【第二幕 郷愁編】聖剣士リヴァイア物語 ~ リヴァイア・レ・クリスタリア ~
橙ともん
第五章 再会……、木組みの街カズースとシルヴィー・ル・クリスタリア
第39話 だから、あなたの物語は、まだ終わっていないのですから――
ここは飛行艇ですよ――
「……えっと、リヴァイアと初代法神官ダンテマさまの間に誕生したのが、初代クリスタ王女で……その14代目の末裔のクリスタ王女が、私の母様で」
飛空艇のデッキに無造作に積んである木箱の上に座り、レイスが腕を組み思考を整理している。
「……ルンはサロニアムの王子で、その王子に使えていた上級メイドがイレーヌで……、そのイレーヌは実はアルテクロスの14代目の法神官ダンテマさまのニンジャで……。リヴァイアは大昔のサロニアム王子に求婚をしたけれど、オメガオーディンからの毒気によって恋破れて」
「パパンとママンは、私の育ての親で……」
「私は……、ルンと究極魔法レイスマを発動して……して、それが混血の聖剣ブラッドソード……だよね?」
「があああああああああ……!!!」
頭を掻き毟るレイス――
「もう! 更に話がややこしくなっちゃったじゃないのよ! ルンってば!! あんたのせいだからね!」
どさくさに紛れて、ルンに八つ当たりするレイス姫である……。
姫として、みっともないったらありません……。
一方のルンはと言うと――
「……っで、なんで俺こんなの持ってんだ?」
ルンが気にしている自ら持っているその……それは、
混血の聖剣ブラッドソード――である。
器用に飛空艇の舵を切りながらも、右手にしっかりとそれを持っている。
「なあレイス……。俺達ってさ、アルテクロスの飛空艇仲間だったよな? 俺達って……。なんだか電波塔の一件以来、ずっと損な役回りを与えられてないか?」
「もう……しょうがないないじゃない。これが、私達の運命なんだからね」
木箱の上で腕を組みながら、レイスはうんうん……納得して。
「……って、しょうがないですませるのか?」
世界の平和と飛空艇のクエストこなしを天秤に掛けて、綱渡り状態のようなボコスカ道中……。
いつの間にか、聖剣エクスカリバーは混血の聖剣ブラッドソードと名を変えて、その所有者もリヴァイアからルンになり……。
「おかげで、私も究極魔法レイスマを発動できたんだから……」
片目を閉じて、なんだかしたり顔をする。
「……おかげでって、もしかしたら発動してダークバハムートに食われてさ、エネルギー源にされてたんだぞ」
舵を握る手は離さず、聖剣もしっかりと握りしめながら……さながら自動車でハンドルを握りながらコーヒー缶を持っているような状態なのだけれど、ルンが後ろに座るレイスに顔を向けて、
「まあ、そ……そうなんだけどね。……ってルン王子! ちゃんと舵取りしてくださいな。あんたって器用ね。それに操縦も器用……」
九死に一生を得たレイスであるのだろう……けれど、彼女は何故か吹っ切れた様子だ。
それに対してルンはというと、これでも相方? のレイスを心配しての発言だったのに……。
「……ちゃんと前を見て……でないと、副操縦士の、この私レイスが舵取りを」
「おいおい! お前、無免許じゃん?」
ルンは当然ツッコんだ。
「あ~ら、ルン? ごめんあそばせ……」
今時、御嬢様な言葉のそれを言うのか? まあ、本当に御姫様なのだからここは黙認しよう。
レイスはレイス姫らしく……言葉遣いを新たに……。じゃなくてね、
「じゃじゃーん!!」
レイスの大声が……、でもプロペラのファンで、ほとんど声が掻き消されてしまっています。
「じゃじゃーん!!」
レイス2回目である。何がそんなに嬉しいのか?
「私ってさ、取っちゃったんだな~。飛空艇の免許をさ!!」
飛空艇の免許証を高らかに掲げてルンに見せつける。
なんだかA4用紙の古紙に筆で一筆書かれているその免許証――古風である。
「ウソ? ……お前いつの間に?」
ここでも、当然のこと驚くルンだ。
「私! ルンが知らないところで、ずっと飛空艇の教習所に通ってさ。筆記試験勉強も隠れて(隠さなくていい……)、ずっと勉強してきて……この前の本試験で、なんとなんと♡」
「もういいって、それ偽物だろ?」
「ちが~うって! 何言ってくれてんのかな? もしかして、やきもち?」
「俺はすでに取得しているだろ……」
「……ふふっ」
飛空艇にレイスの大きな笑い声がとどろいた。
「レイス……そんなに取得できたことが嬉しいのか?」
「あったり前でしょ? 晴れて私……このレイスは! 見事に飛空艇免許を取得したんです~」
してやったり感たっぷりに、語尾を伸ばしたレイスだった。
「だから今日から、私はルンの副操縦士であり、そしてそして! この飛空艇メンバーの晴れてリーダーです!! だから今日からは私のことを『レイス姫』とお呼びなさい? 分かってかしら……」
組んでいた両腕を組みなおして、さっきまでダークバハムートに食われんじゃね? も、すっかりと忘れてのレイスは……失敬、レイス姫は口角を上げての……ドヤ顔。
「……おい、レイス姫?」
ルンも、さりげなく姫と呼称する。
「……なに、ルン王子?」
呼称に呼称で返したレイス――
「副操縦士がリーダーですって、それっておかしくね??」
至極ごもっともの異議だった。
……しばし顔を硬直化させるレイス。
飛空艇のプロペラが、ブオンブオンと音を鳴らして回っている。
「……そ、それは」
一筋の冷や汗? を頬に見せるレイス、
「私が、始めから……、この飛空艇ノーチラスセブンのリーダーだったんだし~」
維持にも、ここでも語尾を伸ばして空元気に、
「こいつって……。どうしようもない自分勝手な御姫様だな。ダメダメだぞ……」
ガックリと肩を落としたルンは、表情を真正面へと向けて飛空艇の操縦に専念する。
「なによールン!! 私のことを見下して!」
頬を膨らませるレイス、それにより流していた一筋の汗が飛んでいく。
それがデッキの床へと落ちて……、サロニアムの砂漠の乾いた風にさらされると、すぐに蒸発してしまった。
ヴオンヴオンと飛行艇の羽音は続いている――
*
「なあ? あたし達の顛末をさ……どうアルテクロス領主に報告しようか?」
いつも魔銃を手に持っているイレーヌ――ハンカチのような布切れでそれを磨きながら。
「もう、イレーヌさん! 報告しなくていいですって」
はっきりと言い切ったのはアリアである。
彼女はバスケットを膝に乗せて、中からサンドウィッチを手の持って隣に座っているイレーヌに顔を向ける。
「アリア……。本当にいいのかな?」
「はいな! もう、いつもの魔銃でバキューーーン!! ……な、イレーヌさんに戻ってくださいな」
不安げなイレーヌの表情とは対照的に、アリアは天然の凄味なのか……あっけらかんな笑顔だ。
「あ……、あたしはいつもさ、魔銃でバキューーーン!! なのか?」
「はいな!」
言い切るアリア、ある意味最強の女戦士なのかもしれない。
「……そうか。でもそれは、ちょっと困るな」
髪の毛を触ってイレーヌはもじもじと……して、
「そんなこと無いですよ。かっこいい~じゃんです」
「じゃんです……っか」
その髪の毛の数本を魔銃の銃口に絡ませる……危ないよ。
それを見るや、アリアは――
「……だって、究極魔法レイスマを発動して、オメガオーディンを蹴散らしたんだからね」
