第59話 聖夜祭 「なあ、俺達って神殿愛と親友だったっけ?」「だから、それを言うなって!」
――夜の教会は神秘的と言っていいのか?
照明は落とされて輝いているのは、聖人ジャンヌ・ダルクさまの像と、その隣のジャン・ブレアルの像だけである。
学園の生徒全員が教会内に集合している。
この学園の教会は三階建てである。
生徒達は、それぞれの階の渡り廊下のような通路に、ずらーと整列している。
一年生は3階、二年生は2階、三年生は当然1階という具合にである。
――生徒全員が両手で胸前にロウソクを持っている。
さながら看護師の
作者は、この胸前の蝋燭を小学生のクリスマス会で経験したことがある。
みんなで歌を歌って、その後蝋燭を指でつまんで消すのです。
熱いと思うでしょ? 実は、全然熱くないのです。
別に信仰心でもなんでもありませんよ。
蝋燭は、芯を摘まむと簡単に消せるんです。
それだけです。
それはいいとして――
神殿愛がラノベ部の部室で教えてくれたように1階の長椅子に、付属幼稚園と保育園の子供達が着席している。
みーんな、お行儀良く着席しています。
中には、そわそわ緊張気味の子供達も幾人かいますね。
当然だね。
教会に来ることなんて、ほとんど、めったにないからね――
♪♫~ ♫♪♬~
聖夜祭、すでに始まっていて――
聖歌が教会内に響き渡っているけれど、子供達には……なんだかよく分からない様子。
でも、じっと口を閉じてお行儀よく座っている。
中には隣の友達と、コソコソとお話しているのがチラホラと……。
それを保護者が『こら! 静かにしなさい』と小声で叱っています。
子供達にとっては聖歌よりも、この後の学園からの『クリスマスプレゼント』が目当てなんでしょうね。
その通りです!
*
聖ジャンヌ・ブレアル教会の聖夜祭の舞台袖――
「なあ? ひとつ言ってもいいか?」
教会1階の簡易に作られた舞台袖で待機しているのは、忍海勇太である。
「あ……あによ~? あたしさ、集中してるんだからさ……」
同じく、舞台袖で待機しているのも、新子友花。
何を待機? どういうことかな?
「なあ、俺達って神殿愛と親友だったっけ?」
「だから、それを言うなって!」
ジト目で睨む新子友花――
その相手は、隣にスタンバッている忍海勇太――
「いくらなんでもさ、親友の頼みだからって。だからって、……メインで寸劇ってのはさ」
「メインって言うなって、勇太! 寸劇だぞ!!」
新子友花が、肘鉄を一発食らわす。
思いっきりくらったから――
「……お前これ、暴力だぞ」
と、忍海勇太が直接に直訴する。
「ちがわい! 愛のムチじゃい」
ムチも肘鉄も、同じ系統だと思うのは作者である。
「思い出すじゃない! ……文芸誌を! しょうがないじゃない愛がどうしてもって」
新子友花が思い出したのは、
『新子友花と、新しい文芸―― まあ、偶然♡ 友花のための文芸誌みたいね』
だったか?
文芸誌のメイン企画を、ド新人部員の新子友花が任された……忌々しい記憶だ。
以下は回想である――
『ほんと! ゴメンね! 友花と勇太様!!』
ラノベ部の部室だ――
神殿愛が両手で拝みながら、
『もうさ、生徒会で決定しちゃったんだ。聖夜祭の寸劇やるって。理事長にもサインもらっちゃたし。もう変えられないの』
こちらもド新人生徒会長の神殿愛――
生徒会の雰囲気に呑み込まれて、
『ほんとうにね~。生徒会ってノリだけでイキッているだけの寄り合いみたいなもんだから……』
まったく説明になっていないよ。
『ほんま……決まっちゃものは、しょうがないよね。ここは生徒会長を立てる意味を兼ねて……いるから。だからね、ほんまに……お願い! だから、やってよね』
「……やってねって、あれパワハラもんだな」
再び舞台袖へとシーンは変わりました。
両腕を組みながら、シミジミ冷や汗を流している忍海勇太が、
「……なんで、俺達寸劇しなきゃいけないんだ」
腕を組みながら、しみじみ……理解に苦しんでいる。
と、新子友花が彼を改める――
「んもうって! 勇太、もう言うな。これから始まっちゃうんだから」
吐き出すように、あるいみうんざり感を表情に見せながら、横目を細めて……もう一発……いや違った。
肘鉄膝蹴り……ついでにパンチにビンタ。
「……お前、これから寸劇するのに暴力とは、役者が死ぬぞ!!」
「……そじゃない! 死ぬのは、あたしなんだから」
「いや……誰か忘れていないか?」
「ああ……勇太。あんたも死ぬんだっけ??」
――そしたら、
「ねえ? 勇太様……感謝感激ですわ」
神殿愛が2人に歩み寄ってきた。
「ねえ? 勇太様―― この舞台袖って、なんだか暑いですわね……」
というと、神殿愛が胸元のリボンを緩め始めて……。
それを新子友花、しら~っと。
「ねぇ、勇太様……。やっぱり……ここ暖房が効き過ぎですわね……」
と言ってから、今度はブラウスのボタンを……
「……勇太様が快諾してくれたからこそ……、今こうして無事に寸劇を始められますから」
「……神殿。俺は快諾してないぞ」
組んでいる腕に、一層の力を込めて忍海勇太が……そしたら、
「あ~ら。快諾してくれて
話をスルーするのは神殿愛だ――
「本当に、ここ暖房が……これはサービスですわ。勇太様」
ブラウスのボタンを更に外し始めて……それじゃブラジャーが見えちゃうぞ。
否……。
あんた、見せる気かい!
羨ましい――なんて作者が思っていたら?
「……おい、愛って。あんた、いつから痴女になった?」
ち、痴女なんて言葉、はしたないよ。
「あんたの行動は、本当にはしたないぞ! それでも生徒会長かい!」
至極、ごもっともな新子友花の指摘だ。
「この痴女で淫乱……。洋風じみた座敷童子……。おい! 愛って。あんた色目使うのか……ここで勇太に」
「……………」
袖に流す……神殿愛。沈黙する。
……んで、
さりげなく、ブラウスのボタンを掛け直した。
「……もう言うな。親友のお頼みなんだからな」
今度は、忍海勇太が新子友花に肘でグイグイと突きながら……。
「でも、神殿愛は俺達の親友なのかって……話は疑問が残るけれど。まあ、ここは役得として――」
「言うなーーーーて!! ドスケベか! 勇太よ」
なにさ! ブラウスのボタンを緩めたくらいでその気……になってさ。
呆れそっぽ向いてしまった新子友花、顔を赤らめている。
「……」
その表情を、覗きながら見る忍海勇太は、
「お前さ、痴女は言うなよ……。同じ部活の仲間なんだからさ」
ポン……って具合に、彼女の金髪頭に手の平を添える。
「お前、まだ新入部員レベルだからだぞ……」
「……うん。そ、だね。……ご、……ごめん」
目を左右に上下にキョロキョロして動揺した。
「ち……痴女は、ちょい言い過ぎかなっけ?」
「でも、お前って、なんだかんだ言って神殿と張り合うよな?」
「そ……そうかな?」
「まあ、成績は月と
「そ……、今それを言うなってば!」
あーウザい。どーせあたしの成績は下の下です~。
心の中で『い゛~だ』を連呼する。
そんでもってから、キリッと忍海勇太を睨んだ新子友花である
「友花も勇太様も……、ほんと~に……ごめん」
両手を合わせて、それを2人に向ける神殿愛――
「頼める人が、本当に2人しかいなかったんだ……」
「愛……。それって、生徒会長としての人望薄いってことだよね」
「……まあ、そっ……なるかな?」
頬に指を当てる神殿愛は、彼女の言葉を否定はしなかった。
「……だからって、勇太に色目で落とそうなんて」
ジト目の新子友花が更に瞼を落として、すると、
「お……落としていないって。だってここエアコン効き過ぎなのは……本当のことなんだから」
「そうかな~」
更に、ジト目ここに感極まる新子友花――
「……ん? その、どかな?? まあ……寸劇の程をよろぴくってね」
対しては、そっぽ向くのは神殿愛――
「よろ……ぴく? って……あんたって」
そんなにジト目続きじゃ~、ヒロインできないよ。寸劇の……、
寸劇?
