第6話 淑女たちの会話

 学校へ行く前に私はクリスタ様への手紙を書き終え、メッセンジャーにお願いした。時計を見ると、丁度登校する時間になっていたので鞄を持って外へ出ると既にエントランスの前に馬車が止まっていた。


「おはようございます。フローラ様。」


御者のボビーさんが帽子を取って挨拶をしてくる。


「おはよう、ボビーさん。それでは学校までよろしくね。」


「はい、かしこまりました。」


返事の代わりに笑みを返し、馬車に乗り込むとガラガラと音を立てて馬車は走り始めた。


「さて・・・学校に着くまでの間、読書の続きを読みましょう。」


鞄から本を取り出すと、パラリと私はページをめくり、本の続きを読み始めた。


それにしても本の内容は凄いものだった。小説に登場する悪役令嬢の妨害にも負けずにヒーローもヒロインも互いの恋を決して諦めない。2人きりで内緒のデートをしていても、悪役令嬢は高らかな笑い声と共に現れて、とことん2人きりの邪魔をして、強引にヒロインからヒーローをその場から連れ去ってしまう―。


 ここまで読んだ時、馬車が止まった。


「フローラ様。学校に到着致しました。」


「そう、ありがとう。ボビーさん。」


私はしおりをページに挟むと鞄にしまい、馬車を降りた—。




 午前の授業が全て終わると、友人のマルティナ様とベアトリーチェ様が現れた。


「フローラ様、ランチを食べに行きましょう。」


「今日はお勧めランチがおいしそうでしたわよ?」


マルティナ様とベアトリーチェ様が交互に言う。


「本当?それはとても楽しみだわ。」


私は立ち上がると、3人で並んでカフェテリアへと向かった。




「まあ・・・本当に今日のお勧めランチは美味しそうだわ・・・。」


私はトレーの上に乗ったメニューをうっとりとした目つきで見た。


斜めに3枚にスライスしたバゲットの上には3種類の具材が乗って綺麗に並べられている。エビとアボガド、卵とジャガイモ、そして残りはデザート風にフレンチトーストにベリーソースがかかったスイーツ風のバゲットがとてもカラフルで美しい。ポタージュも美味しそうだし、デザートにストロベリーババロア迄ついている。


「それでは頂きましょう?」


ベアトリーチェ様は満面笑みを浮かべて、手をパチンと叩いた。


「「「いただきます。」」」


3人で声を揃えて楽しい食事が始まった。年頃の女性達が集まれば話の内容は決まって来る。おのずと恋愛話に花が咲いていた。



「それで、私の婚約者ったら酷いんですよ。私よりも男性の友人を優先してしまうのですから。」


マルティナ様は口をとがらせて、バゲットを手に取った。


「私なんか、折角2人きりでお会いしても彼はすぐに昼寝をしてしまうんですから。この間なんて話が出来たのはたったの10分ですよ!」


憤慨したようにベアトリーチェ様はスープを口に運んだ。


「それで?フローラ様はどうですの?」


マルティナ様が興味深げに尋ねてきた。


「あ・・・実は私は・・・。」


私は今の状況詳しく2人に話した。

つい最近、ノエル様の遠縁の女性がこちらに移り住んできて、週に1度の顔話わせの日にノエル様と現れた事。初めて会った日は喘息の発作が出て、すぐに2人供帰ってしまった事、・・・次の週も一緒に現れて、さらに今朝手紙を受け取った事・・・。それらを説明していると、何故かマルティナ様とベアトリーチェ様の顔が曇っていく。マルティナ様に至っては心なしか目に涙まで浮かべている。


「あ、あの・・・お2人供、どうされましたか・・?」


黙り込んでしまった2人に私は戸惑い、声を掛けた。すると・・・。


「フローラ様っ!負けないで下さいねっ!」


「ええっ!私達は・・・何があろうともフローラ様の味方ですわっ!」


マルティナ様とベアトリーチェ様が交互に力強く言った。


「は、はい?あ・・・ありがとうございます・・・。」


訳の分からないまま。私は2人に礼を述べるのだった―。

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