第324話 素材集め(2)

 岩場の陰から覗き込むと三匹のオーガがひなたで寝転がっていた。


「ベス、先程説明したようにやってみろ」


 俺の言葉に小さくうなずくと、デスサイズタイプの『飛翔の指輪』を発動させ、さらに重力魔法を並行発動させて急上昇する。

 瞬く間に小さくなっていくベスを見上げながら先程の事を思い返す。

 

 初回の攻撃では水平飛行中や旋回中に射撃を繰り返して、無駄に弾丸と魔力を消費するだけでなく周囲の岩や樹木を無駄に破壊した。

 今回は太陽とターゲットを直線で結び、射線上のターゲットに向かって真っすぐに進みながら攻撃するように指示してある。


「ミチナガ、来るよ。ベス、凄く速い!」


 マリエルが上空を見つめたままベスの降下速度に驚いて声を上げた。


 空間感知で捉えたベスは、太陽を背にしてターゲットに向かって真っすぐに降下してくる。

 太陽の中に黒い影を視認したと思った瞬間、右端に寝転んでいたオーガの左胸と腹に穴が開き、地面が爆ぜた。


 マリエルの声が響く。


「三発撃って三発とも命中したよっ! 左胸に二発、お腹に一発っ!」


 ベスは再び急上昇して陽光の中へと身を隠す。

 何が起きたのか理解できずに慌てるオーガとベスが消えた上空とを交互に見ながら、感心したように白アリとロビンが言う。


「呑み込みが早いわね。やるじゃないの、あの娘」


「今のは三点バーストですか?」


「いや、三点バーストの機能はないから、単発を三連射している」


 俺とロビンの会話にボギーさんが口笛を吹いた。


 その間に二体目のターゲットとなったオーガが地面を跳ね、大地が穿たれる。

 今度も心臓に二発、腹部に一発だ。


 俺がオーガの傷を確認していると聖女が隣からオーガの死体を覗き込みながら聞いてくる。


「ベスちゃんの銃にはスコープが付いているんですか?」


「いや、外してある。スコープなんかよりも【魔眼 レベル2】の方が性能は遥かに上だ」


 俺の視線の先で、三度大地が爆ぜ、オーガが跳ね上がる。


 上空を見上げながらテリーが言う。


「一撃離脱とはいえ十分な戦力だな。次は乱戦とダンジョンでの戦闘を想定したものにするのか?」


「その前に弾丸一発一発の威力をもう少し抑える練習をしてからだな」


 ベスに持たせている魔法銃はライフル銃に近い形状をしている。性能的には大口径のアンチ・マテリアルライフル。

 弾丸は鋼鉄製でカートリッジに収められている。この大口径の鋼鉄の弾丸を火魔法と重力魔法を併用して撃ち出す。この火魔法と重力魔法の魔力を調整する事で射出する弾丸の速度を変え、威力を調整できる。


 右手で自身の顔に影を作って上空を見上げていた聖女が、降下してくるベスに手を振りながら言う。


「帰ってきましたよ、ベスちゃん」


「ミチナガ様、どうでしたか?」


「上出来だ。戻って早々済まないが、あの三体のオーガのアンデッド化を頼む」


「はいっ」


 はにかんだようにほほ笑むベスを迎える俺の横で、テリーがティナとローザリア、ミレイユ、アレクシスを見やりながら口を開く。

 

「さて、次は俺の女の子たちの二回目だな――」


 自分の言葉に反応して口元を引き締める四人に満足したのか、テリーが軽くうなずく。そして、レーナとマリエルに視線を向けると、苦笑しながら頼んだ。


「――次のターゲットを探してきてくれ。出来れば一体だと嬉しいな」


 先程は二体相手にして、連携が崩れていたからな。

 苦戦したとはいえ、四人で二体のオーガを相手にして無傷で勝利したのも事実だ。


 確かランバール市で参加したオーガ狩りって、二十人とか三十人単位の大掛かりな戦闘の末に仕留めたような記憶がある。

 それを考えると、メロディの作成した壊れ性能の魔道具を十二分に活用したとはいえ、あの四人も普通じゃないよな。


 ◇

 ◆

 ◇


 ミレイユとアレクシスもメロディの作成した魔法銃を使用していた。


 ティナとローザリアがメインターゲットとなるオーガと接近戦で戦い、【狙撃 レベル1】と【集中 レベル1】を持ったアレクシスが精密射撃のできる魔法銃で、前衛のティナとローザリアを援護する。

 その間、ミレイユが魔術による攻撃と連射性の高い小口径の魔法銃で、もう一体のオーガを牽制して近づけないようにしていた。


 先程は戦闘経験の少ないミレイユがオーガを牽制しきれず、一時的に前衛の二人が二体のオーガを相手にする形になった。

 だが、今回は土魔法でオーガの足場を崩すなどして、魔法攻撃と魔法銃を上手く使い分けている。


「俺の女の子たちも、いい感じに戦えているじゃないか」


 髪をかき上げて自画自賛するテリーに、黒アリスちゃんが冷たい視線を向けて言う。


「女性の奴隷を戦わせて、自分は後ろで眺めて悦に入る姿を見ると、テリーさんが悪い男にしか見えないんですけど」


 これに白アリと聖女が間髪を容れずに同意する。


「大丈夫よ、間違っていないから」


「黒ちゃんの目は確かですよ。しかも正室は血筋だけで選んだ、まだ十歳の女の子です」


「正室って、本妻の事ですよね?」


「ナイスです、黒ちゃん。本妻の方が悪い男の感じが出ていますよ」


 黒アリスちゃんの何気ない一言を聖女がテリーの心を抉る道具に変える。

 いや、悪い男の感じを出す必要ってどこにもないよな?


「本妻に十歳の女の子を選ぶって成人男性としてどうなんでしょうね?」


「普通は選びませんよねー、十歳の女の子なんて」


 黒アリスちゃんと聖女の言葉を引き継ぐようにして、白アリがさらに追い打ちを掛ける。


「選んだっていうか、カズサちゃんの頼れる相手を全部排除して、自分しか頼れない状況を作ったのよ」


 必死に聞こえない振りをしているテリーに黒アリスちゃんと聖女の声が届く。


「うわっ、悪党ですね、テリーさん」


「酷い話です、カズサちゃんが可哀想」


 テリーが可哀想に思える俺は感性がおかしいのだろうか?

 そもそも、テリーが手を差し伸べなかったらカズサ元第三王女だって今頃どうなっていたか分からない。それにチェックメイトとしての利用価値もある。俺としてはカズサ元第三王女を見事に取り込んだテリーを褒めてやりたいくらいだ。


 いろいろな事をすっ飛ばしてテリーを非難する方が酷い気がする。


「本当、酷い男よねー」


 白アリはそう言うと、アイリスの娘たちに視線を向けた。


 まずいな、アイリスの娘たちまで話に加わると、どこまで話が大きくなるか分からない。俺の事に波及する前に話を逸らそう。


「白アリ、『飛翔の指輪』の事なんだが、指輪のリングの部分をアンデッド・オーガの角じゃなく、オーガの角やアーマードスネークの鱗を削りだして作れなかったのか?」


「リングの部分? ああ、アームっていうのよ。それなんだけど、赤い狐が言うには――」


 白アリだけでなく、黒アリスちゃんと聖女も一緒になって反応した。


「――只のオーガの角だと魔力のキャパシティが不足しているみたいで、合成そのものが結構な確率で失敗しちゃったのよ」


「成功率が低いってだけで性能は変わらないのか?」


「性能も落ちるわ。旋回能力は然程さほど変わらないけど、速度は半分くらいまで落ち込んだの。幾つかあるけど試してみる?」


 速度が半分となると、ハイビータイプで時速三十キロメートル、デスサイズタイプで時速八十キロメートルか。

 実用品として十分売れそうな気がする。問題は成功率だな。


「成功率はどれくらいだった? それ次第では試験飛行をしてみる価値はありそうに思うんだが」


「残念ながら、アンデッド・オーガの角が百パーセントの成功率に対して、通常のオーガの角だと成功率は十パーセント以下よ」


 世の中に出回っているアンデッド・オーガの角の割合を考えれば、成功率は低くても通常のオーガの角で作成する価値はある。

 しかし、アンデッド・オーガの角を容易く手に入れられる俺たちなら、事情は変わってくる。


 俺は期待せずにもう一つの疑問を確認する。


「アーマードスネークをアームの素材に使った場合は?」


「単純にアーマードスネークの鱗で作られた魔道具なんて高価すぎるでしょう。物によったら国宝よ。貴族の家でも家宝くらいには、なっちゃうんじゃないの?」


 確かに売り物と考えると無理があるな。


「性能の方はどうだったんだ?」


 半ば期待せずに聞いた俺とは対照的に、白アリの瞳が妖しく光り口元が綻ぶ。


「魔力消費こそ変わらなかったけど、速度はおよそ二割増し。加えて旋回の性能が格段に上がったわ」


 ティナたちの戦闘を見学していたアイリスの娘たちから歓声が上がった。

 どうやら、決着がついたようだ。


「それは興味深いな」


 ティナたちの決着はさておき、白アリに向けてそう言うと、


「ちゃんと人数分作ってあるわよ」


 可愛らしい笑顔とウィンクを伴って期待以上の答えが返ってきた。  



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        あとがき

■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有


下記作品も投稿再開いたしました

こちらも併せてよろしくお願いいたします


『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』

https://kakuyomu.jp/works/1177354055170656979

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