灰色の君の世界の見え方
真白
出会い
これから話すことは、真実であり僕が出会ったある女の子との物語だ。
僕は高2の夏休みに補習を受けに学校へ行っていた。
「失礼します。」
職員室に入ると担任の坂田が真新しいうちの学校の制服を着た女子生徒と話をしていた。
「おお、西野来たか。紹介するよ、新学期から転校してくる日比野だ。」
その日比野と呼ばれた女子生徒はこちらを向き、軽く会釈をした。
新学期から転校してくるなんて珍しいと思った。
「日比野は家の都合でこの時期だけどこっちに越してきたんだ。」
坂田が僕の心の中を覗いたように言った。
「西野は補習に来たのか、後期からは赤点取るんじゃないぞ」
「はい、善処します。」
僕が職員室を出ようとしたとき、日比野は、少しだけこちらを見てほほえんでいたとように見えた。
これが僕と彼女の出会いだった。
夏休みが明け新学期が始まりクラスへ入るといつも通り教室は騒がしかった。
僕は席に着き時間になるまで本をカバンから取り出した。
本を読んでいる最中、周りの音がよく聞こえる、クラスの誰と誰が付き合い始めたとか誰が誰に告白をしたとか毎回同じことで盛り上がっていて楽しいんだろうかとおもいながら本を読んでいるとホームルームのチャイムが鳴った。
「お前ら席つけー、今日は転校生を紹介しま~す。」
坂田がやる気のない声で言った。
「え、まじ?センセー男ですか、女ですか!?」
「はい、そこ静かに、転校生は女の子です」
クラスの太田がガッツポーズしているのが視界の端で見えた。
「じゃあ入ってこーい」
ガラガラと音を立てて日比野が教室に入り教壇の前に立った。
「初めまして、日比野瑠衣といいます。よろしくお願いします。」
「え!?超かわいい!めっちゃ美人じゃん!」
太田やクラスの大勢が騒いでいる。それもそうだろう。長い黒髪に華奢とも言える身体、そして顔は最近人気のモデルによく似ている。こんな子が転校生としてきたなら騒がしい人たちはいないだろう。
「じゃあ日比野の席は~あ、席用意するの忘れちまった。なら西野の隣、大森が今日は休みだから日比野、今日はあそこで我慢してくれ。」
「わかりました。」
日比野が僕の隣の席に座る。周囲からの視線が一斉にこちらを向いた。特に、男子の目線が痛い。
「西野くん、よろしくね?早速で悪いんだけど教科書見せてもらってもいいかな?」
「あ~そうか、日比野、教科書なかったな。西野、今日一日頼んだぞ~。じゃあホームルーム終わり~」
あの教師・・・全部僕に押し付けやがった・・・・坂田が教室を出ていくと周囲ではこそこそと話声が聞こえる。あの美人と隣かよとかあいつ後で殺す。などのほとんどが妬みなどがこもった内容が聞こえてきた。
そんなことがあって僕の一日はすごく慌ただしく、そして早く過ぎていった。
放課後になり日直の仕事を終えて教室に戻ると日比野が窓を眺めていた。
「あ、西野くん、日直の仕事お疲れ様。」
気さくな笑顔で彼女は話しかけてくる。
「日比野はまだ残ってたのか、どうしたんだ?窓の外なんか眺めて。」
一瞬間を空けてから日比野は
「ううん。なんでもない。ただ夕焼けがきれいだなーって。前に住んでたところはあんまりよく見えなかったから。」
夕焼けが見えない?そんな馬鹿な事あるかと思ったが聞くのを遠慮しておいた。
「確かにきれいだけど、夕焼けの色なんてどこでも変わらないだろ?」
「あはは、そうだね。色はみんなおんなじだよね。」
妙に間があるというか歯切れのある答えだった。まるで自分だけ別の何かが見えているような、そんな答え方。不思議だったがそれ以上は詮索をしないことにした。
「でも、そろそろ帰らないと先生に怒られるから帰った方がいいぞ。僕ももう帰るから。」
僕はカバンを手に取り教室を出ようとすると、
「西野くん。よかったら一緒に帰らない?」
いったい何を言っているんだろうか日比野は。
「え、なんで僕?」
「ほかに帰る人が誰もいないからだよ。君しか今この状況で誘える人いないもん。」
これは…一緒に行かないとどうなるのか…一応聞いてみるか。
「もし一緒に帰らなかったら?」
「西野くんのうちまでついていこうかなー?」
「それ軽い脅迫だろ…わかったよ、一緒に帰るから。」
こう言わないともし本当についてこられたら困る。
「よし、じゃあ帰ろうー!」
そして日比野と僕は二人で帰ることにした。
二人で話すのに議題は困らなかった。学校の説明や日比野が引っ越す前のこともある程度教えてくれた。
「西野くんは本当に面白いねー。学校で人気者になれるくらいだよ。」
と言った直後、日比野は信号が赤の横断歩道を渡りだした。
「あ…」
日比野の横にトラックが迫ってきていた。僕は日比野の腕を思いっきり引っ張って自分のいる歩道側に引き寄せた。間一髪のところで日比野を助けることができ、
トラックは目の前を通り過ぎっていった。
「お前、何してんだよ!轢かれたいのか!」
「え…ご、ごめん…信号見てなかった…」
日比野は明らかに信号を見ていた。なのに信号を見ていなかったと言い張っている。
「嘘つくなよ。お前は明らかに信号を見ていた。なのになんで渡ったんだ。」
「っ…」
僕が問い詰めるように言うと日比野は口を震わせながらこう言った。
「灰色なの…」
「え?」
「見えてる景色が全部…灰色なの。」
隣を通過していく車の音よりも僕にはその日比野の言葉だけがはっきりと聞こえた。
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