なんだか面白そうな……展開になってきた??
*
「……でもさ、なんで聖夜祭に寸劇が必要なんだ?」
「知るか勇太! 自分で考えれば」
「……考えてるけど。さっぱり分からん」
「あ……あたしも、しゃーないから、愛の親友として部員仲間としてやるんだからさ」
「……でもさ、やっぱ」
「いいからさ、集中しろって!」
肘鉄を……と思ったら、
「お前のそれ……、意外に痛いから。やめろって」
今まさに新子友花が肘鉄を食らわせようとした……その肘を、忍海勇太は彼女の腕を握って阻止。
「……ん! だから、ここまで来ても、お前って言うな!!」
流石に、んもー!! は舞台袖では出せないだろう。
声のトーンを下げた新子友花が、
「勇太って! もう始まっちゃうんだから……真面目に演じてね」
「お前の方こそ……、だろ?」
「だから……あたしのことをお前って言うなって」
もう一度、今度こそは本気で肘鉄を――
そしたら――
「新子友花さん! 忍海君! その衣装。とても似合っていますよ」
大美和さくら先生が2人をぐるりと回ってから、微笑んだ。
「せ、先生……どうもです」
忍海勇太は、コクリと少しだけ頷いて見せる。
「先生……あ、ありがとうございます」
彼への肘鉄によるフラストレーションの勢いを逃す術を無くした新子友花が、
「……い、一所懸命に聖夜祭を成功させなきゃ」
会社で大役を任された中間管理職の昇進鬱の如く、新子友花が反動形成した……。
「友花ちゃん~。念願叶ったりだね」
東雲夕美が応援? に舞台袖へと上がっている。
「何が念願だ。変なこと言うなってば、集中してんだから」
「まあ……友花ちゃんって、文芸誌であんな大告白を書いてきたんだから……大丈夫だよ」
「どーしてそうなる?」
グイッと詰め寄る新子友花。
「大体さ! 大告白を……じゃないし」
忍海への腹いせだとは、言えない――
とくに大美和さくら先生の御前では尚更だった。
「え~? 友花ちゃん。こわ~い」
「怖くない! あ……あたしは今、集中している身何だからさ」
慣れ慣れ……いや
それを察して、
「お前さ! 子供達も来てるんだから……ちゃんと笑顔を作れよ」
お返しの肘を、ここで――
「おいおい! 痛いって勇太……。大体、笑顔でできる演目じゃないだろ……これ」
「まあ……そうだけど」
「どーしてさ! イエス様の生誕に、こんな悲壮な演目をしなきゃ……」
新子友花が舞台袖でそっぽ向く。
そのわがまま? ……ぶりに嘆息つく忍海勇太が、
「それを言っちゃ……お前、おしまいだぞ」
それを言うでない……
誰もが、自分の役をもらって生きているのだからな。
聖人ジャンヌ・ダルクが
「さあ! 新子友花さん。そろそろ出番がきたみたいですね」
大美和さくら先生……両手をパンと叩いて、
「合宿の時に子供達に囲まれて、紙芝居とお話し会をやりましたよね? あの時の気持ちを思い出してください!」
「……はい。先生」
「あの……、俺にアドバイスは……先生」
「ふふっ……。さ~てね。どう言いましょうか」
大美和さくら先生が、とぼけました。
「……そんな」
「……ふふっ。勇太よ……これが日頃の行いというやつだ」
両手で口元を隠しながらの新子友花、内心はゲラゲラと笑っていた。
それから、すぐに――
「さあ! 寸劇が始まりますよ」
大美和さくら先生が……舞台袖からチラッと客席を見る。
続く
この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。
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