ぐっじょぶ……サインでイレーヌを見つめる。
「ぐじょぶって……、アリア……あれで良かったのかな?」
「もう! いつものイレーヌさんらしくで、それでいてくれればいいんですからね」
「……いつもの……か?」
そう言うと、イレーヌは少し左右に顔を傾けて、何やら考えてみた――
「あ……あたしはオメガオーディンを倒す覚悟を決めて、サロニアムに……今まで、ずっとニンジャもしてきて……。チャンスがようやく……あって」
無事にサロニアム王の遺言を果てせて、緊張の糸が切れたのか、
「……泣かないでくださいって。イレーヌさん!」
そっとアリアが指で、イレーヌの目元を拭った。
「……いいじゃないですか? サロニアム城の上級メイドから保険屋から塩の運び屋……最後はニンジャですよ。イレーヌさんって面白いですよね? なんか、何でもできる便利屋さんって感じです」
アリアは笑った。純粋に笑った……。
「……………」
イレーヌは胸中こんなことを“怯えて”いた。
自分の悲願を達成するために、仲間に銃口を向けてしまった――ことの回想である。
恐れ多くも聖剣士リヴァイアにも銃口を向けてしまい、トリガー引いてしまった。
こんなこと……許されていいものではない。
だけれど、イレーヌにとってサロニアム王の遺言――約束は……、どうしても……
「……あ、ありがとう。アリア、こんなあたしを普通に受け入れてくれて」
イレーヌの脳裏にある言葉が、今でも呪いのように刺さってくる。それは、
『だったら……今、この場で誰が邪魔者なのかを言ってみろ』
『……あたし』
聖剣士リヴァイアからのその非常な発言に、その通りだと思った――
「……そ、そんな! イレーヌさんって畏まらないでくださいよ。私達ってもう仲間なんですから」
慌ててながらアリア、あははっ……とバスケットを膝の隣に起きてから、イレーヌに身体を寄せてくっつけた。
「まあ……オメガオーディンは何処に行ったんでしょうね。……天からの声もさっぱりと音信不通に、それはそれで平和だからいいんですけどね」
なんとか話題を変えてみたアリア――
「……あんたってさ、本当にポジティブなんだな」
「ほんとに……ねえ? 何処に行ったんでしょうか。……それは、まあ。これからって……ね! イレーヌさん」
片目を閉じて口角を上げたアリアのその表情には――イレーヌへのメッセージが込められていた。
好きだったんだから……しょうがなかったんですよね? サロニアム王のことを――
「あ、ありがと……う。アリアはいつも楽観的だな」
イレーヌの緊張の糸は、これで一気に吹っ飛んだ。
そして……ふふっと、はははっと……大きく声を出して笑ってしまった。
ヴオンヴオンと飛行艇の羽音は続いている――
「世界が綺麗に大人しくなって、ウルスン村はイレーヌさんとか法神官ダンテマさまの……ある意味虚偽でしたけれど。それ以上に、なんとサロニアムの城下が皆生き返って……みんなの呪いが解けたって」
「いやいや! 始めから生きているって」
ナイナイ……、イレーヌは手を左右に振って否定した。
「
2人は、究極魔法レイスマの発動の後の、混血の聖剣ブラッドソードが誕生した“後”の話をしている。
物音一つしなかった蛻の殻状態のサロニアム城は――それからわんさかと上級メイドから近衛兵まで登場してきて、イレーヌが放った魔銃で玉座の間がヒビだらけとなってしまってから、後始末の大掃除を――
「ああ! そうだったんですか!!」
アリアが両手をパチンと鳴らして。
「……ってことで、だ・か・ら! これでひとまず安心しましょうか? スパイのイレーヌさん!」
ニコッと両目を開いて、とびきりの笑顔を作るアリアである。
その彼女の笑顔に驚いたイレーヌが――
「……アリア。あたしのことを、軽蔑していないのか?」
イレーヌの脳裏には――瞬間に、自分がサロニアム城の玉座の間で仕出かした一部始終の“醜態”が走馬灯に映った。
「……へへっ。ご苦労様ですって」
ニコッとしたまま、アリアは両手を膝の上で重ねて深深く頭を下げて見せた……。
それから、
「だからね、イレーヌさんも笑ってくださいな」
「……あ、ああ……り……」
……がとう。
その言葉が出せなかった。出せないくらいにイレーヌは――
*
「あの……」
と聞いたのはレイスである。
「なんだ……」
不意に後ろから話し掛けられたので……、返したのはリヴァイアだ。
飛空艇のデッキから雲海を眺めていて、リヴァイアは一瞬……間を取られたと自問。
すぐに振り返ってから――
ヴオンヴオンと飛行艇の羽音は続いている――
「なあレイス! またエンジン調子がさ……」
上空の気流にも、上手い具合に乗っかったことを確認してから、飛空艇は現在自動操縦に切り替わっている。
その間にデッキに上がってきたルン。
さっきまでは、機関室に入って整備をしていて……いたら、
「あ……、後で行くからね。ルン」
……と素直に答えたレイス。
「そうか……んじゃ」
片手を上げながらレイスに返事を返して、ルンは再び機関室へと入って行った。
「……リヴァイア、私」
何かを聞こうとするレイス……、だけれど、
「レイス―― この戦いを不条理だと思ったか?」
逆に尋ね返すリヴァイアであった。
「不条理……って。い…、いいえ!」
すかさず、首を思い切り横に振って否定した。
「不条理って……。もう、これが私の、私達……ルンとの運命なんだから」
ふっ……
肩で息を整えるリヴァイア。
「運命か……、そうだな。私も1000年の呪いの人生を生きてきたからこそ……分かる。レイスの……お前のその言葉の重みが」
「リヴァイア……」
「……私はずっとお前に、最愛の妹にウソをついてきた」
「ついて……きた、だから?」
「ああ……。だから申し訳……ないと」
リヴァイアはずっとデッキから雲海を見つめて、見つめながら――
「……………」
見つめていた視線を更に下へと下げて……、ブルワークに添えていた両手を見る。
すると、リヴァイアはその手をレイスの頭へと……持っていき、
「ははっ! そ……そのことですか?」
しかし、わざとらしく……に、レイス。
ちょっと引きつった表情で、なんだかカラッと笑って見せた。
「レイス。……わが最愛の妹よ……。言わせてくれ。――私はルンに、聖剣エクスカリバーを譲った。そうしなければオメガオーディンを」
「……そ、そうですね! リヴァイア……。これからは私とルンが頑張らなきゃ♡」
リヴァイアに撫でられている髪を受けて、レイスは少し緊張気味な返答をする。
その気持ちをしっかりと身に染みていたのは、リヴァイア自身だった。
なんだか、自分の子孫まで巻き込んでしまっているオメガオーディンとの決戦――
しょうがないことは事実なのだけれど、それに巻き込まなくてはいつまで経っても終わることはないのであり。
「……すまない」
小声で呟いたリヴァイアが、腰に下げているエクスカリバーを触った――
え?
聖剣エクスカリバーって混血の聖剣ブラッドソードに変わったんですよね?
それなのに、どうしてリヴァイアの腰に剣を提げているのか?
その疑問は至極当然でしょう――けれど、その回答も簡単なのです。
赤ちゃん……です。
混血の聖剣ブラッドソードはエクスカリバーから“生まれた”新しい聖剣ということですよ。
ご理解いただけましたか?
