故・・・何故アリスは顔を近づけて来るの?!
「ね、ねえ・・・アリス・・・?ちょっと、待ってくれるかしら・・・。」
すると、途端に目が覚めたかのようにハッとなるアリス。
「あ・・も、申し訳ございませんっ!では私はこれで失礼致しますっ!」
アリスは頭を下げると、まるで逃げるように部屋を去って行った。
・・・それにしても今のは何だったのだろう?
私は首を傾げつつペパーミントティーにローズマリーケーキを口にするのだった—。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます