どこにでもいるある男が少し不思議なことに巻き込まれる物語

@kobayashininana

第1話 靴下

ある男がいた。

男はアパートに住んでいる。二階建てのアパートだった。

そこは古ぼけた洋館、よく言えばレトロな作りをしており、廊下や階段等の共有スペースにはそれなりの装飾が施されており、好みは別れそうであるが、好きな人は好きという感じの建物であった。玄関を入り、そのまま一回の廊下を通り抜け、奥にある階段から二回に登ると言った構造になっていた。住人はそこそこいるようで。何度かすれ違ったことがあり、挨拶を交わすような関係であった。男は二階の一番奥の部屋の住んでいる。


ある日、男は朝から用事があり、支度を済ませ部屋を出た。玄関に向かうため一家へつながる奥の階段を降りていく。

すると踊り場の隅に靴下が落ちていることに気がついた。バスの時間も差し迫っていたため、それをよく見ることもなく、階段をくだって一階の廊下を通り玄関を出た。外は肌寒かった。

同じ日の夕方、用事を済ませて帰ってきた男は、自室へ戻るために一階の廊下を通り階段を登っている。その時はすっかり忘れていたが、踊り場にはまだ靴下が落ちていた。そういえばそんなこともあったなと思いつつも、男は興味も示さず踊り場を通り過ぎさらに階段を通り二階の一番奥の自室へ向かった。


次の日、休日だったがなんの予定もなかったので、たまった洗濯物を処理するために共同で使っている一階の洗濯場へ行こうと思った。

部屋中から洗わなければならないもの集めカゴに入れと洗濯がを終わるまでの時間潰しのために一冊の本と一緒に部屋を出た。かなりの量をため込んでしまっていたため、自分の足元が見えない状態であった。

慎重に階段を降りていき、共同洗濯場にある洗濯機に洗濯物をねじ込みスイッチを入れる。洗濯場からは、洗いを終わったあとの洗濯物を干すために庭に出られるようになっている。

その日の天気は快晴で、季節にしては心地よい風が流れていた。とは言っても寒いことに変わりはないため、洗濯場においてあるヒーターのスイッチをいれ、その前に腰掛読書にふけっていた。


やがて、洗濯も終わり、それらを庭にある共同の干しざおの、なんとなくいつも使っているため、このスペースは男のスペースとかしているいつもの場所に干した。乾くまでは時間がかかるので、男は自室に戻りのんびりすることにした。洗濯場を出て階段を登る。踊り場で視界の端に昨日みたものと同じ靴下をみた。だれの落とし物だろうか、とも思ったが、それ以上の関心もなく階段を上り自室へ向かった。


その後男は部屋で本の続きを読んでいたが、いつもまにかうたたねをしていた。するとそとから、ぽつ・・ぽつぽつ・・・ぽつぽつぽつ・・・と雨の降る音が聞こえてきた。男はああ、雨か、と半覚醒状態でそれを認識したが、しばらくして、雨!!!とことの重大さに気がついた。洗濯物が一家の庭に干しっぱなしである。男は急いで階段を駆け下り洗濯物を回収した。なんとか、2回目の洗濯を回す必要はなさそうであった。ふぅ、と一安心して、カゴいっぱいの洗濯物を抱えて自室に帰った。


また次の日。男は仕事に出かける。

いつも通り身支度をして、部屋を出て一階へ続く階段へ向かう。

男は、そういえば、と思い踊り場の隅に目をやると靴下はまだ残っていた。

その日、男は靴下をちゃんと視界に捉えた。靴下は片方しかなかった。ならばいつか持ち主が片方しか手元にないことに気がつき、もう片方を探しに来るだろう、と思いいそのまま階段を降りて行った。


男が仕事から帰ってくると階段の踊り場にはまだ靴下が落ちていた。

誰かが確認した形跡もなく、朝と同じような形でそこに落ちているように見えた。

そこにまる三日ほど放置された靴下を拾ってやろうとも思ったが、片方だけの靴下を拾っただけで何も徳はなく、管理人へ落とし物として届けようにしても、管理人は月に一・二回共同スペースの掃除に来るくらいで、すぐに引き渡せるものでもない。

そしてなにより、落ちている靴下が脱ぎ捨てられたままの状態なのか、それとも洗濯済みの状態なのかわからなかったので、触ることをためらわせた。結局男はその日も靴下を無視して自室へ帰った。


次の日。男は仕事に出かける。

いつも通り身支度をして、部屋を出て一階へ続く階段へ向かう。

案の定、そこにはまだ靴下が落ちていた。しかも、すこし臭う、ような気がする。男は、昨日拾わなくてよかった。と、思いつつそのまま靴下を通り過ぎ仕事へ向かった。

男が仕事から帰ってくると階段の踊り場にはまだ靴下が落ちていた。誰かが確認した形跡もなく、朝と同じような形でそこに落ちている。男は、この靴下も持ち主は私と同じように洗濯ものをため込むタイプの人間なのだろうと思った。

そうすると、持ち主は自分の靴下がないことに気が付くのはその持ち主の手持ちの靴下が最後の一足になった時か、、、。確かに、そこにある靴下は誰しもがもっているようなものであり、色や柄で自分のものと判断できるようなものではなかった。それにしても朝感じた臭いは少し強くなっているように感じた。



次の日。男は仕事に出かける。

いつも通り身支度をして、部屋を出て一階へ続く階段へ向かう。案の定、そこにはまだ靴下が落ちていた。その日は確実に臭っていた。足の臭さがどのような臭いなのか男には性格にはわからなかった。しかし、臭い。いままで嗅いだことのない臭いを放っている。こんな状態になっていしまったら、親切心で拾ってあげられる人間はいないだろうと思い、男は階段を降りて行った。

男が仕事から帰ってくると階段の踊り場にはまだ靴下が落ちていた。相変わらず、そこには靴下があった。男はその臭いを嗅ぐまいと鼻を摘まんでそそくさと二階の自室に向かった。


次の日。男は休日だった。

今週もたまった洗濯でもするかと、いつものように洗濯物を集めカゴにいれ、本を持ち自室の扉を開けた。すると、臭う。あの靴下の臭いだった。二階の奥の部屋である男の部屋の前まで臭っているのだ。

男は、いいかげんにしてくれ、という気持ちになった。持ち主もそうだが管理人や他の住人たちもここまできたら無視するのではなく、捨ててくれてもいいじゃなか、思った。

まぁ、触りたくない気持ちもわかるが・・・。

そう思い、男はいったん自室にもどり、洗濯カゴを置き、代わりにマスクと軍手をつけてゴミ袋をもち、靴下のものへ向かった。案の定靴下は誰に触られることもなく、最初に見た形と同じようにそこにいた。しかし、最初と決定的に違うのは、そこから異臭を放っていることだった。


もうこんなもの早く捨ててしまおうと、息を止めて、靴下に近づき、爪先の部分を掴んで持ち上げた。


ごとん


中から「中身」が落ちた。

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