「……まあ。オメガオーディンは、どこにいるんでしょうね」
レイスは相変わらず、少し
「いいのか?」
「何がですか?」
そんなリヴァイアは、毅然とした表情を変えようとはしなかった。
「レイス……。こんな大冒険になってしまったことをだ」
「ま……まあ、怖いですよ……。港町アルテクロスで毎日クエストをこなしていたあの頃が……懐かしいかな?」
視線を明後日の方へと逸らすレイス。
「……だったら。私のことを嫌ってもいいんだぞ」
「……い、いじゃないですか?」
「ああ、そうだ。もっと私を――リヴァイアを嫌って」
「そうじゃなくって……」
逸らしていた視線をゆっくりと雲海へ向けてから……
「何が……だ?」
リヴァイアはレイスの言葉の意味を探る。
「……ふふっ」
「……何が、おかしい?」
「だって飛空艇ノーチラスセブンのみんなは、クエストをこなして世界を冒険したいから、今ここにいるんだからですよ、リヴァイア……」
「……何の話だ?」
「冒険したいから! みんなが集まって。冒険したいから! みんな飛空挺に……冒険に……ね!! 付き物ですって……こういうのも」
「……私のせいなんだぞ。すべては」
触っていた髪の毛から手を離すリヴァイアを――
「……いつの日か、今を悩み苦しんでいた毎日が、笑い話としていろんな人々に語ることができたら……、私達の晩年もまんざら退屈しないってね」
「ふふっ……」
レイスが、また微笑む。
「……許してくれとは、思ってはいないぞ」
「だ~れも! 恨んでなんかいませんって! リヴァイア♡」
デッキの上――
景色は爽快だ。まるでアルテクロスの港街みたいにである。
サロニアムの上空はカラッからの晴天であったけれど、ここアルテクロスの上空は清々しい。
いい快晴だなってね――
ルンは機関室の窓から、
レイスは今ここで、
アリアは、
イレーヌと一緒に、
そして、
リヴァイア――
その時、みんな一斉にアルテクロスの空を見上げたのだった。
見上げて、清々しいと心にみんな思って……。
そして思った。思ったこととは――
ああ……、これが冒険なんだ。生まれてきた者としての……人生ってやつなのかな?
……って。
「……なあ、怖いか?」
リヴァイアが聞く。
「はい……ぶっちゃけ、怖いです」
両手で肘を抱え込むレイス。
飛空艇で地上高く飛んでいることもあるからだろう……。いくらサロニアムの大砂漠の上空だからといって、流石に気圧が低くて少し肌寒かった。
「……言っておくが、リヴァイアには、もう力はないぞ。混血の聖剣ブラッドソードは発動されて……、それはルン王子の手に」
「……はい。レイス姫とルン王子の間に誕生した私達の“赤ちゃん”……な~んてね」
少し頬を赤らめて、コクリと頷いく。
「ルンに聖剣エクスカリバーを……ブラッドソードを与えた。ルンにサロニアムの王冠を戴冠させた。ルンの持つブラッドソードに、この世界の運命を……私は託した。この提げている剣も、いまやただの剣に過ぎない」
腰に下げている……称するならば抜け殻と成り下がったエクスカリバー。
ちなみに、サロニアムの王冠は玉座の間にちゃーんと置いてきました。だって、あれ国宝ですからね……。
「はい。分かっています。その重責も勿論のこと――」
「そうか……そうだな。レイス姫よ」
……リヴァイアがレイスの両手をギュッと握り、
「本当に……、すまないと思っている」
憂いた顔を隠さずに見せているリヴァイアである。
「……とは言ったものの、まあ、私は今もこれからも……聖剣士と呼ばれるだろう」
「はい。リヴァイア……」
2人そろって雲海を見つめて、こういうところは血を受け継いだ者として似ている。
「私は、結局は……、聖剣士であり続けることはこの世界の必要命題なのだから」
「そんな事は……」
「そう……。そんな事何だけどな。私にとってはだが」
リヴァイア、顔を下げてしまって、
「……もう1000年を生きる呪いの人生は終わったのだよ。レイス……ルンとのお陰で」
「そんな事は……、リヴァイアの協力あってこそですって」
レイスは首を振って否定――
「リヴァイア……が来てくれたから、こうしてオメガオーディンを退治することができて。混血の聖剣ブラッドソードを完成させて……」
「ん? レイス、呼んだか? わわっ」
「もうルン君って! そんな物騒な物を持って、プロペラの修理に行こうって――」
ルンのよろける姿をアリアが見るなり。彼女は立ち上がって駆け寄ってくる。
「ルン……、大丈夫か?」
イレーヌも同じく駆け寄る……魔銃は勿論所持したままで。
