第43話 黒い感情

 かんちがいだったらいいんだけど、ミチルちゃんって、時々、すごい目であたしをにらむことがあるんだよね。それって、あたしがにぶいからなのか、それともシーちゃんに似ているからなのかはわからないんだけど。でも、ともだちって呼べる存在はミチルちゃんしかいないあたしいとって、これは大事件だ。


 なんとかして、シーちゃんと似てない顔にならなくちゃいけない。


『そんなの、無理に決まってるじゃないかよ?』

『アイビーも協力してよ!! あたし、ミチルちゃんに嫌われたくないもん』

『しょーがねーじゃん? 天使になった以上、人間を引きつけちまうなにかが出てきちまうらしいから。今回井川をあきらめさせたとしても、またべつのだれかにおなじように思い込まれることだってあるかもしれない』


 そんなぁー!! やっぱり早く、ミチルちゃんの恋をかなえて、パパを解放して、人間にもどらなくちゃっ!!


『そうあせるなよ。あまりつめこみすぎると、ゆうべのあいつが出てくるぞ?』


 そう指摘されて、あたしは息を飲んだ。もうひとりのあたしだ。黒い感情むき出しの、いじわるな顔をしていた。あんな顔をしたあたしも、自分の中にいるんだってことを、わすれちゃいけない。


『っていうかユイナさ』

『なに?』

『たまには授業に集中しろよ? あとで勉強教えるのなんて、おれ嫌だぜ?』

『わ、わかってるんだからぁっ!!』


 いや、本当は今どのページまで進んでいるのかもわからないんだけどさ。あー、頭の中がぐるぐる回るー。


 あたしは制服の上から十字架を握りしめた。その姿を例の三人組に見られていたなんて、少しも気づかなかった。


 つづく



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