第56話 心乱れて
学校に着くと、すでにアイビーは席に座っていて、男の子たちに囲まれていた。あたしのふでばこを壊したあの三人組は、これまでとちがう、あがめるような目でアイビーを見つめている。昨日の効果があったのかな? でももし、あたしの気持ちに気づいたら、また嫌がらせされちゃうのかな?
少しこわいけど、今度は最初からちゃんと言おう。うん。がんばる。
ミチルちゃんはまだか。先に学校に着いていると思ったんだけどな。そこで、乱暴に机の上にカバンが乗る音が響いた。ミチルちゃんだ。
「お、おはよう、ミチルちゃん」
さっきは無視されちゃったけど。負けないもん。井川くんのこと、誤解されていてもいい。それでもミチルちゃんは、大切なともだちだから。だけどやっぱりミチルちゃんから返事はなかった。そっぽを向いたミチルちゃんに、これ以上声をかけづらくて、すごすごと席に戻った。
だめっ。涙があふれてきちゃう。
『もうしばらくのがまんだ。いいか? 今日は特別授業があるからな。それまでなんとか気持ちを保つんだ』
アイビーは、おはようのあいさつもなしにそう言ってくるけれど。あたしの心は複雑で、返す言葉は見つからなかった。
だけどその特別授業っていうのが頭に引っかかって、それってなにって聞き返した。
『ついに来るんだ』
まさか、シーちゃんがっ!? そんなわけがないよ。アイビーは昨日、あんなこと言っていたけれど、やっぱり相手はご当地アイドル。ご当地とはいえアイドルなんだし、やっぱりいそがしいと思うの。まさかね、まさか――。
「ほい、みんな座れー」
担任の谷川先生が教室に入ってくるなり、いつも強面の先生がめずらしくにやりと笑った。
「いつも授業をまじめに受けているみんなにごほうびがある。なんと、今日は特別に『パーフェクト・ロイヤル・スリーエンジェル』がやって来るぞ」
ええーっと、教室は一気にわき上がった。じゃあ本当に、アイビーが『パーフェクト・ロイヤル・スリーエンジェル』を呼んじゃったの!?
「しかも三人そろっておいでだ。朝礼が終わったら、身なりを整えて校庭に集合するように」
校庭にっ!? って、さらにざわめいたけれど、『パーフェクト・ロイヤル・スリーエンジェル』のホームグラウンドは商店街の中心だから、広い方が落ち着くのかな?
でも、三人とも本物の天使なんだよねぇ? 大丈夫かなぁ?
っていうか、みんなすぐに井川くん見るよね。もうすでにでれでれな井川くん。あー、もー、これはこれでなんだか複雑だし、どうするんだーっ!?
つづく
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