「ルンて! その物騒な物を何処かに置いてくれば」
「できるか! だって、これブラッドソード……なんだぞ!」
今は光らずに、だたの聖剣として見せていいるそれを、混血の聖剣ブラッドソードを握り締めて。
「まあ、大丈夫じゃないけど……でも、リヴァイアから有難く頂戴した聖剣エクスカリバーの進化――ブラッドソードの主何だから俺は……これを、しっかりと持たないとな」
そう言うと、柄を両手で持ち直した。
「そんでもってさ! オメガオーディンをこの剣で倒さなくっちゃ……って。わわっ」
ルンの体半分以上の混血の聖剣ブラッドソード――
飛空艇の操縦はお手の物ではあるけれど、残念……剣術の心得は皆無である。
聖剣の扱いになじめてもなくて、……体重による支えのコツも分からなくて、慌てよろめくルンだ。
「ちょ! ルンって……、だ……」
「彼は大丈夫だ――」
リヴァイアが思わず身を前へと出した時、レイスの肩を持ち、
「――――」
見上げるレイスである。リヴァイアの表情からその真意を探って、
「……そ、そうですよね。リヴァイア」
それは卵の内から殻を突いて外の世界へと出てくるために、殻を自らで突けなくては、それくらいの力が無ければこれから生きていけないから……という、千尋の谷の気持ちなのだろう。
「ああ……そうだ」
リヴァイアは頷く。
「……聖剣士さま。あなたは聖剣の座をルンに与えたからと言って、でも、今でも聖剣士リヴァイアなのですから」
レイスはうんと自分が発した言葉を信じてから、頷いた。
「……な、何を言う? 私は聖剣エクスカリバーとしては――」
「いいえ、誰がなんと思おうとも……例えオメガオーディンが否定しようとも、聖剣士リヴァイアなのです」
両手をお腹の下で重ね、深く頭を下げるレイス。
「今までも……これからも……。私の大切な最愛の姉――聖剣士リヴァイアですから」
だから、あなたの物語は、まだ終わっていないのですから――
*
「なあ?」
デッキからひょいと、現れたのはルンである。
「なあレイス! あのバルブ閉めるかどうかをさ! 手伝ってくれってば」
「ふう……。え~また? ルンって。さっき自分でやるって」
なんだか、一気に肩の力が抜けたレイス。
さっきまでのリヴァイアとの会話を……、まったくルンが台無しにしちゃって。
「言ったけどさ……。やっぱさ」
「もう! ルンの飛行艇ってば……いっつもこうなんだから!」
レイスは、ちょいとイライラになる。
そして――お約束の??
もちろん飛空艇の機関室です。
「……あっ。これヤバイよね?」
「やっぱそうだよな?」
「もう、どうすることもできないのか……」
と、2人に尋ねるイレーヌ。
「ええ、イレーヌ……。これ墜落寸前だからね」
「はい、墜落しますね」
と……ルンとレイス。
なんだか、慣れた口調で……いやいや墜落したら死んじゃうよね。
もしくは、サンドウォームの食料に……。
「じゃー、どうしましょうか?」
アリアも覗いて――
何を覗いたのかといえば、ボタンである。
しばしの無言の後で、今度はスイッチポチッと押して、ああ飛空艇のトイレでした。
とか、塩があれば燃料に……。
でも、
「今回ばかりはね、ちょっと難しいみたい……だから、ルン! あれほどさ、ちゃんと整備をって!」
「俺……、整備してたってば」
「だったら? なんで、こーなるのよ!」
プンスカするレイス。
「多分さ……、サロニアムの時の無理な急上昇で」
腕を組みながら、ルンが飛空艇故障の原因を思慮してみる。
「急上昇で?」
「完全にエンジンが、オーバーヒートしたみたいだ……ぞ」
「オーバーヒート……ねえ。相も変わらず、この船って――」
レイスがかなり落胆する……なり、
ボコッ!
「ほんと! 使えない。この……ボロ飛空艇って」
スカートの裾をおもいっきりたくし上げるなり、右足をマストにぶつけた。
「おいって! 俺のノーチラスセブンを蹴るな。御姫様のすることじゃないぞ。それと、俺の飛空艇のことを悪く言うな!」
「いやいや……。ボロいやろ……あ~あ、この船って肝心な時に役に立たないったら」
「いやいや……。すでにサロニアム城からの帰路なんだから、今は肝心な時を過ぎているぞ」
レイスがグチをこぼす。それをルンが飛空艇の弁護を自ら――
「やめろって、レイス!」
「ちょ……なにさわって」
ルンが止めに入ったはいいものの、レイスの足を掴んでのこと、当然スカートがたくし上げられて――
「見るんじゃないわよ」
「見てないって……だから」
「うるさいってば! バカルン!!」
ボコッ!
