第67話 大美和さくら先生? このままで、いいのですか??
「……」
1人憮然と見つめているのは、当然、新子友花で――
目の前でイチャイチャと、なに鼻の下伸ばしてんのか。
このバカ勇太よ――
という具合に、ちょいと嫉妬し怒っている。
視線はデレデレ感丸出しに照れている忍海勇太の、そのニヤついた両目に対して、頬を硬くしたままの表情を作りながら、その心中は当然のこと、
(こいつ、ほんまに……なんなんだ?)
呆れ果てている嫉妬の女子高生――
そこへ、彼女の腰にグイグイと肘をくらわすは東雲夕美だった。
「友花ちゃん? ライバル多くなったね~」
グイグイ……、グイグイ。
よせばいいのに、こういう時に油を注いで火刑に勢いをつけてくる人物を、本当に幼馴染と思ってしまっていいのか?
そう、新子友花に再考を促したいのだ。
……にゃ!?
ハッと我に返り、隣でニヤつく幼馴染に気が付いた新子友花。咄嗟、恥ずかしい時に思わず叫ぶ彼女の口癖を披露。
「ラ、ライバルって……。夕美さん? 何を勘違いされているのかなぁ……」
「うっそだ! 友花ってさ、忍海君のことを慕っているんでしょ?」
おお……、言葉もグイグイときますねぇ。
硬くなっている新子友花の表情は、青天の霹靂の如き幼馴染からのブッチャケにより、更に石化の如く硬直感を増したのだった。
突然、そのようなあからさまに質問をされるとね……。
人間って……生き物は、とくに、なんだかんだツンデレデレな性格なんだかれど、センチメンタルな教会で一人見せる新子友花って主人公にしてみたら、
「お……、お慕いなんかさ! ……し、していないってばん!」
語尾の日本語がラノベ部員らしくない使い様になったということは、新子友花は……つまり分かり易い性格だ。
青春で恋愛して……よろしいですね。
――思わず、身体を宙に浮かせた新子友花だ。
まるで、猫が後ろに飛んだかのように大きく、ピョン! と飛び跳ねる。
「え~? そんなのことないでしょ……、友花ちゃん」
「あるある……ってば! 夕美さま……」
「べつにさ、慕っててアリアリじゃんさ?」
グイグイと、新子友花の急所を突く突くは幼馴染の東雲夕美――
べつに意地悪でもなく、かといって好奇心からくる女子達のパジャマトークでもなく。
彼女は純粋に聞いてきているだけの、ただ純粋な質問だった。
でも、新子友花から聞こえる東雲夕美の質問内容は――
『新型なんとかウイルス……、本日の京都府の感染者数は777人! 史上最多!』
みたいな……、うわ~これフルスロットルしやいますか~。
教えてくれるな! どこで調べたんだ! いつ数えたんだ?
数える暇あったらワクチン早くくれい。
*
「まあ、こちらもですね~」
クルりと向きを変えて大美和さくら先生が、新子友花と東雲夕美の2人をニヤニヤした表情で見る。
「青春まっしぐらって、ねえ……。何だか羨ましいですよ。先生も懐かしいな~って思えてくるんだもん」
推定年齢27歳――
文化祭でやらかしたこと、聖夜祭でやらかしたこと、
目的のためなら手段なんかど~でもいい?
末恐ろしい国語教師の大美和さくら先生。
ラノベ部の部室で繰り広げられている慕情? を『青春』という綺麗な言葉で水に流してしまうのは、大人としての処世なのでしょうか?
はたまた、国語教師としてのボキャブラリーの柔軟性なのでしょうか?
それとも、「あ~あ、永遠の青春があったらいいのに」と本気で思って、未来のネコ型ロボットから『なんとかボックス』を奪い取るなり、すぐに電話を掛けてしまうような……ティンカーベルもビックリくりくりな空飛ぶ子供?
「せ……、先生も! そんなことを言わないでって!! くださいってば!!」
「え~そうですか? 新子友花さん? 先生はべつに青春まっしぐらなあなたは、羨ましく感じているだけですから」
「お……大美和さくら先生って」
ヴァレンタインのチョコレートから始まった、ラノベ部の部長――忍海勇太へのラブラブアタック。
自分は出遅れてしまっている?