「――ねえ、リヴァイア!」
「なんだ?」
リヴァイアがレイスに返す。
「あのさ、あなたの浮遊魔法でさ……」
両手を握りし締めての懇願レイス。そのジェスチャーは、まさに神頼み聖剣士頼みの姿である。
「……………」
しばらくリヴァイアはシンキングしてから、
「いやいや、無理無理だ! むりむり、定員オーバーだ!」
レイスの怪しく迫ってくる視線の意味を理解した。
「第一にMPがキツイし……。それに、私はもう普通のリヴァイア・レ・クリスタリアだし……」
それでも、飛べることには変わりない――
リヴァイアがタジタジ。なぜかここで“普通”を強調する。
「……んじゃ? どうする?」
ルンが両手を頭の後ろに当てて開き直った?
「もうさ……落ちちゃってさ、このままアルテクロスの大海原のクラーケンに一層の事……」
イレーヌがボソッと……何言ってんの?
「嫌や……」
「まあまあ、レイスさん。落ち着いて、」
「嫌や…………」
「レイスって、落ち着いてください」
「レイス姫……。今のはじょ……冗談だから」
なだめるイレーヌ。だったら冗談でも言っちゃダメだからね。
「サンドウォームに食われるより、わたしゃクラーケンの方が嫌や……」
レイスのサンドウォーム恐怖症は尋常ではなかった。
「だから、落ち着きましょうって」
アリアがレイスの背中を摩って、なんとか落ち着かせようとする。けれど、
「だって! クラーケンってさ! あいつ獲物を食うときに毒針刺して麻痺させて……そんでもって……」
ブルブルと、身体を震わせて想像するは、クラーケンの触手にある毒の牙――
「だから……冗談だから。それ以上想像するな。レイス姫――」
頭を抱えて左右にフリフリの混乱しているレイスに、まあまあ……と、イレーヌがなんとか諌めようと必死になっている。
「食われたくない、食われたくないって……。クラーケン嫌や!!」
誰でもそうだと思うぞ……
「おいレイス! 落ち着いて――」
リヴァイアもレイスに寄り添う。
「リ……リヴァイア……たすけて」
まだクラーケンも何もいないから……。
身体がガクガク震えて、それでも必死にリヴァイアの手をとって、自らの自制を整えようとするレイスである。レイスの肩をさするリヴァイア……
「……まあまあ、ここは私の故郷に行きませんか?」
「故郷?」
突如、アリアが何を言うかと思えば――
「ええ! 魔法都市アムルル――私の故郷へ大海峡を越えた、近いですしね」
「魔法都市アムルルって……」
ルンが聞く……。
「ああ……、アムルルか」
「イレーヌさんご存知ですか?」
「……あたしは、あんたのこともしっかり調べたからな。あの……」
イレーヌは、なにやら怖い様子だ。
「確か? 大魔導士の末裔しか住むことが許されない……。魔法都市アムルルだな」
リヴァイアがレイスの両肩に手を添えながら、アリアに、
「はい! ……私がその大魔導士ドガウネンの末裔のアリアですから。まあ……、捨てられちゃった最後の弟子ですけれどね。でも……何かしら皆さんのお役にたてるかと」
そういうと、
「多分、ですけれどね……追放の身ですから」
アリアはそのまま俯いてしまった。それでも口を開けて、
「ごめんなさい。……訳あって、今まで隠してきて」
「アリア!」
思わず駆け寄るのは、イレーヌ。
「……お前は、皆に何も隠さなくていい」
そっとアリアの肩に手を乗せた。
「イレーヌさん 何もかも知っているんですよね?」
ちょっとだけ、涙ぐむアリアがイレーヌを見つめる。
「……ああ、それが私の仕事だからな。許してくれ」
続く
この物語は、フィクションです。
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