と……内心にそう抱くのは、頬を赤らめている新子友花だろう。
ああ聖人ヴァレンタインさま……(ジャンヌ・ダルクじゃないんだ……)
どうしてこんな真冬日に、女子が男子に配るチョコレートカーニバルを生み出した。
どうして……あげなきゃいけなくなったチョコレート。
め、迷惑じゃい……
「これじゃ、ま……まるでギリでもあげないあたしって、自動的にダメ女というレッテルがつくってシステムじゃん」
わなわな全身を震わせる新子友花は、自分が座っている席からムクッと立ちあがると……
「んもー!!」
である……。
言わせてもらうが、新子友花。
ヴァレンタインデーにチョコレートを配るのは、儀式でもなんでもない。それに聖人ヴァレンタインの殉教日にカーニバルと称することも違うと思う。
聖人ヴァレンタインは、神を信じて殉教の道を選んだのだから、それを迷惑と言うことは……それこそカトリック全体から見ても遺憾だろうと思うのだ。
――んもー!! を、しばらく凝視している大美和さくら先生の口を少し開けて、
「まあ、いいじゃないですか?」
両手を胸の前に出して、ドードーと新子友花を落ち着かせた。
「だって、先生は思うのですよ……」
「思う……ですか」
両目に、少し涙粒ができ始めている新子友花は思わず
「ええ……」
まあ、先生の話を聞いてくださいね……
両手をゆっくり下す大美和さくら先生は、そう言いたげな唇を緩めてから、
「新子友花さん……」
肘を抱くように組む大美和さくら先生は、
「あなたは、青春まっしぐらのさ
「……だ」
瞬間、言葉を詰まらせる。
そんなことを……あっさりと一言『青春』だからって教えられても、今自分が体験しているこの青春時代なんて……何がいいのやら。
新子友花には、よく分からない……。
文化祭の出し物――『あたらしい文芸』のメイン小説にも同じことを書いたっけ?
大美和さくら先生はどうして、そんなに青春青春とこだわっているのだろう……て。
「……だって、先生のその仰り様って、なんだかあたしへの……そのプレッシャーに感じてしまうんです」
両手の指をツンツンしながら、新子友花が正直に自分の青春というキーワードに対する思いを声に出す。
「……そ」
今度は大美和さくら先生が言葉を詰まらせる。
でも、すぐに――
「先生はね……、青春を生きている新子友花さんに、そのよく分からない青春という“概念”に対して、これからも新子友花さんがライトノベルを好きになってくれるのでしたら、これからずっとその”青春”という言葉を
「……もらえたら?」
新子友花は、会話の語尾の力を緩めてしまった大美和さくら先生を気にして、先生の顔を見上げ覗く。
「ええ……、もらえたら」
先生の視線……、まっすぐに部室前の戸棚に飾っている『あたらしい文芸』の表紙を見つめていて、
(良い……ラノベ小説家に。もしかしたら成ってくれるんじゃないかって――)
「兎に角、十二分に聖ジャンヌ・ブレアル学園の学園生活を満喫してほしいので~す」
さり気なく、本心を隠した大美和さくら先生だった。
*
「そだよ……。友花ちゃん? 和気藹々なコミュニケーションのジャンヌなんだから。そこはもっとこう寛容さ、部活をしようね」
「意味、わからんわ。あんたさ……夕美さん? 何言いたいのかな?」
腕でグイグイと……、またもしつこく突いてくる東雲夕美に愛想をつかす新子友花。
もはや、そのグイグイに抵抗する気分でもなく……勝手にやってろと彼女を横目に流し見つめる。
そこへ新城が――
「ふふーん……」
ササッとススっと歩み寄ってくる。
「新子……。語るに落ちるとはこの事で~す」
(言わなくいいことを。それに、意味も分からね……って)
「あ……あたしさ、何も語ってな~いけれどさ」
新子友花は自分の腰まで伸びる金髪の先を指でクルクル回しながら、負けん気に返した。
「でも! 新子は落ちていま~す。落ちちゃいました~」
「お……落ちた?」
「ウイ! で~す」
「ああ……そーですか」
新城・ジャンヌ・ダルクの発言パターンは承知している。
この変に覚えただろう日本語からの言葉も、次第に慣れてきた。
「ふふーん。さては新子! このジャンヌの行ないが……あんた羨ましいんでしょ?」
「……はにゃ?」
新子友花の頭上には、大きく“ビックリマーク”が浮かんだ。
不意打ち一発、猫パンチを食らってダウン寸前――変な日本語も絡まっている新城・ジャンヌ・ダルクのその発言に、よく理解できずにいる。
「ウイウイ! 新子は、あんたゲームオーバーですさ~♡」
「ゲ……ゲームオーバーて」
意味が分からん――と思うは青春まっしぐら新子友花。
「ウイで~す! ヴァレンタインデーのチョコレートパン食い競争で、新子は後ろ手にピョンピョン飛び飛びで……でも! いっこうに、テグスにぶら下がっているチョコレートパンに口が届かな~い。そんでもって、周囲のライバルはさっさとパンを加えてダーリン勇太のもとへとゴールイン! でも、新子友花はいまだにピョンピョンと飛び跳ねているドブウサギさんですね♡」
腕を組み言い切ったとばかりにドヤ顔で、その顔を見せ付ける新城・ジャンヌ・ダルク。
その相手はというと――言わずもがな、金髪山嵐からさらに格下げされた? ドブに浸かったウサギさんの新子友花である。
「……図星だね。友花!」
神殿が横からヒョイと顔を出してくるなり、新城・ジャンヌ・ダルクの肩を持つ。
「にゃ……、愛……。あんたもそっちがわにゃんだね……」
忍海勇太、東雲夕美。
新城・ジャンヌ・ダルク、神殿愛。
ここに、四面楚歌が完成した……。
対峙するはヤマアラシなのか、ウサギなのか、ネコなのか?
新子友花の憑依ぶりが純情愛情過剰に異常。ヤマトナデシコ七変化の様相を見せる――
『ドラゴンキングにへんし~ん!』
新子友花が正体をあらわした……
「昔っから、あんたそういうところ……わかりやすいね」
その昔っていつからなんだ。この間、入学したばかりだろう。
「わ……、わかりやすくなんか……」
「いんや~。友花ちゃんってさ、かなり分かりやすいと思うけど……」
両手を頭に当てて右に左にブラーんとする東雲夕美は、幼馴染である新子友花をフォローする気は毛頭なく……。
それで幼馴染なのか? 腐れ縁じゃね?
「……にゃ、……にって。みんなして」
東の青龍・南の朱雀・西の白虎・北の玄武、
見事に部室に陣取る4人から結界を張られている、四面楚歌状態まっしぐらの新子友花だ。
「せ、先生……」
だから、なんとかこの状況を打開してほしい……という、一心な思いで大美和さくら先生にヘルプする。
「まあまあ……」
すると、コクリとしてから先生、
「本当に、分かりやすいってのも、青春ですね~♡」
フォローする気は毛頭もない顧問の先生だった。
(ただ単に、部員達の青春まっしぐらを見たいだけじゃね……)
「せ、先生まで……ちょいとな! せんせいって!」
んもー!!
いつものように、彼女の感極まった……、
両手を肩幅に下げてから、同じく両足も肩幅に広げて、新子友花の見せ場を彼女自ら演出してくれてありがとう。
……それから、
「お、おい……お前って」
「だから! お前言うなって!!」
自分の席からスタスタと歩いて行き、その行先はというと部室の扉だ。
「ちょっと、友花――」
「友花ちゃん」
「新子?」
ガラガラ……
部室の扉を開けた新子友花――
刹那、飛び出してしまう
「新子友花さん……」
それを、『しまった』と思い、席から身を上げて彼女を止めようと、でも時遅く。
「……」
顧問としての……ミス? 大美和さくら先生はしばらく沈黙してしまう。
しかし、
「青春まっしぐらですね……。ああ、とっても羨ましいですよ。新子友花さん!!」
両手を頬に当てあながら、先生はポッと微笑んだのでした……。
大美和さくら先生? このままで、いいのですか??
続く
この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます